第七話 (2)

 この道の奥はどうなっているんだろう。行ってみよう。

 森の道を進んでいくと森があった。泉も、池も、小川もあった。ぐるっと回ってみた。あたしの好きな木の実もたくさんあった。あたしは嬉しくなった。女の子の家に遊びに来ても、ここで木の実を食べられる。水も飲める。泉の水は美味しかった。


 夕方になる。あたしは急いで森に帰った。少し暗くなりかけた。危なかった。あれ、あの森で泊まってもよかった。森の道ができたから女の子といつでも会える。あたしは嬉しくて尻尾をパタパタしながら寝た。


 それからあたしは森の道を通ってトウケイに行って女の子のちっちゃい女の子とその友達と遊んだり、女の子の時間があれば女の子とお話したり、森に帰って森に遊びに来る子と遊んだり、忙しく行ったり来たりした。嬉しくて足が弾んで行ったり来たりしても疲れない。


 あたしはトウケイの中の森に泊まってみたりした。トウケイの中の森の周りには忙しく働く大人の建物が多く子供は滅多に遊びに来なかった。

 あたしが女の子の家の回りに遊びに行き始めてしばらく経ってから、朝、おじいさんが一人でトウケイの中の森に来てなんとか言って拝み出した。何々、何を言っているんだろう。


 「お狐様、何十年か前、この近くの森でお狐様の気持ちを踏み躙り木を伐採しました。謝りようもありません。その伐採跡には植林し今や元のようになりつつあります。また森の中も荒れていたので定期的に世話をするようにしました。魔物が時々出て来るのでなかなか手入れが難しいと聞いています。どうかご了解願います。またこのトウケイを作るにあたり伐採してしまった森が荒地になってしまっていましたが、木を植えこちらも元通りの森になりつつあります。また木を切ったら同じように木を植えることにしました。人が生きて行くためにはある程度の人用の面積の土地が必要です。どうかこのトウケイを作った事をお許しください。私はこの国を治める大君としてお狐様のお気持ちは子々孫々伝えていきます。このトウケイの森と森の道、それに繋がる森はお狐様の物です。どうぞご自由にお使いください。追い先短くなりましたが、お狐様が来てくれるようになったと聞き、最後のご挨拶に参りました。どうかこの先も我が国の子供と楽しく遊んでいただきますようお願い申し上げます」


 あたしは難しい事はわからないけど、森の伐採の事で謝られた事はわかった。子供と遊んでくれということもわかった。いい人みたいだから返事をしておこう。

 「アオン」


 「おお、ありがたや。肩の荷が降りた。これであの世とやらに行ける。ありがとうございました」


 それからしばらくして大きな葬式があった。あのおじいさんが亡くなったんだろう。あたしは森の前をおじいさんの棺が通った時、アオンと小さな声で見送った。


 それから何年も女の子とお話して、ちっちゃい女の子と遊んだ。

 ちっちゃい女の子は大きくなってお婿さんをもらった。お婿さんを紹介してくれた。ちっちゃい女の子に子供が三人できた。


 女の子はだんだん疲れて来た。女の子は家の前の森であたしと話をすることが多くなった。それから家の中で寝ていることが多くなった。

 ちっちゃい女の子はあたしを家の中に入れてくれたのであたしは女の子の枕元で丸くなった。時々女の子は目を覚ましあたしがいると安心してまた目を閉じた。


 そうしてしばらくすると「ありがとう、一緒にいてくれて嬉しかった。楽しかった」と言って眠ってしまった。

 あたしは女の子の顔をぺろぺろした。ちっちゃい女の子は女の子の手を握っていた。女の子の命はだんだん消えていった。もう目を覚まさなかった。


 あたしはまた友達を見送った。悲しい。アウ、アウ、アウ、アウ。

 ちっちゃい女の子が言ってくれた。

 「お母さんはお狐さんに友達になってもらって、そばにいてもらって幸せだった。最後まで見てもらって幸せだった。ありがとう。だから泣かないで、お願い」

 そんなこと言われても悲しいよう。アウ、アウ、アウ、アウ。

 ちっちゃい女の子も泣いた。


 あたしも参加して葬式が終わり、女の子は街の外の墓地に葬られた。

 悲しいよう。女の子がいなくなっちゃったよう。ここにいると思い出しちゃうよう。

 あたしはちっちゃい女の子にお別れを言った。

 「また来てね。約束だよ」

 うん。

 涙が出てしまう。アウ、アウ、アウ、アウ。


 女の子とよくお話した場所に咲いていた花を摘んで墓までくわえて行って、おそなえした。悲しいよう。アウ、アウ、アウ、アウ。


 森に遊びに来る子供にもお別れを言った。みんなに泣かれた。行かないでと言われた。

 あたしはそう言ってもらって嬉しい。でも涙が出てしまう。アウ、アウ、アウ、アウ。

 あたしは泣きながら森を後にした。

 

「お狐さんまた来てねー」

 いつまでも子供の声が聞こえた。

 アウ、アウ、アウ、アウ。

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