葉桜を見てくれた君

mikasa

第1話

私は自分の名前が嫌いだ、

儚くて、雨が降ればすぐに散ってしまう。

旬の時期は短く、

旬が終わればみんな目もくれなくなる。

両親は私にどんな意図を込めて

そんな名前にしたのだろう。

わからない

だけど、

私の今の姿はまさに名が体を表している。


「さくら」


4月16日ー午前11時ごろ

今日もクローゼットの服が増えている、

制服は綺麗にしまってある。

だけど私が着るのは

着慣れた灰色のパーカーだ。

袖を通し、目についた毛玉を取る。

階下に降り、朝食の匂いを嗅ぐ、

また、私の好きなメニューだ。

席に着く、

テレビの中のキャスターは今日も元気に

くだらない情報を読み上げる。

朝ごはんのトンカツを口に入れる。

味はしない。

「おいしいよ」母の背中にそう声をかける。

「ごめんね」そうかえってくる。

母は今日も目を合わせてくれない。

洗面所に行き、

伸びてきた髪をすいて、結ぶ。

結び方は一つしか知らない。

玄関の散乱した靴から

今日もスニーカーを選び、

今日も「行ってきます」と機械的に言う。


もうお昼ご飯の時間に私は家を出て、

今日もあてもなく片田舎の町を

彷徨うことにした。

どこにいくかも決めない、

気になったところに寄るだけ、

日差しは夏のように強かったが気温は

少し冬を帯びていた。


家を出て、少し歩くと

団地があり子供達の賑やかな声が聞こえる。

団地の芝生を駆けずり回り、無限の体力で無邪気に笑っていた。


子供は1日に400回も笑うらしいが大人になると

10分の1以下にまで減るらしい

そんなことを思い出した。

その通りだと思った。


団地を抜けた先には少し大きい赤い橋がある。

ここのあぜ道は少し前までは桜が満開で

桜が川に沿っているのか、川が桜に沿っているのかわからないほどだった。

桜を見にくる人で溢れ、まるでさっきの

団地のように賑やかだった。


しかし今は誰もここを歩いてはいない、

土曜日なのに誰も。

当然だ、葉桜に誰も興味なんてないのだから。

旬をすぎた桜なんてただの林になるのだ。


あぜ道を歩いていく、

奥までずっと葉桜が続いている

葉桜

葉桜

葉桜

葉桜

葉桜

葉桜の絵を描いている少女



葉桜を描いている少女だ

日光に照らされた明るい茶髪が綺麗で

髪を二つに分けて三つ編みにし、

土曜日の昼下がりに私は葉桜を見ている少女

葉桜になった私を見てくれるかもしれない少女に私は出会った。

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