カタチからの脱皮

オレの腕をブンブンと振り回しておきながらヒロは満足がいかない様子「なんでかな、もうちーと ギターを奏でるみたいにトシユキの体動かしてみたいねん」

ヒロはオレを楽器か何かと勘違いしているようでブンブンと振り回す。

キリタニが話をしていたオレの望みのカタチになるAIとはどこへ行ったのか?

ヌッコがオレの足元でピョンピョンと飛び跳ねながら「ファイト!ファイト!」と応援するとヒロは調子に乗って右手でオレを倒しに来る。


だが 無駄だ。

飛んでくるパンチをオレは 華麗にかわしていく。


「なんでや? なんで 当たらへんのや!」


素早いパンチを繰り出してみたところで所詮はオレの腕だ。

付け根を観察していればどうという事はないのだ。

「チートや!」と抗議するヒロであるがトシユキはもう何年もこの体の所有権を守り抜いてきた王座は建てではないのである。


キリタニがお茶を進めて仲裁を計るがトシユキとヒロは「表で決着を・・」と飛び出していった。

夜とは違い日中の街には人通りち活気が戻っていた。

おかしな事件が起こったからと言って一日の役割を放棄することはできないというのが社会人である。

ヒロは直接トシユキの心の中に話しかける。


「あの マイって子は誰やねん?ワイの見たところありゃ~アンドロイドで決まりやで!めっちゃ いかしとる。ワイの嫁で決定や」AIの分際で人間様の領域に入り込もうとしている。


首都「ノアの箱舟」の科学力ならばひょっとすれば可能なのかもしれないがAIは人間のサポートをする立場であり、ヒロの発言はAGI(一般人工知能)の領域に該当する違反行為だ。

それよいも何よりもぉぉぉ!!

「勝手にオレの記憶を見たな!ゆるさん」 


「やんのか? ええで!ワイのロケットパンチお見舞いしたるわ」

全く悪びれないヒロにわからせてやらなければいけない。

ロケットパンチとかいうふざけた技を、暴走する右腕をがっちりと右手でつかんで街の中をランデブーする。

騒ぎに気付いた道行く人は道を譲るが、その表情はさめざめとしていたり、ニートの一人芝居に同情を送る者たちであった。

しかし そんな人ごみの中にも心の在り方を広める者もいる。

それは ノアの箱舟からやってきたバンドラ地区の管理者兼、AI教の神父でもあるボルドーだ。

暴走するあわれなトシユキを見た神父ボルドーは俵手を広げて愛の詩を歌い始めた。

彼の心の歌はトシユキに響き、ニートであるトシユキは神父の胸の仲に救いを求めると誰もが思ったその瞬間、暴走したロケットパンチはそのまま ボルドーの顔面を「バチン!」と音を立てて直撃したのであった。

周囲に氷のような凍結した空気が流れた。

自らの心を全員が閉ざし、春が訪れるまで眠りに就こうと考えた。


硬直するトシユキと急に無言になったヒロに無情にも護衛の兵隊たちが銃を突きつけられた。

首切り台に乗せられた人のようにボルドーが合図をすればたちまち絶命する。

喉が鳴り足が震えているという事に気付いたころ。

ボルドーは立ち上がった。


彼はトシユキの方に両手を掛けるとこういった。

「ベーシックインカムの息苦しさに耐えられず、あなたは私を手に掛けました。

普通であれば銃殺刑になるところです。

ですが私はあなたを許します。

これも慈悲深いAIの神の思し召しだからです。」


住民たちは歓声を上げて拍手をし、ボルドーに心酔をしているAI教の信者たちはうっとりとした顔でボルドーを称えたのだった。

とは言って街の憲兵からはこっぴどくお説教を受けて力尽きることようやく家が見えてきた。

だが悪い事と言うのは重なるもので、救急車が止められており母親がタンカーで運ばれていく最中だった。

苦しそうな母親の横顔は弱々しくて別人だ。

集中治療室に入ってからも なかなか出てこない。

「どうしちゃったんだよ」と控室のソファーからつぶやくが母親は扉の向こうで何かと戦っている最中なのである。

何となくポケットに入っていたスマートフォンの写真を眺めていた。

母との思い出の写真は全く見当たらないが、トシユキの心をつなぎとめてくれる写真は一枚だけ入っていた。

それは 昨日撮影したマイの写真だった。


ヒロがアンドロイドなんて言っていたが間違えているとはいえあながち悪い表現じゃない。

マイの女性的魅力というのは胸が大きいとか瞳が大きいとかじゃない。

子供っぽい体付きなのを除けば、顔のパーツのすべてが適当な大きさで揃っているということなんだ。

そしてあの見た目に反した異常なまでの身体能力のギャップにも謎めいた魅力なんだと思う。

「せやろ」とヒロが語り掛けてくる。

元をただせば全部 ヒロが悪いと戻ってきたヒロに愚痴をこぼしたがヒロは「そうやな」と言う言葉以外は口にしなかった。


そのときトシユキは背後から強い視線を感じた。

後ろを振り返るとそこには 目に殴られたような打撲のアザのある小奇麗な感じのナースがたたずんでいたのである。

「あなたの彼女さん?」と藪から棒に尋ねられたが、母の担当の看護師さんかもしれないともい無下にも出来ないのでここは「まあ 知り合いですけどそんなところです」と照れ臭そうに答えた。

「フン。私の方が可愛いじゃない、、」と女は鼻音を立てて小声でぶつくさと言うとアケミと言う名前と母親の世話をすることになったという事を伝えてトシユキの前から去っていった。


治療が終わったようで集中治療室の中から先生が出てきたが、母親は過労のために心臓が弱っているとのことだった。

病室に入り母親のところへ向かうと、弱々しくベッドにうずくまる母親はこういった。

「りんご・・リンゴを買って来てくれないかい?」


トシユキはリンゴを買いに行きナイフな入院にとりあえず必要なものも売店でそろえて部屋へ戻った。

母親はオレからリンゴとナイフを奪い取ると自分で皮をむき、オレにリンゴを食べるように促したのだ。

病気だというのに何かをしていなければ落ち着かないのだろうか?

そして「ねえ 母さん長くないでしょ?」そんな言葉を口にするはずのない母親は薄ら笑いを浮かべて肩は丸く弱々しく、もう別人の姿であった。

過労だと伝えたからと言ってこの先の未来を見すえれば空が晴れ渡る事は起こらないだろう。

母親は父親との出会いについて話をしてくれた。

当時は人間のサポートをするために開発されたAIやAIガジェットが人気だった時代だ。

加速化を続ける経済真っただ中の時代で、デートの会話と言っても効率をいかに高められるかという一攫千金を狙う男たちの話をよく聞かされたという。

他者よりも早くなるためにはどうすべきなのか?母はあくびをしていたらしい。

そんな中、「クジラを食べるコツ」の話の話をする男が現れた。

とぼけた質問であったが答えなどはわからずに母は降参をすると父はクジラを食べるコツについて話始めたのである。そうコツの話を始めたのだ。


「スプーンで一杯ずつ 確実にって?」とオレが言うと

ヒロは「お前の父ちゃん、めっちゃ頭ええで」とか言ってたが今一つ何がそんなにすごい事なのかわからない。

コツと母を口説くことにいったい何の共通点があったのかは謎である。


母親は続けて訪ねてきた。

「トシユキや、好きな人はいないのかい?」


そんな唐突な事を言われるとは思ってはいなかったけど、こんな話は人生の中で先にも後にも今しかないと思った。

「マイ。。マイって言うんだ」

言葉を出した瞬間、顔から火がでそうだった。

母は何度がうなずくと「トシユキや 今は聞かないよ。だけど もしマイちゃんがいい子なら私に会いに来てくれるかな?だったら母さん嬉しいな。。」


一滴の涙が病院の白い布団を濡らした。

トシユキはその場にいることが出来ずにリンゴのお礼を言うと入院の手続きがあるからと病室を後にしたのだった。


病院からの帰り道、ボーっとしながら歩いていると母親の本当の願い事を知ってしまった事実に内蔵を鷲づかみにされたような気持になる。

そして つぶやいた。

「マイ・・」と。


そのとき突然 マイが目の前に現れた。

神出鬼没の彼女にさすがのヒロも驚きアンドロイド説の疑いをかけるがマイは「さあ どう思う?」とはぐらかしてヒロを笑いものにする。

「どっちやねん。AIなめたらあかんで」と天才AIもマイ様には勝てない様子だ・

マイは口を開いた。

「私の正体ね。 私はジパングの国からやってきた忍者なの ほら あの折り紙も苦無もこのAIガジェットも日本製なのよ」

マイは忍者だっった。

そして要件というのは昨日の白い幼虫の件でキリタニから話があるということだった。

だけど まだ気になることがある。

マイはどうしてキリタニのところにいるのか?

そして あの幼虫とのかかわりはあるのだろうか?

まだ 知り合って間もないせいなのかその話をしてからのマイはキリタニの家に着くまでうつむいていた。

キリタニの家の前に行くとヌッコが素早く察知したのかドアを開けてピョンピョンと跳ねまわる。

オレとヒロのマネをしているらしい。

後からキリタニが現れてオレたちを家に招き入れた。

そのとき 階段を上るオレのとなりでマイは口を開く。

「すべてを取り返すために私はやってきたの」と。


キリタニは一連の話を整理した。

殺人事件の映像から不審な生物の痕跡を発見したキリタニは調査を開始したがそのさなかにマイがキリタニを頼って尋ねてきた。

そして あの夜、トシユキと共に幼虫の寄生体を倒しサンプルを入手したという事。

キリタニは咳払いをすると本題に入った。

「あの幼虫の正体はウジだ。ハエのウジとわかった。そしてウジが寄生した人間の変異体は名付けてベヒモスってところじゃのう」


幼虫の正体はウジでありハエの幼虫の可能性が高いという事と通常の進化を遂げた生物ではなく、ノアの箱舟の超化学が影響している可能性が高いという事だった。

DNAの塩基配列というのは実は必要なもので不必要な部分が多い。

だから研究者たちは実験元がわかるように不要な部分に暗号のようにデータを書き込むのだという。

その暗号は バンドラ地区を示すものであった。

元々はバンドラ地区に保管されていた何かがノアの箱舟へ渡り戻ってきたと仮説だ。

もう少し詳しく調べるために病院に隣接をしている研究所からデータを手に入れる必要があるのだという。

「病院に潜入するならいい方法がある」とオレは斬り出した病院と言えばちょうど都合よく侵入できるのだ。

「ナイスだぞ トシユキ君」

「さすがね」

「ヌッコ トシユキに敬礼なのであります」


ヒロが口を開く「なんか うさん臭いねん。キリタニはワイのパパやけど何か隠してるやろ?」


キリタニは分が悪そうに髭をさすると少し考え込むようなしぐさをした。

「ワシじゃよ。完成品ではないのじゃが ウジの原型を開発したのはワシなんじゃ」そう言い終わるとイスに深く座り込んで悩みこんでしまった。


こうして仲間たちは解散した。

家に到着すると トシユキは見慣れた紙切れがドアに張られている事に気が付く

「猛犬注意」なんて誰がはったんだろう。

明らかに子供の書いた字でイタズラであることは間違いないだろう。

ただ 2回目だった。


次の日になりいよいよ侵入することになった。

マイと病院へ歩いている間は デートでもしているような気分になる。

「なあマイ。オレにも忍法を教えてくれよ」

するとマイは気前よく了承し折り紙を一枚渡してきた。

好きなものを作ってほしいという事だったのであのとき見せてくれた蝶々を折って見せたが出来が悪かったのか、いびつな蝶々はヒラヒラと蛾のように羽ばたきながら地べたをはいつくばっている。

マイとヒロがクスクスと笑うので蛾の折り紙をポケットの中にしまい込んだ。


ヒロが心の中に話しかけてくる。

「なあ オカンのとこやけど。。。」ヒロが言うにはマイを母親のところへ連れていくいいアイデアがあるという。

「お安くしときまっせ。なんと5%でええねん」

ヒロの作戦とは オレの意識を眠らせてヒロと人格を入れ替えるというものだ。

そのときに体の支配権が5%分だけヒロのものになってしまうという事だ。

マイが少し先を軽やかな足で進んでいく。

お尻なんか可愛くて、このままお花畑まで散歩に出かけたいくらいに気分が高揚した。

「よし 試してみよう」


ヒロは了承するとオレに自分の意識の中で眠るようにと指示をした。

それは難しいかと思えたがやってみると意外と簡単にできるものだった。

「なあ マイちゃん。ワイと勝負せいへん?」ヒロの作戦はマイと戦闘で勝負をする事。

もしもマイから一本でも取ることが出来るならゆうことを何でも聞くというものだった。

「いいわよ ふふふ」

マイは冷静かつ確信に満ちた様子で腕を伸ばし、トシユキに向けて一連の計算された攻撃を仕掛けた。彼女の動きは、まるで巧みな舞い手が舞台を支配するように洗練されていた。その一方で、ヒロはトシユキの体を使い、パンチとジャブの連続で応戦した。左右へのステップ、突進、上段への打撃と、彼の攻撃はまるで緻密に計算されたダンスのよう。

「47手目や。マイも薄々感づいてると思うけど、56手目で蹴りを入れたときにワイにパンチラ見せて恥ずかしい思いをさせるんやで。

そこまで恥ずかしい思いすんのに63手目でワイに完全に積むんでまう。まぁ可哀そうにのう」ヒロはマイの攻撃パターンを予測していた。


しかし、マイは落ち着き払っていた。「そんなにかからないで終わらせてあげるわ。ちなみに、私のパンツは白のフリルよ!」彼女の声にハッとさせられたのは言うまでもなく、連続攻撃は速く、正確で、トシユキの体を柔軟に動かすヒロでさえも対応するのが難しかった。


そして、予測された56手目の時点で、ヒロの計算は外れた。マイの狡猾なフェイントにより、57手目で彼女の勝利が確定したのだった。

ヒロのAIに匹敵するその能力にますます魅力を感じた。


病院へ到着すると面会の受付の受付のために看護師が近づいてきた。

その顔は以前に見覚えがある顔で顔に殴られたような打撲のアザが印象的だった看護師のアケミの姿だった。

顔の打撲のアザもすっかり消えて、改めて整えられた大人の女性であったがオレたちを見るとため息をついた。

嫉妬交じりなのは明らかと言って表情で「あら、仲がいいわね」と暗いトーンでぼそりと言った。

オレだってマイと本当に恋人としてこられたらどんなによかっただろうか。


マイはトシユキの腕を軽く握り、彼に寄り添うようなしぐさを見せた。それはアケミの誤解を深めるだけだったが、アケミの目は一瞬で輝きを失い、代わりに微細な苦悩が表れた。

「大変ですね、恋人がいて。」

お芝居なのでともいえず言葉を探したが時の流れが気まずい雰囲気を解決してくれた。


受付を済ませてマイを見ると「成功」のアイコンタクトが二人の仲をますます近づけてくれているような気がする。

病室に行くふりをして研究室の方へ向かうと徐々に人が少なくなり人一人とさへで会わなくなった。

目的の資料保管庫に到着したが換気口と鉄格子の入った窓以外には扉しかなく、当然その扉も閉まっていた。


「これを使うわ」とマイは自分の袖を2枚ちぎるとそれは白い折り紙に形を変えた。

二つの紙をうまくドアの下に滑り込ませると 彼女は「忍法メタモルフォーゼ」と唱える。しばらくするとカギが開錠される音がしてドアの向こうからは白い折り紙の蝶々が姿を現した。

外からは厳重な電子ロックキーでさへ、中の人間が閉じ込められないようにと内側からは簡単に開くように設計がされているものである。

しかし 長く開錠される時間が続けば誰かが怪しむかもしれない。

迅速な作業が要求された。

データの抜き取りはマイが担当をしたが少し時間がかかるという事なので

逃げ道の確保をしておくために扉に向かうと張り紙がされている。

扉の内側に張り紙がされていたなんてさっきは気づかなかったがその張り紙には

「ワンワン」と書かれていた。

イタズラなのは間違いないが子供のイタズラという事はないだろう。研究室に出入りする人間でイタズラなんてする人いったっけ?

違和感しか感じないこの状況であったが扉を開けるしかない。

焦りのなかでトシユキは勢いよく扉を開いた。


スパ!!!!


突然空を斬り裂くような衝撃が俺を突き飛ばし当時に中の部屋に何かが入ってきた。

マイは苦無を構えて追撃に供えるが苦無を下げる。

現れた何かとはお掃除ロボット。

丸い業務用の掃除機のようなロボットの額の部分にはペンキで「サイトウ教授」と書かれており、腕は6本に増やされていてそれらはすべて軍事用の義手が取り付けられていた。


警報音こそ慣らさないが ジジジ・・と電子的なおとで威嚇をしてくる。


マイが突進し両手には苦無が握られている。

マイの手から繰り出される苦無が、夜空を裂くかのように光の軌道を描いた。彼女の動きは、まるで嵐の中で舞う蝶のように軽やかで、かつ瞬きする間もないほど素早い。スパッ、スパッ、スパッという斬撃の音が空中を切り裂き、雨粒のように連続して炸裂した。


しかし、対峙するのは異形のマシーン。その6本の腕は猛烈な速さで動き、マイの苦無の一撃一撃を巧みに受け流す。金属と金属がぶつかる音が、戦場を支配し、周囲の空気さえ震わせる。


マシーンは反撃に転じ、6本の腕を同時に振り下ろそうとする。その瞬間、マイの身体は猫のように素早く反応し、ギリギリのところで攻撃をかわす。しかし、マシーンの襲撃は激しさを増すばかりで、彼女には容赦のない一撃が繰り返し向けられる。


マイの目には、戦いの中での集中と冷静さが宿り、彼女は次なる攻撃を計算し、瞬間的に反応する。彼女の体は踊るように動き、マシーンの攻撃を次々とかわし、反撃のチャンスをうかがっていた。

「あなた強いのね。いったい何人殺したの?」というマイの言葉はロボット相手に投げかけられうものとは思えない迫力があった。


「トシユキ。逃げるわよ」そう言うとマイは苦無をこちらに放り投げ印と呼ばれる忍者独特の指の構えをとった。

「私の二つ名を教えてあげる。 私の二つ名は風神。風神のマイよ」そう言い放った瞬間彼女の来ている服は紙吹雪に姿を変えてサイトウ教授に襲い掛かった。

「なにしてるの?逃げるわよ」

「まだ データが」

「なに言ってるの?逃げなきゃ」

レオタード姿になったマイはそのまま転がり込むように扉の奥へ消える。

「よし 出来たぞ」

オレは データを抜き取ると扉に走るとがサイトウ教授が立ちはだかる。

ヒロが話しかけてきた「トシユキ。ワイと代わるんや」


ヒロの突撃は止まらない。

まさか あの殺人マシーンに突っ込んでいくつもりでは?

やめろぉ~!と心の中でさけぶがヒロは突進を辞めない。


うわぁ・・・


空を斬り裂き ヒロはオレの関節をおかしな方向にひねり、一本。また一本と軍事用の義手を交わしていく、骨がきしむ痛みに耐えながらスローモーションのように最後の一撃を交わすとサイトウ教授の頭に手を置いて前転をしながら扉の外へ出た。

サイトウ教授は 部屋の外へはおってこないようだ。

「やるじゃない」とマイとハイタッチをするとニート味わえない達成感と高揚感を覚えた。


マイはこのままキリタニのところにデータを届けてくるという。

「約束、覚えてる?」彼女の声にはいたずらっぽい響きがあった。「勝った方が負けた方の言うことを聞くって話。私、ショッピングに行って一緒に食事がしたいの。潜入捜査の打ち上げをしましょう。」


トシユキは一瞬、ヒロがその約束をしたことを思い出し、苦笑いを浮かべた。

でもマイの復習の事についても何かが聞けるかもしれない

それにマイと過ごす時間は決して悪い話ではないぞ。


待ち合わせの場所と時間を決め、マイと別れたトシユキ。

病院の外へ歩き出したとき、後ろから声がかかった。


「トシユキさん!」振り返ると、そこにはアケミの姿があった。彼女は慌てた様子で、「お母さんが大変なんです。すぐに病院に戻ってください」と言った。


しかし、その言葉を聞いた瞬間、背中に奇妙な感覚が走った。まるで何かが刺さったような… そして、突然の眠気が彼を襲い、意識が遠のいていく。


彼の意識が混沌とする中、最後に目にしたのはアケミのニヤニヤとした笑顔だった。何かがおかしい。


アレから数日が経ったと思う。

明り取り用の窓が一つにコンクリートに囲まれた部屋。

妙な湿気のこもったどこかの部屋に閉じ込められていた。

手足はイスに縛られて食事と水だけを与えられる生活に外の光の恋しさを感じるようになってきた。

そしてテーブルの上に置かれているビンに入ったアイツとこんな形で再開するとは思わなかった。

あの日、あのとき、 アケミに変な注射をされてオレはこの部屋に監禁をされた。

目を覚ますと オレをうっとりと見つめるアケミの顔はコレクションの宝石でも眺めているようだった。

アケミは唐突に「私のものになりなさい」と言う。

意味が分からずにいるとアケミは自分の過去を話始めた。

小さなころから人のものが欲しくなる性格のアケミはよく友達を騙して大切な物を奪って来たらしい、だけど 成熟するなかで物から恋人へと周囲の関心が変化していく中、アケミの心は満たされなくなっていったという。

「みんなが私に言い寄ってきたわ。お化粧を落とした私の顔なんて見たこともないくせに私のために命をかけると言いう人もいるのよ。笑っちゃうでしょ ふふふ」

だけど 言い寄ってきた男にはろくな男がいなかったらしく終いには激しい暴力を受けることになったらしい。


その日の夜はヒロが話しかけてきた。

「なあ 人間ってなんで不幸を自分から呼び寄せるんや?」ヒロにはアケミの話がそんな風に聞こえていたらしいが自分から不幸を望んでなる人間なんていない。

幸せになろうとするけど、うまくいかないものなんだ。

「なんでや? 目的よりプロセスを先に決めるやり方に問題があるんと思うんやけど?」

「ヒロ。それって アケミとあんまり言ってること変わらないぞ」


ヒロというAIは何にでも進化できる可能性を持っているのかもしれないそれが悪魔の道であったとしてもだ。

トシユキはポケットの中で何かが動いているのを感じ、疑念を抱きながらゆっくりと中身を確認した。月明かりが部屋に満ち、その中でポケットからゆっくりと姿を現したのは、マイの折り紙で作った蝶々だった。病院に侵入しようとしたときの、あの不格好な蛾のような蝶々。それがよろめきながらも、ポケットの中から這い出し、薄暗い部屋の中で不器用に羽ばたきを始めた。


「ほら、がんばれ!」トシユキは励ますように囁いた。


「そこや! 負けるな!」ヒロの声も加わり、蝶々は勇気を得たかのように、換気用の窓の隙間に向かって飛んだ。そして、ついに窓の隙間を抜け、外へと飛び出していった。


「よっしゃ!」トシユキとヒロは勝利を確信し、互いに頷き合った。この蝶々が動き出したことは、マイが近くにいることの確かな兆しである。


その時、ヒロが話し始めた。「脱出するなら、早い方がいい。実はな、秘密にしてたんやけど、ワイらだけが使える特別な技があるんよ。まだ未熟なうちは秘密にしときたかったんやけど、今ならできるかもしれへん。」


「それって、どんな技なんだ?」好奇心が湧き上がった。


一方、マイは別の場所で、彼女独自の計画を進めていた。彼女はトシユキを救出するため、潜入と諜報の技を駆使していた。

彼女の目的を考えれば遠回りになってしまうかもしれないがトシユキをほっておけなかったのかもしれない。

病院の侵入はトシユキと正門から進入したときよりもはるかに難易度が違っていたが、夜の闇に溶け込むように静かで、猫のように俊敏。彼女が繰り広げる影の戦いは、彼女の忍者としての真価を物語っていた。


静かな歩みでマイは、アケミの喉元に冷ややかな苦無を突きつけた。その動作には、一切の感情が抜け落ちているような、死と生の選択を迫るような緊迫感が漂っていた。これは忍者特有の拷問術、相手の心理を逆なでにして情報を引き出す術だ。


「降参よ。あなた、何者?」アケミの声は震えていた。「私にはわかるわ。あなたとアイツ、同じ匂いがする…」彼女はポケットから何かを取り出し、それはトシユキの服の一部だった。そして、アケミは自分が同行しなければトシユキの命は保証できないと言い放った。


マイは苦無をしまい、「わかった。連れて行って」と応じた。


アケミに導かれた先は、冷蔵庫とテーブルが置かれた、コンクリートで囲まれた冷たい部屋だった。だけどトシユキの姿はどこにもなく生活感もあまりない。


「どういうつもり?」マイの問いに、アケミは狂気じみた笑みを浮かべ、冷蔵庫のドアを開けた。中には男の死体が…。


「元彼。私の全てを奪った人。」アケミの声は冷酷で続けて彼女の「ナイト」について話し始めた。

ウジが入った小瓶を取り出し、胸元に抱えると「この子と出会った日から、私の運命は変わった」と言い、ウジを取り出し口にくわえた。

ウジは彼女の口の中へと消えていったのである。

ウジに侵入されたというのにアケミは苦しみながらも痛みの快楽を得ようとしているようだった。

「私は 人の幸せが欲しい人間だった。何でも欲しかった。幸せが欲しいだけなの。だけど今度は私がウジにあげる番」 

アケミの体は動かなくなった。マイは状況を理解しようとしたその時、


「リミットブレイク!」の声と共に、ドアが破壊され、トシユキが現れた。


「マイ!」

「トシユキ!」


二人は互いに抱き合い、一時の静けさに包まれたが、マイは俺を軽く押しのけた。

「せっかく仲良くなれたのにごめんなさい。だけど今の私の目的はそこにいるウジなの。キリタニからウジの話を聞いたときに、これは祖国へ持ち帰らなければいけないものだと思ったわ」マイは片手に苦無を持ってグルグルと回す。

「ノアの箱舟は 世界の資源の80%を持っているという事は知っているわよね?もうね。誰かが立ち上がらなくちゃ この世の中は変わらないのよ」

マイは ジパングの革命家の一人だった。


「許さない…」

という声と共にアケミがベヒモスに進化する今回は

喋っている、そして知能を獲得していることが見て取れるようだった。


突然、ヒロがトシユキに話しかけた。「リミットブレイクを使うしかない!」それは、肉体のリミットを解除できる代わりに肉体の支配率を大きく消耗する業だ。

だけど 今は考えている余裕などない。

「リミットブレイク!」トシユキの叫びと共に、彼のパンチがベヒモスに直撃しその体を拭き飛ばす。


ベヒモスは弱々しい声を上げると そのまま窓から逃げていった。

オレたちも一旦はキリタニの元へ戻ることにしたが知性を手に入れたベヒモスを見たマイの表情は複雑に見て取れた。


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『蝕むウジと導くマイ「文明に押しやられた俺が、バンドラの廃墟で出会った謎の忍者と心を通わせてみた結果」』 もるっさん @morusan

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