第13話 転送魔法を完成させた

 コトミールは街で鉄クズを沢山買った。

 それを材料に錬金術で剣を作る。そしてエンチャントを施し、武器屋に持っていく。


「おや? あんたは昨日のお嬢ちゃんじゃないか。耳が特徴的だから覚えてるぜ」


「また剣を持ってきたので買い取ってください。なんと刃が炎になる優れ物です」


「ほ、本当にスゲェや!」


 それから次は魔法道具屋に行く。


「私が調合したポーション、一ダース。買い取ってください」


「あん? うちは信頼できる職人に発注してるから、そういうのは断って……いや待て! すげぇ品質だ! 色で分かる! それに魔力が込められてるぞ……本当にあんたが作ったのかっ? 買う! これからも納品してくれ!」


「気が向いたら持ってきます」


 という感じで、まとまった資金を得た。

 それで町外れに家を買った。

 小さいが庭付き。二階建て。前に住んでいた人が残していった家具もある。

 城壁の外にあるから、かなり安かった。


 宿代を払い続けるのはもったいない。

 この街が気に入ったので、いっそ自分の家を持ってしまおうと考えたのだ。


(昨日の宿のよりいい布団です。これなら安眠できます)


 誰かに遠慮する必要のない、自分だけの家。

 周りにほかの建物もないので、どんな実験をしても迷惑をかけない。

 素晴らしい。

 コトミールの冒険は、ここから本格的に始まるのだ。


(……うーん、なんか眠れません)


 晩御飯を食べ、風呂に入り、寝間着に着替えてベッドに横になった。

 もう、いつもなら寝ている時間。

 なのに、なんとなく眠れない。

 落ち着かない。

 昨日は初めて森の外に出た疲れからか、安宿の硬いベッドでもすぐ寝てしまった。だが、二日目となると緊張も和らぎ、余計なことを考える余裕も生まれる。


(家にたった一人……誰の話し声も聞こえない……ま、まさか出発して二日目でホームシック!? そんな。私はそこまでヤワじゃありません!)


 そう心の中で強がってみても、寂しいものは寂しい。


「仕方ありません。闇属性の実験をしましょう……そう、これはあくまで実験。決して一人が寂しいから森に帰るというのではなく……」


 見ている者は誰もいないのに、コトミールは言い訳を並べる。

 そしてベッドから起き上がり、床に魔力を流した。

 以前から理論だけは考えていた魔法だ。

 成功するかは分からないが、失敗してもなにかを失うわけではない。


「まずは魔法陣を床板に刻み……転移先をイメージ」


 闇属性は空間操作の魔法が多い。

 それを使って、こことエレストリア王国を繋ぐゲートを作ろうとしてるのだ。

 もしゲートが完成すれば、一瞬にして行き来できる。

 朝食をあちらで食べ、それからこっちでダンジョン探索というのも可能になる。

 一応、向こう側、、、、は出発前に設置してきた。無事に動いてくれたらいいのだが。


「魔法陣完成……」


 床に紫色の五芒星が彫り込まれた。これが宿屋だったら店主に怒られるが、ここは持ち家なので問題ない。

 コトミールは五芒星の上に立つ。


「転送!」


 五芒星に込めた術式が発動する。

 一瞬にして周囲の景色が変わった。

 四年間過ごした王宮の、コトミールの部屋だ。


 自費で買った本が並ぶ本棚。

 錬金術の練習で作った武器防具。

 クローゼットの中はフォリナからもらった沢山のドレス。

 豪華なベッドもある。しかし、ほとんど毎日フォリナの部屋にお呼ばれして抱き枕になっていたので、自分のベッドはあまり使わなかった。


(私がいなくなってもそのまま残すと言っていましたが、本当に手つかずですね。まあ、昨日出発したばかりなので、当たり前ですけど)


 コトミールはベッドに座り、転送魔法の成功に心躍らせた。

 かなり難しい魔法だった。しかし上手くいった。

 こちらの床にも、同じ魔法陣が掘られている。この上に乗って魔力を流せば、一瞬で向こうの家に行ける。

 とはいえ乱発はできない。

 転送の際、コトミールの魔力がごっそり削られた。

 しばらく休んでからでないと、再度の転送はキツい。


「コトミールさんの部屋から、とてつもない魔法を感じましたわ! 曲者ですの!?」


 そこにフォリナが飛び込んできた。

 目が合う。

 気まずい。

 あれだけ苦労して説得して旅だったのに、もう帰ってきたのかと思われてしまう。

 これではコトミールが寂しがり屋みたいではないか。


「た、ただいまです……」


「コ、コ、コ、コトミールさん!? どうしてここに!? わたくし、コトミールさんに会いたくて、ついに幻覚を見てしまってますの!?」


「いえ、闇魔法で空間を繋いで帰ってきたんですけど……」


「本物のはずありませんわ! だってコトミールさんは、あんなに森の外に憧れていましたもの……それが旅だった次の日に帰ってくるなんて! ありえませんっ!」


「一時帰宅しただけで、別に旅をやめたわけではないので……簡単に行き来できるようにしました。人間の街、エルフの皆さんが言うほど危険じゃありませんでしたよ」


「いくらコトミールさんでも空間を繋ぐなんて……きっと偽物ですわ! わたくしはコトミールさんガチ勢。いくら声や姿を似せても、こうして抱きしめれば一発で……ほ、本物!?」


 コトミールを抱きしめたフォリナは、電気が流れたような顔をする。


「本物です」


「ま、まだ分かりませんわ……もっと確かめないと! 一緒にお風呂に入って、抱き枕にしないと分かりませんわ……ああ、コトミールさぁぁぁん!」


 結局コトミールは、一晩中フォリナの抱き枕にされた。要は今までと同じである。

 次の日、国王にも事情を説明すると「盛大に送り出したのはなんだったのかという気分だが……まあ、いつでも帰ってくるがいい。それにしても空間を繋げるとは……」と渋い顔で歓迎された。

 それから故郷の村にもゲートを繋げた。

 両親と村長も、国王と似たような反応を示した。村長の孫だけは満面の笑みを浮かべ、また勝負を挑んできた。それをやっつけてから、コトミールは森の外へ行く。


「いってきます」


「「毎日でも帰っておいで~~」」という両親の声を聞きながら。

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悪食スキルでスキルコピーしたら最強エルフになった 年中麦茶太郎 @mugityatarou

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