第4話 大根王子Ⅰ 四

 アルベルトは鍛冶屋のクロガネに入ってカウンターの奥に声をかけた。

「こんにちは」

「おうあんたがアルベルトか。クリフさんから話は聞いてるぜ。今日から働いてくれるんだろ?」

 大柄な短髪の男性が姿を見せた。いかつい見た目をしているが朗らかな笑顔でアルベルトを迎えてくれた。

「店長のドムだ。よろしくな。うちでは主に剣やハサミ、農業用品なんかを作ってる。クワとかな。あんたには事務と、あとは作業を少し手伝ってもらうかな。王子だし書き物もお手の物だろ。おいカタリナいるか!」

「はいよ」

 カタリナと呼ばれた金髪の若い女性が外の作業を切り上げて入ってきた。

「俺の娘だ。アルベルト王子だ、今日からうちで働くから仕事を教えてやってくれ。俺は剣を打つ仕事が残ってる」

「よろしくねアルベルト。色々大変だったみたいね。町の暮らしに慣れるのは大変でしょうけど時間はたっぷりあるわ。仲良くやっていきましょう」

「よろしくお願いしますカタリナさん」

「やだ、王子様が私に敬語なんて使わなくていいのよ。恥ずかしいわ。ささ、仕事はこちらですわ王子様」


 アルベルトにとって魔法が大したものではなかったこと、城を追い出されたことはショックだったが、意外にも街の暮らしは楽しかった。ドムとカタリナの二人を中心とした街の人達は真摯に働くアルベルトには好意的だし、貧しいなりにもお互い食べ物を分け合ったり家の修理などといったことも協力してこなすことで絆も深まっていった。一緒に酒を飲む友人もできた。酒の席では大根をサーベルに変える魔法は大いに盛り上がるので、アルベルト自身も少し救われた気がした。自分が生きていくのにもともと魔法など必要はないのかもしれない。酒場から帰る途中アルベルトはそんなことを考えながら歩いていた。

「楽しかったね」

 酒場から出てきたカタリナが小走りでアルベルトに並んだ。

「まさかホークが鼻にネギを入れながらコサックダンスをするなんて! 思い出しただけでおかしくなっちゃうわ」

「ああ。あれで普段絵本を描いてるっていうんだから面白いよ。このネギが世界を救うんだとか何言ってるか全然わからない」

「あなたの魔法も素敵だったわ。次は白馬を出してくれるかしら?」

「喜んでお迎えにあがりますよお姫様」

「あはは!」

 並んで歩く二人を月の光が優しく照らしている。アルベルトが城を出てから四年が経とうとしていた。

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