だってオトコノコだもんっ。

綾波 宗水

第1話

 いつかの夜。その日の午前をどのように過ごしたかは覚えていないものの、その時の衝撃は、今でも鮮明で、観返しても同じように鳥肌が立つくらい。

 僕はとある深夜アニメを何の気なしに観ていたら、とても可愛いキャラが登場した。アニメのキャラはどれも可愛いのが普通だが、言ってしまえばその子は僕の性癖フェチだった。

 だから、特に追っていたわけではないけど、その日はぐっと集中してテレビをみていると、なんとその子は男だった。今ではそういうキャラを『男の娘』とジャンル分けしていると知っているけど、中学生の僕には何が何だか分からず、自分がゲイなのかとも悩んだが、それよりも深刻なのは、僕自身がと感じたことだった。結局僕は異性愛者だったのだけれど、この思いだけは覆ることなく、とうとうこの日がやってきた。


 あれからというもの、僕は秘密裏にあざとさを追究し続けた。決してその事を誰かに打ち明けはしなかったし、親友の斉東にも話さなかった。いつか必ず来るXデイまで、僕は何も手元に無いというのに、ネットを一条から十条まで練り歩いて、可愛くなる方法を調べるを日課とした。これが僕の部活動のようなものだった。

 そして高校一年。やっぱり学校から指定されている部活動には所属することなく、隠された趣味を温存しつつ、アルバイトに応募。自宅近くにいあるレンタルビデオ店。ネット配信の時代に合っては哀しいかな斜陽産業のようで、お客さんは少ないので、在庫整理という筋肉を使う仕事さえ慣れれば、それなりにペースは掴みやすいバイトではある。

 そして高校一年、春。いよいよ待ちに待った念願のバイト代は、残高がすぐに小銭だけ無機質に表示され、それらはフェミニンな服へと化したのだった。

「買っちゃった買っちゃった」

 意味もなく二度、段ボールを開封しながらつぶやいた僕は、ついにルビコン川を渡ってしまったらしいことに気づく。

 けど、数分後、僕は僕でなくなった。そこにはいわゆるゴスロリチックな女子高生がいた。僕もとい私である。

 ここでひとつツッコミ。一人称まで変えてしまったら、それは男の娘じゃない、単なる女装じゃないかと。鏡の中の自分は無邪気そうにポーズをとっていてさっそくあざといけれど、こんなの男の娘と呼べないのでは。

「むむむ」

 あ、かわいい。もうだめだ。思春期の行き場のないフェチは、ついに暴走し、ナルキッソスよろしく、鏡の中の人物に恋を仕掛けている。

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