第13話 泰造よりも昭和な人

 今日は祖父の要蔵がうちに遊びに来た。


 要蔵と泰造はまだ日も高いうちから、要蔵がお土産に持ってきた頂き物のこのわたで一杯やっていた。祖母の稲さんは3年前に亡くなった。


 私も暇だから少し付き合った。


 見るともなしにつけっぱなしのテレビに目をやっていた要蔵が、


「今のテレビはでかいのお。でかいというか横に長いんじゃ。


じゃが、今のテレビは家庭であまり大事にされてない気がするんじゃ」


「なんで?」泰造が言った。


「昔はテレビは見ない時は埃をかぶらないように、カバーを掛けていたもんじゃ。


すっぽりとテレビにかぶせたり、のれんみたいなカバーを掛けて、見たい時だけカバーを上げたりしたり、観音開きみたいな木の扉がついていて、それを開いてご開帳してテレビを見たものだ」


「古いんだよ、おやじ」泰造が言った。


 私がいつも泰造に言ってるような口ぶりで言ったので、吹き出しそうになった。


「まあ、わしは街頭テレビの頃を知ってるからな。


 わしんとこはわりと早めにテレビが入ったもんだから、近所の人たちが『もらいテレビ』をしに集まったもんじゃった。


力道山のプロレスも大人数でよく見たもんじゃ。当時は一般の新聞にもプロレスの結果が載ってたんじゃよ。プロ野球の結果のように」


「ほへー」


 泰造の気のないあいずちも私に似てて、また笑いそうになった。


「よく懐かしのテレビ番組と称して月光仮面とか、まぼろし探偵とか、怪傑ハリマオとかをもてはやすが、


それに熱中してたのはわしよりも下の世代じゃ。


わしはその頃もう働いておったから、子供向けのテレビは見ておらん。


ジジイだからって、全部いっしょくたにしてはいかんのお」


 泰造がよく言うガンダム世代は自分より下の世代で、


おやじだからみんながガンダムをわかるわけじゃないという主張とよく似ている。さすが親子だ。


「子供の頃の娯楽は、親に映画館に連れてってもらって見た鞍馬天狗や、


近所の公園によく来た紙芝居屋……黄金バットをよくやってたな。


あとは漫画じゃな。漫画というか絵物語の少年王者や、冒険王に載ってたイガグリくん、あとは後に鉄腕アトムになるアトム大使に夢中になったもんじゃ」


「昭和が過ぎるな」泰造が言った。


 私が泰造にツッコむようなセリフを使ってるのが笑える。


「うるさい。お前だって昭和じゃろうが!


まあ話は変わるが、日本はわしが若い頃からいろいろあったが、今まで平和で良かった。


わしは6才の時に終戦を迎えたんじゃが、戦時中に空襲で足に大火傷を負ったんじゃ。それは今もわしの右足に残っておる。


大空襲で逃げ惑っていた時に、前を走っていたおばさんが背負ってた毛布が燃えててのお、


わしはあわてて教えてあげたんじゃ。


そしたらおばさんは叫び声をあげながら背中にしょってた毛布を放り投げたから


それがわしの右足にかぶさって大火傷をしたんじゃ。


わしはその時、たくさんの死体を見た。実際、東京大空襲では何十万人って人が亡くなったんじゃ。


じゃから、わしは戦争は反対じゃ。じゃがな、もしわが国にどこかの国でも、別な星でもいいが、


攻めこんできたら、わしの愛するこの国を蹂躙するようなことがあったら、


わしはジジイで何も役に立たないかもしれんが、戦う。守るべき者のために戦う。


まあ死ぬまでそんな日は来ないと思うがな」


「……おやじ、なんかちょっと感動したぞ」


「そうか。わしは例え敵が使徒でも戦うぞ」


「おじいちゃん エヴァ知ってるの?」私が言うと、


「そりゃ、知っとるわ。わしは初号機よりも、アスカに乗りたいのお」


「ジジイ、今、エロい意味で言っただろ?」


「はあ、最近耳が遠くてのぉ」


「ジジイも泰造も、ダメなエロ親子だ!」

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