74.妹ための親睦会 ④
「それはどんな訓練をすれば……?」
「六つの自然元素のなかでもとくに、四大元素、つまり風、水、火、土と接触することです」
言いながら、美鈴の心を読み取り、疑問について補足していく。
「接触というのは触ることだけではありません。五感を使って、自然の中に源気が宿っていることを感じることが重要です」
「どうしてその四つが大切なんですか?」
質問をした依織に、美鈴とクロディスの目が移る。
「章紋術の多くの系統では、自然現象からヒントを得ています。なので、自然を観察したり接触したりするなかで構築され、実践に応用されます。複合系、技術系など、系統は色々ありますが、純粋にその起点となるものを抽出していくと、シンプルに四つの元素に分けられるんです」
クロディスは説明しながら、人差し指の先に源を集め、宙空に線香花火のようなグラフを描いた。
「それに、自然元素は魔導士にとって、他の術よりも習得しやすい術でもあるんです。他の術のなかには、先天的な能力など、条件があります。難易度の高い術式は成功率も低くなりますから、訓練にも長い年月を必要とします」
「そうなんですか」
「要は自然元素のイメージをトレースすることが訓練になるわけだな」
「そういうことです、
「俺は
穣治の記憶に、今は亡き妻の面影が巡る。クロディスはその記憶をキャッチし、温かい笑みを見せた。
「そうでしたか、その方はきっと、お優しい方でしょうね」
「ああ、そうだ」と、穣治はジョッキを傾け、グビリと喉を鳴らした。
切ない記憶を思い出したせいか、さっきまで武勇伝を語っていた穣治が急に静かになった。
依織が次の質問をした。
「科学や数理的な勉強は必要ありませんか?」
「その視点も大切です。それぞれの現象を性質解析し、より明確に数値化させることで、人為的に元素現象を成立させ、章紋として構築できるでしょう。でも、現象の解析は、章紋の詠唱を短縮したり、効果を上げるための補佐作用にすぎません。やはり根本的には各エレメントに馴染んでいなければ、数理や公式がトレースの邪魔になり、章紋の詠唱にも支障を与えるでしょう」
「自然元素の中で特に接触しておくといいものはありますか?」
「アイラメディスのみならず、セントフェラストの中には自然物と接触できる場所が多数あります。白河さんのお好きなエレメントを選べば良いでしょう」
クロディスのアドバイスを聞いた美鈴は頷き、やる気を出すように笑みを増した。
「分かりました。やってみます」
依織は、1パーセントでも可能性があるなら、魔導士になることも諦めたくないと思っていた。
「クロディス先輩、もしも入学時の身体検査で99パーセントが騎士の性質であると診断されても、
「そうですね、普通、源気の性質が劇的に変化することはないですが、後天的な潜在能力の開発も可能でしょう。実際、選ぶ道を決めたあとでも、サブスキルとして別学院の授業を受ける方は少なくありません。
「潜在能力の開発には、何をすればいいんでしょう?」
「白河さんへの助言と同じですね。そうしているうちに、錬晶球の反応が多少変わってくるでしょう」
クロディスは大きな問題ではないと思ったが、依織の心の裏側は不安と焦りでいっぱいになっているのを感じた。
「分かりました、やってみます。分からないことがある時は、クロディス先輩にお聞きしてもいいですか?」
「お力になれればいいんですが……返事が遅れることもあるかもしれません」
「大丈夫です、クロディス先輩がお忙しいのは分かっています」
「ええ、とにかく今のうちに色々試して、経験することは大切です。でも、内穂さんが先天的に恵まれている騎士の才能も、同じように大切にしてくださいね。どんな才能も、どんな人材も、この世界のどこかでは必要とされているんですよ」
クロディスの優しい声かけに、依織の心は火が灯ったように温まった。
「あの、先輩。よければ私のこと、名前で呼んでください」
もっと仲良くなりたいという依織の気持ちを、クロディスは受け入れた。
「良いですよ、依織さん」
クロディスが美鈴と依織に教えたことは、トオルもすでに教えてもらっていた。
トオルは法具アイテムや
女子たちの会話をぼんやりと聞きながら、トオルは先日の自然元素トレーニングについて思い出す。
寮の階段式庭園にある流水で遊んだり、湖畔を散策して風を浴びたり、焚き火の火を見つめて対話したり、大きな岩に座って、石を玩具にして遊んだりもした。
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