第48話・千夜一夜物語 5
俺はモルジアナ。シンドバッド様に仕える者だ。
シンドバッド様の命で一緒に千夜一夜物語とかいう魔法道具の中(中でいいのかな?)に入り、白い靄をひたすら歩いていたらいつの間にか一人になっていた。
シンドバッド様もアリババ様もカシム様もいない。
うるさい髭も天然っぽい奴も薬中毒も。
アラジン様もクロちゃんもいない。
一人。これが魔法の力か。
一回経験した千夜一夜物語とは違う、前のは頭の中に変な話が流れ込んできて最初から最後まで強制的だったけど、今回はちゃんと分かる。
袋を盗んで奴とそれを捕まえた奴。どちらも中身を言い合ってる。そんなの入らないだろうという中身を言い合ってる。法官も呆れてる。
今度は愛人自慢してる二人。趣味は真逆。その内片方がもう一人の愛人に興味を持ち始める。
次は二人の人と夜を共にする奴を取り合う話。
今度は浮気されたから仕返して、戻ってきたら浮気相手は用済みって話。
ちゃんと読める。
この話どれも二つを欲しがる話だ。
そういう時期は俺にもあったな。
まだシンドバッド様に仕える前、路地裏で生きてた時。
何でも欲しがってた。奪いもしたし奪われとした。
嫌な記憶だ、思い出したくない。
どっちも欲しいなんて欲深い。それでもないと欲しくなる。なければない程欲しくなる。人はそういうものだ。
この話たちは全部自分を見ているみたい。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。
見たくない、見たくない、見たくない。
欲しがり過ぎて、その為には何でもして。欲深いにも程がある。
俺は何もいらない!今が最高だから!
本当に?
これ以上はいらない?
ほんとうに?
話と一緒にあの時の記憶が一緒に鮮明に思い出してくる。
嫌な記憶だ!でも・・・良い記憶も同時にある。
卑しく獣の様に人の様に生きてきた時助けてくれたのがシンドバッド様だった。
シンドバッド様は奪うんじゃなくて生み出す事が出来る事を教えてくれた。
それが料理だった。
シンドバッド様と料理。
この二つが俺を救ってくれた。
人は欲深い。
何もいらないと思ったけど違うらしい。
欲を願いと言うならば、まだある。
シンドバッド様の幸せ。
それが俺の欲。
これは愛なのか恋なのか。まだ分からないけど。
どちらでも言える。
俺はシンドバッド様を愛している。
無限に繰り返される二つなら間に揺れる話がプツリと切れる。
同時に俺の意識も切れる。
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