足湯に凪は似合わない

音羽水来

月曜日

 月曜日の朝6時。


 クラスメイトからもびっくりされるほどの早起きが習慣であるわたしは、毎朝目が覚めたら眠気に負ける前にベッドから飛び起き、簡単に身支度を整えて、朝の日課であるランニングに出発する。

 その日の気分次第でコースは変動するけれど、約一時間ほど適当に走ったら、海沿いにある公園で運営されている、足湯でくつろぐのがなによりの楽しみだ。

 わたしが住んでいるこの町は、海沿いに多数の温泉や観光スポットがあって全国的に名前も広まっている。

 そのせいで昼間は観光客の人が沢山いるから過ごしにくいけれど、早朝は観光客の人もまだぐっすりと休んでいるからなのか、綺麗な海景色を見ながら足湯独り占めすることが出来る。


 ——出来る、出来るはずなのに、今日は、週の始まりである今日に限って人がいる……⁉

 先客がいると思っていなかったわたしは、目の前の信じられない光景にびっくりしつつ、あえて足湯に浸かっている人を観察することにした。

 いつから浸かっているかは分からないけれど、そんな長湯はしないはずだと考えたからだ。

 でも、足湯に浸かっている……お姉さん、高校生? それとも大学生? ぐらいの女の人は微動だにせず、いつものわたしみたいに海を見ながらずっと足湯に浸かっている。

 ……物陰から観察を続けるけれど、公園にある時計の時間の針が進むばかりで、お姉さんが動く気配は感じられない。

 く、悔しいけれど、わたしも家に帰ってご飯を食べて、学校に行く準備をしないといけないし、今日のところは諦めよう。


「はあ……」


 あまりのショックについ口からため息が出てしまったその時、お姉さんは物陰にわたしがいたことに今気づいたのか、突風が吹き荒れそうな勢いでわたしの方へ振り向いた。

 つまり、経緯はどうあれのぞいていたわたしと目が合ってしまったというわけで、……わたしはつい恥ずかしくなって、全速力で逃げ出してしまった。


 ……旅の恥は搔き捨て。

 って言葉はあまり好きじゃないけれど、一瞬だけど目が合ったお姉さんはすごく美人さんだったし、大方観光客の人だろうから明日にはいなくなっているだろう。


 つまり、あとはわたしが忘れてしまえばいいだけの話。

 そう思ったわたしは全力で家まで逃げ帰った。

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