夕焼け

中学生の頃バタフライナイフを持っていた。

チャカチャカナイフを拡げる仕草がカッコイイと思って練習していた。

ペーパーナイフだったが、

手をたまに切った。


何をする為にもっていたのか?

チャカチャカ拡げる為に持っていた。

それだけの理由だった。


補導された。


6?8cmより長い刃渡りは銃刀法違反らしく捕まった。


ケンカに使うのか?絡まれた時に使うのか?

警察のおじさんに責められた。


今、父親となり中学生、高校生位の男の子を見るともしもこの子達がナイフを持っていたら?とドキッとする瞬間がある。

私も同じ思いをさせたのだろう。

だが経験不足な私はただチャカチャカしたかったのだ。


自転車をその場に停めて、パトカーに乗り、警察署に連れてかれた。どうしてこうなった?とうんざりしていたが、不思議と恐怖は無かった。ただ無知だった。


父親が迎えに来てくれた。自転車で。


そこからの記憶は幻想的に残ってる。

なぜ自転車?車じゃないのかと不思議だった。補導された場所まで父と歩き、そこで自転車に跨り漕ぎ出した。

警察署に迎えに来てから、自転車まで父とは何も言葉を交わしてない。

その時の事も心情も聞き直したことは無い。

だから記憶に残ってるんだろう。


夕陽を背景に先に漕いでいく父の後ろ姿が

アスファルトのせいか地面辺りがユラメキ

赤い景色がとても綺麗だった。


ナイフどうこうより、普段動かないように見えていた父が、わざわざ自転車こいで警察署に引取りに来てくれ、特に何も私に伝えず、怒ってんのか?悲しんでんのか?呆れてるのか?

いっそ言われた方が答えがわかって、安心するんだなと。

それからの私の対人との歩みが変わった。

沈黙の無知な見た目と実の心の含みの多さへの恐怖。

受け手の感受に依存する信頼?

なんだか分からない。


夕陽を背景に父の後ろ姿がまだ心に焼き付いていて、未だ追い抜いてない。


本当の父は髪が白くなってきてると言うのに



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