放課後の教室で

「ほんとムカつく」

「なに、どうしたの」

「ちょっと聞いてよ、テルのやつさあ」


 メグが話し出した。

 オダメグミ。少年野球チームに入っている活発な子。男子に物おじしない。

 女子には頼もしい存在。


 ワタシたち四人は、今日も放課後の教室でおしゃべりしていた。


「テルさあ、夏休みのしいく当番熱出して休んだんだけどさあ」

「そうだったの」

「それ仮病だったの」

「えーウソー」

「仮病?」

「ズルーい」

「今日その話になってね、なんかおかしいから問い詰めたら白状したの」

「ほんと?ヒドーい」

「ヒドいねー」

「一人で当番大変だったんだから」

「そりゃそうだよねえ、大変だったねー」

「メグ、かわいそう」

「大変だったねー、メグ」

「ほんと、ムカつくの、あいつ」

「それはムカつくよー」


 ムカつくって言ったけど、メグ、なんかうれしそう。


「あいついつもワタシをさあ、オダブツって呼ぶでしょ」

「言ってるー」

「あれ腹立つからさあ、この間言い返してやったの」

「なんて」

「なんてなんて」

「なーに?テルテルボウズって」

「テルテルボウズ?」

「ハハハ、それいいね」

「テルテルボウズかあ、はは」

「そしたらさ、あいつ目をパチクリさせてムキな顔してさあ、テルテルボウズじゃないわ、だって」

「ふふ」「ははは」

「ちょっとスッキリした」

「じゃあ今度スカートめくってきたら、ワタシたちもそう言うわ」

「テルテルボウズ!やめろって」

「いいね」「テルテルボウズか」「ふふ」

「でもメグ、なんだかんだ言ってもテル追いかけてる時、うれしそうな顔してるよ」

「そんなことないよー」

「うん、してるっぽい」

「してるよ」

「してるしてる」

「してないって、ワタシはあのバカ教育してあげてんの!」


 あ、タカシくんが戻ってきた。

 傘立てから傘を持ってすぐに出ていった。

 ああ、忘れて取りに戻ったのね。あわてんぼさんだ。


 ……こっち見たかな。


「遠足もうすぐだね」

「そうだね」

「アッキさあ、ギター続けてるのかな」

「うん、みたいよ。休み時間に話してた」

「聞いてみたいね」

「みたいみたい」

「やってくんないかなあ」


 小学五年でギター弾いてる子は他にいない。

 カコが本当に聞いてみたそうに言った。


「クミちゃんさあ」

 ハナが話を変えた。

「うん?あー、ハナさあ」

「なーに」

「もうちゃんづけでなくっていいよ」

「え?」

「ワタシたち友達なんだからさあ、もう名前で呼んで。ねえカコ」

「そうだよ、名前だけでいいよ」

「うんそうか、ありがとう、じゃあ、クミ」

「なーに、ハナ」

「クミ、好きな子、だれ?」

「えっ、なにいきなり、ハナ」


 突然でびっくりした。


「ハナ、どうしたの」

「うん?別に、聞いてみたかっただけ」

「びっくりしたあ」

「だれ?」

「そういうハナはどなた様なんでしょうか?」


 人に聞くんだったら先に言ってよ。

 ハナなんでそんなことワタシに聞くのかな。


「ワタシはこのクラスまだ短いから。男子のこと良くわかんないし。だから聞いたの」

「二組の男子はみんな子どもだよー」

 メグがお手上げポーズをした。

「さすがメグミお姉さま」

「だって五年にもなって夏休み毎日ザリガニ釣りよー」

「そうそう」

「変な名前つけて盛り上がってたし、まるっきり子どもじゃん。子ども、子どもよー」

「そういえば昨日もテルとタカシくん、ポンプ池のぞいてたよ」

「でしょう。ほんと、子どもなんだから。なんであんなことに夢中になるわけ?意味わかんない」

「ハハハ、メグさまの言うとおり」


 メグの発言でハナの質問に答えずにすんだ。なんか助かった。


 でも、メグやカコが好きな子はなんとなくわかるのにな。

 ワタシがいま好きなのは、だれだろ……


 一組の子たちが「バイバーイ」と廊下をかけて行った。


「そろそろ帰ろっか」

「うん、帰ろ」

「傘持った?」

「あ、そうだ、置いてくとこだった」

「日曜日バナナシェイク飲みに行かない?」

「いいね」

「行きたーい」

「行こう行こう」


 朝降った雨は昼すぎにはあがっていた。

 四人で校舎から出ると、空気は少しひんやりして、落ち葉が歩道に張りついていた。

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