第18話 心残り②

 薬を飲んだ高森は痛みが治まったのか、未央に礼を言うと車に向かった。秀一と未央に向かい、どうぞと後部座席を開ける。


 少女の死体を埋めた男の車に乗っていいものかどうか、秀一が迷う間もなく、未央がひょいと車に乗り込んだ。


 しょうがないので秀一も未央に従い車に乗る。


「秀ちゃん、僕の部屋にスマホ、忘れてきた?」


 車が走り出すと未央が訊いた。


「そうかも」と秀一。「分かんないけど」


 部活の朝練に出て、寮生の未央にシャワーを借りながら、スマホを充電させてもらったのを思い出した。

 今手元にないのだから、そのまま未央の部屋に置きっぱなしになっているのかもしれない。


「賢人くんが秀ちゃんに電話したら、僕の部屋から着信音が聞こえたんだって。いっぱいライン入ってる。家の人が探してるみたいだよ」


「家の人?」


「急用かも、電話しといたら?」と未央は自分のスマホを秀一に寄越しながら、「電話かけさせて下さい」と秀一に代わり、運転席の高森に断ってくれた。


 どうぞと高森。

 だが秀一はスマホを未央に押し返した。


「いい!」


 賢人が持ってきた仕事のせいで、厄介事に巻き込まれてしまったのだ。

 いま声を聞いたら怒鳴りつけてしまいそうだ。

 それだけならいいが、怒りと共にうっかり賢人を葬り去ってしまうかもしれない……。


「じゃあ、僕が返信しとく」

「お願い」

怜司れいじくんも心配してるよ」


 未央はメッセージを打ち始めた。


「秀一くん、魂は本当に存在するのか?」


 唐突に運転席から高森が訊いてきた。


「いわゆるエーテル体とかアストラル体とかいったものなのか?」


「えっ? エーテル? 何それ?」


 聞いたこともない言葉に秀一は眉を寄せる。


「——私は健康を損ねてから、長くてね……西洋医学だけでなく、怪しげな療法にもすがったことがあるんだが、そこでは松果体に魂が宿るとされていて、脳を活性化させる修行を行ったんだ」


「しょうかたいって……」


 唱歌隊だろうかと秀一は首を傾げる。


「君には、人の魂がどんな風にみえるんだ?」


 秀一は首を傾げたまま考え込む。「……光、かな……ちっちゃいツブツブが光りながら、ゆらゆらしてる」


 そうかなるほどと、高森は感心したように深くうなずいた。「君は、私の過去を言い当てたが、宇宙の起源も見えるのか? アカシックレコードにアクセス出来たりするのか?」


「赤? なに?」


 秀一が戸惑っていると、未央がスマホに目を落としたまま自慢気に言った。


「秀ちゃんは、魔法使いなんです!」


 未央の言葉に高森がクスッと笑った。


「君たち、まだ高校生だろ。別に普通だよ」


「……普通なの?」と秀一は驚く。


「ああ、大丈夫だ。気にすることじゃない」


 突然、未央が「もう、ダメだ……」と下を向いた。


「どうした」と高森がバックミラー越しに慌てた顔で未央を見る。「君まで呪われたか!」


「メール打ってたら、車に酔っちゃった……」と未央は苦しそうに目を瞑る。「……気持ち悪い、吐きそうだよ……」


「そこのカフェで、休もう!」


 高森は急いでログハウス風のカフェに車を停めた。


 周囲は薄闇に包まれ始める。

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