悪食スキルでスキルコピーしたら最強エルフになった

年中麦茶太郎

第1話 悪食スキルは最強だった?

 地球の各地にダンジョンやモンスターが出現し、ファンタジーRPGのようになってしまったのは、二十一世紀の初頭である。


 琴美は子供の頃から、魔法使いに憧れていた。

 だから魔法でモンスターを倒したかった。

 なのに魔法の才能はなく、代わりに剣技がメキメキと上達した。

 無数のモンスターを倒した。

 ほかの冒険者から挑まれ、斬り伏せたこともある。


 やがて『最強の女剣士』と呼ばれるようになった。

 しかし魔法は使えない。

 誰もが羨むような富と名声を得ながら、琴美は激しい飢餓感に包まれ、ヤケクソのように戦って戦って、死んで――。


 気がつくと赤ん坊になっていた。

 自分に愛情を注いでくれる両親は、耳がピンと尖っている。

 森の中で暮らす、エルフという種族だ。

 地球もダンジョン出現以降はゲームのような世界になったが、エルフはいなかった。

 琴美は異世界に転生してしまったようだ。


        △


「鑑定結果が出ました。この子、コトミール・ハーララの固有スキルは『悪食』です」


「鑑定士殿。悪食とはどんなスキルなのですか?」


「どんなものを食べても腹を壊さない……というもののようです。長いこと鑑定士をしてきましたが、初めての鑑定結果です」


 ほかの人族のことは分からないが、エルフは誰しも固有スキルを持って生まれてくるらしい。

 一歳の誕生日、家に来た鑑定士から『悪食』と告げられた。戦闘の役に立たなそうだ。


「俺の娘は悪食か……珍しい固有スキルなら、もっと凄い効果だったらよかったのになぁ。けれど、こうして元気に育ってくれているんだ。それだけで幸せだよ」


「そうそう。コトミールは私たちの大切な娘だもの。固有スキルがどんなものでも関係ないわ」


 コトミール。それが今の名前だ。

 偶然にも前世のものと似ているので、すぐに馴染んだ。

 今の両親は本当に溺愛してくれる。だからコトミールも二人が好きだ。もらった名前は大切にしたい。


 それからエルフという種族に産んでくれたことも感謝している。

 周りから聞こえてくる話から察するに、エルフは人間よりも魔力が高いらしい。

 実際、父と母が回復魔法で傷を癒やしたり、庭の花を活性化させているのを見た。

 前世では、どれだけ努力しても魔法を使えなかった。

 今世こそ、派手な魔法を撃ってモンスターを倒したい。

 そう思っていたのだが――。


「残念ながらコトミールの魔法の才能はゼロだ。魔力はあるが、それを表に出力するための回路がない。普通のエルフは攻撃魔法の回路が細く、逆に、回復や防御といった支援魔法の回路が太い。ところがコトミールは回路が全くない。どう頑張っても魔法を使えないよ」


 村の魔法教室に五歳で通ってみたが、すぐに先生から見込みなしと言われてしまった。

 魔法回路がないと魔法を使えない。これは努力ではどうにもならない。

 手足がないと剣士になれないのと同じだ。


「エルフなのに魔法回路がないとかダセェ! 弓も下手だしよぉ。お前、可愛い顔と綺麗な銀髪しか取柄ねぇのな! 自分じゃなにもできないんだから、早いとこ婚約者を見つけて守ってもらったほうがいいんじゃねーか?」


 村長の孫が馬鹿にしてきた。

 彼はコトミールと同い年で、エルフでありながら攻撃魔法にも適性があった。そして弓も上手い。エルフは森で暮らす種族ゆえ、狩猟で食料を調達することが多い。弓を扱えて当然という風潮がある。が、コトミールはどうにも弓が苦手だった。


「……剣なら自信ありますが」


「はっ! そんな細い腕で剣を扱えるわけねーだろ。木剣で相手してやるよ。俺が勝ったら、なんでも言うこと聞けよ。婚約者になれって言ったらなるんだぞ!」


「はあ……じゃあ軽く」


「痛ぁぁぁぁっ!」


 魔法の才能がないと言われたのがショックで、子供相手に大人げない一撃をしてしまった。

 コトミールは、自暴自棄になっている、という自覚がありつつ、どうにもできない。

 父親の剣を持ちだし、一人で森に行き、モンスターを狩りまくった。

 魔法がなくても、前世で培った剣技は忘れていない。

 五歳の小さな体を使って、巨大なモンスターを次々と斬り伏せていく。


 ふとバラバラになったモンスターの肉を見た。

 とても美味しそうだった。

 ほかのエルフは匂いだけで「無理、食べたくない」と言う。モンスターの肉は魔素が充満していて、それを食べればエルフといえど腹を壊す。耐性のない人間なら死に至るだろう。

 しかしコトミールは、自分が狩ったモンスターを焼いて食べてみた。

 美味だった。

 種類によって歯応えが違う。いくら食べても飽きない。


 魔法を使えないのは悲しいが、モンスターグルメという新たな趣味を得た。

 コトミールは自分用の剣を父に買ってもらった。

 そしてモンスターを倒してはその場で焼いて食べるというのを繰り返す。

 どれも実に美味い。幸せだ。


 なのに、周りからはゲテモノ食いの不気味なガキと思われているらしい。

 両親以外は、コトミールと積極的に交流しようとしてこなかった。


 ある日。いつものようにモンスター肉を食べていると、頭の中に声が聞こえた。


――――――

あなたは多数のモンスターを捕食しました。

悪食スキル:レベル2になりました。

――――――


 レベル2だとなにが変わるのか。

 訳が分からずコトミールは残りの肉も食べる。

 食べ終わった頃、異変に気づいた。


「……体の内側から燃えるような感覚があります……これは魔力? まさか捕食したモンスターの魔力が私のものになったんですか?」


 同じことを繰り返して、仮説は実証された。

 モンスターを食べるたびに、コトミールの魔力は強くなっていった。

 しかし残念ながら、魔力が強くなるだけで、魔法回路はゼロのままだ。

 魔力を外に出せない。


「なら、体内で使えばいいんです」


 魔法回路とは要するに、自分と外界を繋ぐもの。

 それがなくても魔力を自分の中で走らせることはできる。

 早い話、魔力で己の身体能力を強化できるのだ。


「よし。剣に重さを感じない。大岩を……両断できました。これなら幼子の姿でも、前世と同等の力を出せます」


 もっと強いモンスターと戦える。きっと今までのより美味だろう。

 森の奥へ行く。

 村長の孫と、その舎弟たちが、雷を操るウサギに襲われていた。


「コトミール!? 魔法を使えないお前がどうしてこんな森の奥に……危ないから下がってろ! うぎゃぁぁ!」


 村長の孫は電撃を喰らって悲鳴を上げた。

 悲鳴で済むということは、心臓が止まるほどの威力ではないということだ。

 コトミールは剣を構えてウサギに接近。電撃が飛んできた。痛みに耐えながら距離を詰め、斬撃を見舞う。


「なっ! あいつの斬撃、全然見えなかった……大人でもあそこまで速い奴はいない……そんな馬鹿な!」


 村長の孫は目を見開いて固まる。

 コトミールはそれを放置し、ウサギの死体を担いで移動する。

 そして枯葉を集めて火打石で火をつけ、肉を焼いて食べた。


――――――

強い魔力回路を持つモンスターを捕食しました

悪食スキル:レベル3になりました。

――――――

電撃ウサギを捕食しました。

『電気属性』の魔法回路を開きます。

――――――


 強いだけあって、ウサギはとても美味かった。

 そして悪食スキルがなにやら激しく反応している。


「電気属性の魔法回路が開いた……?」


 嘘ではなさそうだ。

 コトミール自身、なにか、、、が体と魂に刻まれた、と深く実感した。


 試しに魔力を練り上げ、指先から放ってみる。

 するとバチバチと放電が起きた。


「魔法です……ついに魔法を使えるようになりました!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る