第13話 堂々とした口上

 酒はまろみが有り、口当たりが良い。そして竜次が食べている肴はというと、驚いたことに鯛、鰤、蛸などといった、適温に冷えた刺し身である。それをひしおや煎り酒(煮きった酒に梅酢と昆布だしを加えた調味料)につけて頂くのだが、たまらなくうまい。ちょうどの温度に刺し身が冷えているのは、『冷やし箱』という冷蔵庫と同等の機能を持つ、超速子を利用した保冷機械があるからだ。


(まさか異世界で、こんなうまいものが食えるとは)


 内心、竜次はアカツキノタイラという異世界を侮っていた。しかし、これだけの物が用意できる文明が存在する世界を、ここまで目の当たりにした彼は、認識を完全に改めざるを得ない。何より、眼前で自分の話を優しい笑顔でずっと聞いてくれている、平昌幸という大人物に竜次は感服していた。


「よし、私は決めたぞ。竜次殿、あなたを口説こう。我が国と私に仕えてくれぬか? 咲夜の側近となり、多少ではあるがやんちゃな娘を守ってほしいのだ」

「父上! やんちゃは余計です! でも……竜次さんが守ってくれるなら、こんな心強いことはありません。私からもどうかお願いします」


 底知れない頭領としての器量と、純真な願いからくる誠意を受けた竜次に、仕官を断る理由は何もない。


「承った! 縁の国とお館様、そして咲夜姫を守ろう!」


 竜次らしい、へりくだらず、かつ、裏表なく堂々とした口上に、自然とその場の皆から拍手が沸き起こった。咲夜などは嬉しさと感動で、可愛らしい目を潤ませかけている。


「ありがとう、竜次。これからよろしく頼むぞ」


 昌幸は最高の酒を竜次の杯に注ぎ、彼はそれをぐいっと呑み干した。今まで呑んだどんな酒よりも、美味かった。




 歓迎の宴は大いに盛り上がり、お開きになったのが昼下がりの手前である。それから酔いを覚ますため、竜次たちがしばらく、宮殿内の客用の寝所で休んでいると、西日が差しこむ夕暮れになってきた。


「夕日に映える広大な連理の都、いいもんですね」

「ですね、ときたか!? 急にしおらしくなったものだな」

「しょうがないでしょう、守綱さん。あんたが俺の直属の上司になったんだから。上司には筋を通して敬うもんです」

「なるほど。竜次よ、お主は世の中を知っておるな。その通りじゃ。お主とはうまくやっていけそうじゃ」


 何のやり取りかと思うかもしれないが、平昌幸は、竜次を守綱の下に付けることで配下に加えたのだ。守綱は銀髪の姫、咲夜の側近であり、彼女の守護を第一の任務としている。その配下に付いたことにより、竜次も咲夜姫の側近となったのだ。ちなみに、守綱の役職階級は侍大将で、竜次は足軽大将に任じられた。

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