83.貪食ための結束 ②

「名を名乗りなさい」と少女が言った。


「石井春斗はるとだ」


「何だ」とユリアンが嘲笑うように言った。


「君はヒイズル人か。小賢しい発想で便利なものを作ると聞いたことがある」


 それはユリアンの偏見だったが、実際、物作りのスキルを活かして小賢しいことをしているという自覚のある春斗には耳が痛い。春斗は営業スマイルを顔にべったりと貼り付けた。


「お前ら、自分の正体がバレないようにしたいんだろ?俺は源気グラムグラカを消すユニットも作れるぜ。それを使えば、人だけじゃなく、電子機器でも感知できないレベルまで抑えられる」


 少女は春斗を見下すように笑った。


「それは源気制御ユニットの類いでしょう?あなたはそれで源気ごと抑制させて力を使えなくするのが目的じゃなくて?」


「そうじゃない、俺のユニットなら源気を抑えずに外部からの探測を遮断できる。お前らだって俺の存在に気付かなかっただろ?でも実際、俺の源気はビンビンだぜ」


 ドニが顎を触った。


「……それは便利だな」


 少女も春斗の話に興味を示したらしく、妖艶な笑みを浮かべた。


「それを使えば、もっとたくさん獲物を捕まえられるかしら?」


「ああ、お前らの使役体にユニットを付ければ、誰にも気付かれることなくターゲットに接近できるだろうな」


 ユリアンは春斗をじっと見つめていたが、おもむろに触手を作り出すと投げ出した。触手は春斗の顔すれすれを通って、背後のコンテナを刺し貫く。


「ど、どういうつもりだ?」


 突然の攻撃に春斗は内心、冷や汗を掻いたが、無理やりにも笑みを作り、虚勢を張った。


「俺は虫が嫌いなんだ。襲われる前に始末する主義なもんでね」


 ユリアンの触手は、コンテナを這っていた一匹のカブトムシを串刺しにしていた。よく見るとそれはプラスチック製のドローンロボットで、バキバキに分解され、絶命していた。


「お、おう、助かるぜ」


――さすが貪食者グラムイーター、警戒心が強いな。


 春斗がバクバクする心臓を落ち着けていると、今度はドニが言った。


「だが、そのユニット、高いんだろ?お前はそうやってポイントを稼ぎたいわけだな?」


 春斗は頭を左右に振り、気軽な仕草で両手を前に出した。


「俺は何でもかんでもポイントにしたがる銭ゲバじゃねぇよ。仲間からポイントせびるようなことはしたくないね」


――こいつらからもらえるポイントなんて、たかがしれてるからな。それより貪食者の技術を盗めば、もっと凄いもんができる。


「無条件に良いアイテムをもらえるなんて、何だか申し訳ないなぁ」


「条件なら一つだけある」と春斗はここぞとばかり、たたみかけた。


 マスタープロテタスを取り出し、用意していた映像を三人に見せる。


「俺はこの女がほしいんだ」


 投影された映像には、卵形の華やかな顔の少女が映っている。

 セミロングの茶髪、サイドテールの頭には、金属のカチューシャを付けている。


「あら、可愛らしい女の子ね」


 三人は品定めするように少女を見る。ユリアンが密かに笑った。


「この女を捕まえるのが条件か?あまりに容易いな」


 少女は春斗の下心を見抜いたように、涼しげな笑みを浮かべる。


「捕まえればいいって話でもないでしょう?可愛い子をたくさんはべらすより、どうしても手に入れたいただ一つのものが欲しい時だってあるものよ」


「ま、たしかにアジア系の中では並より上の女だな」


「良いわ、その条件、私に任せてちょうだい。それで、ユニットはどれくらい作れるのかしら?」


 万事上手く進んでいると、春斗は思わずにやけ顔になった。ポケット納屋なやからスーツケースを取り出し、その中に山のように入っているアクセサリーを三人に見せる。


「ククク、いくらでも作ってやるぜ」


 宝箱から漏れ出した財宝を見たように、ドニは一瞬呆けた顔をした。


「これは凄いな、全部お前が作ったのか?」


「ああ、もちろんだ」


 ユリアンはその箱の中から一つ取りだした。


「では早速、試させてもらうぞ」


――左門トオル、この勝負、もらったぜ。お前は俺の下僕になる。そして、お前の女も俺の物にしてやる。


 欲望の水を溢れさせたように笑うユリアンを見ながら、春斗も悦楽に浸った。

 その夜、お互いの利害が一致した四人は、結束を交わした。

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