後編
二人の首根っこを引っつかんで校長室まで連れてきた教育実習生は、あることないことないことまでを捏造し、まくし立てた。
「二人は学生でありながら、頭ポンポンしていたのです。しかもそのまま放っておけば、うっかり壁ドンからの顎クイ、耳たぶカプリからの心ゆくまでの熱いベーゼにまで発展しかねない勢いでっ!! あー、うらやましい!!」
「はいはい。話はわかりました。あなたはきっと、いい先生になりますよ。たぶんね。さぁ、なんのフィルターもかけず、わたくしが二人とお話しますから、どうぞ退室してくださいな」
「はいいいっ」
校長先生に褒められた? と勘違いをした教育実習生は、るんるんと校長室を退室した。瞬間、三人は同時にぐったりしてしまった。なぜかパワー溢れる教育実習生なのだった。
そこに残るはケーコとオーコ。なんだかとても気まずいのだ。せっかくちまちまと友情を深め、愛に発展するかいなかまで溝を埋めてきたのに、こんなことが親にバレてしまえば、どちらかの親が転校しなさいと言うのは目に見えていた。
「校長先生、さっきの話はでたらめです!! そりゃ、頭ポンポンくらいはしましたけど。それはあたしが勝手にしたことで、ケーコさんにはなんの落ち度もありませんから」
「待ってください、あたしだって、油断して頭ポンポンくらいならいいかなって思ってなすがままでした。でもその先はありませんっ」
校長先生は、ふぅ〜ん? と目を細める。
「お二人共とても真面目ですし、頭ポンポンくらいで問題行動だと言うのなら、犬や猫はどうなることやら。さぁ、今日はもう片付けておかえりなさいな?」
「え? 停学とかは?」
オーコはケーコの前に立ちふさがる。
「なんでそのくらいで停学にしなきゃならないのよ。あーゆのって、手続きが面倒なんですからね。わたくしはなーんにも聞こえてませんでした。はい、おしまい」
「「ありがとうございます!!」」
こうして二人は、無事部室に戻り、後片付けをはじめた。オーコはずっと沈黙を守ったまま、背中を向けている。あんなふうに咎められてしまったのでは、もうふざける気持ちもないだろう。
それと同じように、ケーコの心も揺れ動いている。こんなことなら勿体つけず、最初からやってもらえばよかったのだ。壁ドンなんて、きっと大したことないのだから。それに、と心の中がざわついている。こんなことくらいで仲良しでいられなくなるのだったら、一層思いのままに、とまで思い詰めてしまっている。
しおしおと獲物本をカバンの中にしまいながら、もしかして、と弾かれたようにオーコに向き合う。
「あ、あのさ。オーコちゃん」
だが、オーコは涙を拭いていた。ひどい顔になっていたことにさえ気づけずにいた自分が恨めしい、とケーコは思う。
「泣いてる、の?」
本当はその涙を拭ってあげたいとすら、ケーコは思う。
「だって。もう、こうやってつるむことはできないなって。放課後が来るのを毎日すごく楽しみにしていたのに」
ケーコはおもむろにオーコの手を握った。我ながら大胆なことをしてしまった、と焦るケーコ。
「今はそのっ、まだ壁ドンは早いかもしれないけど、そのうちやってみようよ。その、クリスマスイヴとかにさ?」
「ケーコちゃん。本気? あたしガバっといくよ? だってずっと妄想してたもん。ケーコちゃんとの壁ドンのこと」
これは、と二人はキュンとした。相手も同じ気持ちなのだろうか? 恋、なのであろうか!?
「妄想とか怖いわ。けど、それだけ、あたしのことを想ってくれているのかな?」
オーコは真っ赤になってこたえない。きっとそれが返事なのだろう。
「……妄想するほど、あたしと壁ドンしたいと想ってくれて、ありがとう。あたしも、オーコちゃんとなら、いいかな?」
その後、二人はクッキーを食べながら自販機でミルク紅茶を買ってベンチに座っていたら、おもむろにオーコがケーコに壁ドンした。実際のところ、壁ではなく、長椅子の背もたれ部分なのだが。
「嘘つき。クリスマスにするって、オーコちゃん言ってたのに」
「ごめん。耐えきれなかった。あたし多分、ケーコちゃんのことが好きなんだよ?」
オーコは引き続き頭ポンポンからの顎クイまで経験してしまった。
「オーコちゃん、それ以上は、まだ」
「うん。わかってる。だってケーコちゃん可愛いから」
「あたしだって、オーコちゃんのこと綺麗だなって思っているもん。好き、だもん」
それ以上は恥ずかしすぎて。二人はほんの少しだけ、夜風にあたっていたいと思うのだった。
つづく
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