第3話 超速度_登場



〜集会所 10:00前〜


俺は一足先に集会所の門で、今朝起きた事をずっと違和感を感じながらゾエラを待っていた。

なんで俺は今日傷を受けたんだ?


ゾエラの身体能力向上を受けれて、ロボット女の攻撃も喰らった。これの共通点って、なにか存在するのか?

初心者狩りの攻撃をほぼ無効化しウィドウの攻撃も無傷で勝利……。

……ダメだ、わからねえ。


「……深く考えても無駄だなきっと」


俺は腕を組み、目を瞑ってゾエラを待った。


けど唯一引っかかるのがあの女が言っていた取っておきの武器という言葉。

生前を思い出せ……!何かヒントがあるはずだが……。

俺は日本にいた時にもう既に(能力)を持っていた非現実的な人間だったあれとかか!?


考える度脳がパンクする。

俺は冷静になるために集会所に入っていった。


〜フルトロン内〜


「はぁ、はぁ……!遅れちゃった!目覚まし壊れてたしぃ!!もう!!」


小さな細道から息を切らしながら集会所へ向かうゾエラ。

大通りに出るとゾエラはダッシュで向かっていく。

時計を見て走っているとなにかにぶつかって尻もちを着いた。


「あっ、す、すみません……!」


慌ててゾエラは立ち上がりお辞儀をして謝る。


「随分と慌ててるようじゃな、ヌシ」


ゾエラは顔を上げるとそこには片方から長い角を生やし、ショートヘアの女性が立っていた。


「なんじゃ〜?もしかして寝坊かぁ〜?」


少々バカにしながらゾエラの額をつんつんする。


「速いスピードでつんつんしないでください…」


すると彼女は後ろを向きおんぶさせる体制を取った。


「ほれ、乗れ」

「え、でも私……」


ゾエラは驚きながら乗るのを戸惑う。


「大丈夫じゃ。ワシは速いぞ?」


彼女はそういうとニヤッと笑い、ゾエラを乗るのを待った。



~集会場~

「遅いなぁゾエラ」


集会場にある椅子に座りあくびをする。

その瞬間、集会場の門から爆音が鳴り響いた。


「敵っ……!?」


俺は構え、煙で見えないが辛うじて見える人影を見る。

女性の咳払いが聞こえる。

魔王の配下かと一瞬思ったが、ある光景を見て俺は固まった体が一気にほどけた。

そこには女性におんぶされながらめちゃくちゃ驚いて口が開いてるゾエラがおんぶされていた。


「おー!!ここが集会場かぁ!随分とおんぼろなとこじゃのぉ~!」


角が生えた女は笑いながらゾエラを降ろす。


「タスケテ……」


降ろされたゾエラは壊れかけのロボットみたいにこちらに顔を向け小声で助けを求めてきた。

関わりたくなかったが涙目でこちらを見てくるゾエラをほっとけなかった。


「あんた……ゾエラの知り合いか?」


俺はゾエラたちに近づき角女に聞いた。滅茶苦茶関わりたくないが。


「ん?誰じゃヌシ、こいつの知り合いか?」

「あぁ、俺のパーティメンバーだよ。ゾエラっていうんだ」


角女はゾエラのほうを向く。そして再び俺のほうを向き笑い出した。


「3秒で着いたから自己紹介もしておらんかったのぉ~!ガハハハ!」


すると角女は俺とゾエラの前に立ち腕を組んで、俺達に向かって喋り始めた。


「ワシの名前はガルドじゃ!ガルド・ヴァン・ボルザークじゃ!」


自己紹介をし始め自信満々に自分の能力などを言い出す。


「ワシの能力はのぉ!スピードを出せる能力じゃ!なんでもかんでも速いぞ!」


すると後ろから集会場のお姉さんがガルドの肩を叩く。


「捕まる速度もお速いのですね?」


笑顔だったがその奥にはくそほど切れてるお姉さんが見えた。




~集会場依頼掲示板~


「あんなやつどこで会ったんだよゾエラ」


一度落ち着いたゾエラに質問をする。ゾエラは思い出したのか少し震えながら答えた。


「み、道を歩いてた。会った……怖かった……」


恐怖でピクピクしながら片言になってる。


「はぁ……まぁとにかくゾエラに怪我がなくてよかった」


俺はそういうと依頼を見ていく。

色々な依頼があるんだなぁ。猫の捜索……討伐依頼。

洞窟探索に、門番の手伝い……。

依頼書を見回っていたらゾエラがこっちに来た。


「タケル君。これとかどうです!?」


ゾエラは依頼に指をさし、俺に問いかけてくる。

ーーーーーーーーーーーーーー

(森の木切れ!)

(報酬:ワシをやる!)

ーーーーーーーーーーーーーー

ワシ…。完全にあいつが脳裏によぎった。


「ゾエラ。考え直してくr」

「依頼受理!行こ!タケル君!」


もうこいつ受理してやがった。逃げれねえ。




〜深淵の森〜


深淵と言う割には昼前なのでそこまで怖い雰囲気は無かった。

太陽の光があるだけ全然違う。無かったら多分今頃俺は帰っているだろう。


「タケル君!木には発動できるんですか?」


ゾエラは準備運動をしながら聞いてきた。

確かに……。人に対しては発動は可能だが物に対してはどうなんだろう?


「わかんねぇ。試してみる価値はあるかもな」


俺も腕をブンブン回し、準備運動を始めた。


「じゃ、お先に失礼しますよ!」


甲高い音が鳴り響く。ゾエラの身体全体が光り出す。

大きい音と共に、地面を蹴りあげ空高く飛び上がる。


「えっさ!!」


大樹をぶん殴り木をなぎ倒す。

身体向上を限界まで引きあげ、ゾエラは次々となぎ倒していく。

俺も準備運動が終わったので、気合を入れ木の前に立った。


「まずは手始めにこの木から……はぁ!!」


拳を握り木に殴りを入れた。ゾエラと違い何も起こらずペちっという音だけが鳴った。

滅茶苦茶恥ずかしい。ゾエラは見てない……セーフだ。


「どうですかー?タケル君!」


俺の前にスタッと降り、様子を見に来た。


「あぁ……えっと……ちょ、ちょっとこの木強すぎるなぁ……!!ちっくしょお!!俺の能力通用しn」

「壊せますよ?」


ゾエラがパンチで普通に倒してた。


「……もっと人の気持ちを考えてくれ」

「おー!依頼受けた奴がやっとるのぉ!」


森の奥から見覚えのある奴がノコノコ歩いてきた。


「お、ゾエラ!とその仲間が引き受けてくれたんか!これも何かの縁じゃの!!」


ゾエラの名前は覚えているのに、俺の名前は(その仲間)になってるのは少々腹が立つが……。


「依頼主あんたか?ガルド。」

「如何にもじゃ!ワシの家が森で埋もれてもおての!」


ガッハハハと笑うガルド。こちらに涙目で訴えかけるゾエラ。

お前報酬のとこ見てなかったのかよ。


「報酬はこのワシじゃ!ワシの家の周りの木を伐採したらワシをやろう!!」


ゾエラはその言葉を聞きすぐさま逃げるが、わずか2秒で捕まっていた。




〜深淵の森〜


16:30頃


「ゾエラがほとんどやってくれたな、申し訳ない……」


俺は集会所から持ってきた斧などを持って作業をしていた。

ゾエラは久々に体を動かせたと喜んでいる様子。

汗だくになって作業してる俺とは全然違う。

そしてその辺で寝てるガルド。

こいつだけは後で木で下敷きにするとして……。


「ゾエラー!調子はどうだー?」

「目標まで後10本程ですー!」


笑顔で答えるゾエラを見て体力の差を感じる俺。


「……おいガルド、これが終わったらお前はいらないから報酬金をくれ」

「なんじゃとー?ワシが必要無いか?」


起き上がってムッとするガルド。


「ワシの一族、ボルザーク族を知らんのか?ヌシ」

「勿論知らねぇ」


昨日この世界に来たばかりだから知ってるわけが無い。


「なんじゃヌシ、田舎モンか?」


腹が立ったけど俺は一族のことを聞く。


「なんだよ、そのボルザークってのは」

「ボルザーク族はワシ以外に後3人いるんじゃ。スピードのワシ。パワーの姉。ディフェンスの妹。オールマイティな兄。勿論ワシ達は仲がいいぞ!」


つまり他に偏った能力者がいる訳ってことか。

……そいつらに俺の能力は通用するのか?


「タ、タケルくん!!」


ダッシュで戻ってきたゾエラ。俺の後ろに行き、状況を説明し始める。


「あ、あそこに眼鏡をかけた男が……!!」


すると、俺をめがけて弾のようなものが飛んできた。


「っぶねぇ……!?」


咄嗟に避け、弾は頬を通り過ぎた。頬に当たった感覚があったが血は出ていなかった。


「誰じゃ!」


ガルドは俺たちの前に出て弾が飛んできた方向に向かって叫ぶ。


「…失礼。私は|持ち物狩り(アイテムハンター)でしてね。そこの女性からなにか貰おうと思ったのですが……」


手をポキポキ鳴らしながらこちらに近づいてくる。


「ハンター……!?」


俺は近づいてくる男から少しずつ引き下がる。


「まぁ見た感じ角が生えた女がいいものを持ってそうだ……貰うよ」


男は手を光らせ、パッとガルドの持ち物から1つ奪い取る。


「……な、無い!」


ガルドは体を触り確認するがどこにもない。


「お前!!ガルドから何を……!!」

「……なんだこれ。お守りぃ……?」


男の手からは青いお守りがぶら下がった。

ガルドはそれを見て角が光り出した。


「……ヌシ、それを返せ」


男に近づいていくガルド。俺は後ろからでもわかった。ガルドは今相当怒ってる。

恐らくとても大切なものなんだろう。


「……いらねぇから返すよ」


すると男はお守りをぐっと握りぐちゃぐちゃにする。


「!!」


ガルドはそれを見て角がさらに光り出す。


「ガルドちゃん!落ち着いて!」


ゾエラはガルドを呼びかけるがもうそれどころでは無い。


「おい、ハンター」

「……お怒りだなぁ、短気さん」


へっと笑う男に対しガルドは沸点が頂点に到達した。


「……頭と胴を離すぞ」

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