第13話 魂を四つ②
自分の殺害に関わった男四人を連れてこいと、幸恵は腕を組んだまま秀一に言った。
まるで命令するかのように。
おまえただの死人だろうとイラッとしたが、秀一は怒りを抑えた。
幸恵を消し去るのは簡単だ。
だが
この家に取り憑いている幸恵は残さなければならない。
秀一は幸恵を無視して、はしごを下りた。
宇佐美は三十年前に行方不明になった幸恵のことを調べている。
事件に関わった本条多恵子の『ご遺体』は出来た。
幸恵が殺害された状況——弘一という男に騙されて、バスの運転手に階段から落とされ、二人の男に埋められた——も聞き出せた。
宇佐美に教えれば、事件解決の手がかりになるだろう。
秀一の仕事は終わった。
もう幸恵に用はない。
はしごを下りて、本棚の前を通り過ぎようとしたら、悪魔召喚の本が目に入った。
秀一は立ち止まり、その古い本を手に取る。
「おまえ、こんなもんに呼び出されたのか」
どこかに隠れていた『怨嗟の悪魔』が秀一の後ろに立っていた。
「あなたは、お噂とはだいぶ違いますな」
なぜ幸恵を消さないのかと、魔王ベリアルに似た姿の巨大な悪魔が探るような目つきでじっと秀一を見下ろしている。
秀一は本に目を落としたまま言った。
「下の扉、開けてよ。もう帰る」
「どうぞご自由にお帰り下さい」
あなたには造作もないことでしょうと、悪魔は意外そうな顔をする。
そうだよ簡単だよ。
だが力を使えば使うほど、この入れ物が壊れていく。
——オレはまだ、秀一の姿でいたい。
「おまえが、開けろ!」
秀一は本のページを捲りながら命じた。
目を見られて、悪魔に弱みを握られたくない。
階下から大きな音がした。
悪魔は扉どころか、壁ごと開けたようだ——。
「下に人間がいるんだぞ!」
秀一は急いで本を棚にしまい、部屋を出ようとした。
「人間などいません」
悪魔の言葉に秀一は凍りついた。
この家は『怨嗟の悪魔』のテリトリー。中にいる人間を自由にする権利があった。
慌てて階段を駆け下りた秀一は、玄関ホール横の応接間で五人の死体を見た。
未央と宇佐美に真海、
全員、すでに冷たくなっている。
五つの死体が転がる中央で、幸恵が喜々と目を光らせていた。
「あたし、やったわ! こいつらの魂を吸い取ってやった!」
「早く、戻せ!」
秀一が怒鳴ると幸恵は、再び現れた『怨嗟の悪魔』の後ろに身を隠した。
「魔女さん、あたしの頼みきいてよ! あたしは、四人の男に復讐したいの! ここに連れてきて! そしたら、こいつらを戻してあげる」
秀一は再び幸恵への怒りを抑えた。
今、幸恵を消したらこの五人を戻すことは出来なくなる。
おい、なんとかしろと秀一は悪魔を見た。この女はおまえのペットだろと。
「人間をこれ以上ここに連れてきてもらっても困ります。代わりにあなたが魂を四つ、ここに持って来て下さい」
悪魔の言葉に幸恵は一瞬不服そうな顔をしたが、睨まれて反対するのを止めた。
「そうよ! 魂、四つ持ってきて! そしたら私が握り潰してやる!」
秀一は未央たち四人の死体を見つめた。
「——一つ、多いだろ。四つ欲しいなら、四つだけ奪え。一つ戻せよ」
「イヤよ!」
幸恵が言うと悪魔は、幸恵を見ながら首を振った。
幸恵は、しょうがないなと肩をすくめる。
「どれ戻すの? 選んでよ」
秀一に迷いはなかった。
床に膝を付き、冷たい未央の肩に触れる。
「この子は戻せ」
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