テンプレに沿い破壊しながら行く異世界転生譚

Leiren Storathijs

プロローグ

 俺の名前は天津あまつ けい。あらゆる全てのことがそこそこな、どこにでもいる高校生だ。


 いつもの自室のベットで目覚めて、カーテンを開けて陽の光を浴びながらぐっと伸びをして、朝の歯磨きをしてから朝ごはん。

 そして学校の準備をしてから、いざ通学だ! なんて健康の良いルーティンなんだろう。まったく決められたルートを辿ることはとても楽で、変化が無い。とても良いことである。


 そう俺は通学路でいつもの信号を渡ろうとした時、真横からけたたましい車のクラクションがなったことに気がつくと、時既に遅し。

 それはいかにも居眠り運転していることが、フロントガラスから丸わかりの暴走トラックで、避けようにも辛うじて蛇行運転しているせいで、俺は避けきれなかった。


 2トン近くもある圧倒的質量を前に、俺は一切の成す術は無かった。

 全身の骨が一撃で砕かれる感覚はあまりにも耐え難いもので、でも叫び声は出なかった。


 頭の中でぐるぐると『痛い』という感想がひたすら回り続ける。それしか思い浮かばなかった。

 自身から流れていく血はとても熱く、全身の激痛はだんだんと薄れていく意識と共に消えていく。

 それからプツンと俺の意識が完全に途絶えるのはそう遅くは無かった。


 ──────────────────


 はっと俺は目を覚ます。体感は一秒も無かっただろうか? 気づけば全身の痛みは完全に消えており、しかし自分が生きているとは認識出来ない。

 眼前に手を伸ばしたり、振ったりしようとしてもその『手』や『腕』はどこにも見当たらず、生きているようで死んでいる。まるで幽体離脱を体験しているようだった。


 つまり俺は本当に死んだんだろう。ここはおそらく天国。死後の世界だ。

 辺りを見回しても全てが真っ白で、殺風景にも程がある。


 そうしばらくぼーっとしていると、耳に一人の声が聞こえた。それは女性の声だった。ただどこから聞こえているのかが分からない。と思った所で目の前で眩しい光が広がり、それは人の姿で現れた。


「ようこそ神界へ。私は星の女神ステラ。あなたは現世にてトラックに轢かれてしまい死に至りました。

 まだここは天国ではありません。ここでは貴方が別の世界で転生するか、そのまま天国に行くかを選択できる間です」


 転生だって!? そんなの一択に決まってるじゃないか! まさか突然の死になんて不幸なんだと落ち込んでいたのに、なんと異世界転生出来るチャンスが俺にも訪れるなんて!


「俺を異世界転生させてくれ!」


「迷いのない選択ですね。分かりました。ただ貴方はどうやら予期せぬ死に方をしたようです。神界から貴方の運命や寿命を見られるのですが……何やら運命を捻じ曲げかねない不具合があったようです。

 これは神界の不手際であるため、貴方には特別に私からの慈悲を与えましょう。別世界に転生する前に、何か一つだけ願いがあればそれを叶えましょう」


「え、なんでもいいんですか?」


「まぁ、不可能はありませんが……世界を破壊したいとかは控えて頂けると助かります」


 ははは……流石にそんなことは願わないさ。そうだなぁ……異世界転生したらやっぱりチートかな? チートなんてゲームでは御法度なんて言われるけど、ここはもうすでに異世界と言っても過言ではない。

 だから俺は躊躇わない!!


「俺は今まで毎日絶対にルーティンを外したことがない。つまり変化を作って来なかった。でも、これからは色んなものを変化させたい。そのために必要なものは想像力だ。だから、俺に『創造』の力をくれ!」


「創造ですか。具体的にどんなことが出来る力なのですか?」


「破壊して、再生して、創る! 流石に女神様の言った規格外なことまでは出来なくて良い。ただ自分はたまには道から外れてみたくてね。俺の運命を知っているはずの女神様ならわかるだろ?」


「確かに。良いでしょう。それでは貴方に全ての物に確かな変化を与える『創造』の力を与えましょう。

 それと、何か他に聞きたいことはありますか? 不安があればなるべく解決しましょう」


「特にない!!」


 これから俺は異世界転生するんだ。そして変化を求めているならば、目の前に不安があろうともそれをチャンスだと捉えて仕舞えば良い。

 それに今ここで悩みを解決しては、それは正しく『変化』ではなく『修正』になってしまう。

 だから俺に不安はない。それが俺の正しい選択なんだ。


「分かりました。それでは貴方の魂を異世界に転生させます。意識が暗転しますが落ち着いてください。目が覚めましたら貴方の冒険が始まります……」


 女神がそう言えば、俺の視界はだんだんと暗く暗転していく、まるで安からに眠らされるように、女神の両手に俺の魂は包み込まれ、最後はぷつりと意識が途絶えた。全く悪くは無かった。


 その後体感一秒。俺は目を覚ます。どうやら体は形成されたようだ。手足も、自分の頭があることも、触ることで認識出来た。

 そしてすぐに寝そべった体勢から上体を起こし、辺りをしっかりと見回す。


 そこは地平線さえも見えてしまうほどの、無限に広がると言っても過言ではない緑の草原だった。

 しかし街の中ではなく、いきなり野原に放るとはと少し不満を漏らしそうになるが、それは女神と交わした一つの約束によって杞憂に終わる。


 スキル【創造】。

 自身が思い浮かべた物体や現象を、規格外の物で無ければ“大抵”は再現でしてしまう。正しくチート能力である。

 つまり、これを使って今すぐに自分の行動さえも制限を作れてしまう訳だが、今すぐにはやる必要は無いだろう。俺は兎に角変化が欲しいのだから。


 俺は野原のど真ん中に胡座をかきながら、頭の中に浮かぶ【創造】から早速イメージを馳せる。

 いくら普通とは違う変化求めても、異世界ではこれがなくては何も始まらない。そう、武器である。


 俺は頭の中で武器と、自分自身を守ることが出来る軽装の装備一式をイメージし、それをそのまま正面に手をかざすことで作り上げる。


「【創造】! おぉ、凄い……! 流石はチートだ!」


 俺がスキル名を叫べば、すぐに眩い光が目の前の地面で輝くと、そこには俺のイメージした装備一式が並べられていた。

 使用制限なし、連続使用可、コスパ最高。如何なる物理法則さえも無視してしまうこれは、これだけで規格外だろう。

 こんな規格外な力で、規格外は再現出来ないなんてどんな皮肉だろうか。目の前で起きている現象はすでに可笑しいというのに。


 さてと俺は必要な物は揃ったので用意した装備を着込み、立ち上がり、拳を天に突き上げながら、異世界冒険の気合いを入れる。


「行くぞおおおおぉ!」

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