第22話
家の外から太鼓の音や道行く人たちの声がたくさん聞こえる。現在の時刻は18時だ。今、俺は近くの公園で花蓮を待っている。
「すごい人集りですねー、兄さん」
「いやいくらなんでも集まりすぎだろ」
目の前の道を眺めながら結衣と話す。
祭りが始まるということで街のみんなが会場へ歩いていってるが、人が多すぎて道がぎゅうぎゅう詰めになっている。
「この中に入るのか…」
「今のうちに覚悟決めといたほうがいいですよ。でないと花蓮さんがすぐ来ちゃいますよ」
「大丈夫だって、まだ来ねぇy…」
「あ、勇也〜!」
「……」
いわゆるフラグ、というやつだろうか。
俺がそう言うと花蓮が後ろから現れる。
「ごめん、おまたせ」
「あぁ、うん…」
「…何よーその顔」
「いや、今からあの中に身を投じると思うとな」
そう言って道のほうを指さす。
「わぁー、ぎゅうぎゅう詰めじゃない」
耳を済ませば、怒号やらなんやら色々聞こえてくる。
「ちょっと、押すなって!」
「邪魔だ!早く行ってくれって!」
「きゃあ!誰か、痴漢いるわよ!」
「このクソガキィ!誰の足踏んでんだ!」
その惨状は見るに堪えない。
「…ど、どこか別の道探しましょうか〜(汗)」
「そのほうが良さそうだ」
「はい、あの道はちょっと…」
俺たちは別の道を探すことにした。
「本当にこっちで合ってるか?」
「ま、間違いないわ!」
「もう声聞こえませんよ〜」
花蓮が先導していたが、どうも間違っている気がする。
先ほどまで聞こえていた太鼓の音や人の声が聞こえなくなってきているのだ。
「こ、今度はこっちの道よ!」
「はぁ」
なんだか会場から離れている気がしてならないので花蓮に先導役を変わってもらうことにする。
「あー、花蓮。ここからは俺に先導させてくれないか」
「え?あぁ、うん」
「これで安心です…」
なんとか声の聞こえるほうに戻ってこれたので一安心する。
「さぁ、このままこっちを進むぞ」
「分かったわ」
段々周りが明るくなる。どうやら会場は近いようだ。
「もうすぐ着くぞ」
「やった!早く行きましょ!」
俺の言葉を聞くと、花蓮は我先にと走っていった。
花蓮に続いて結衣も、
「私も先に行ってますね!」
と走っていった。
「…やれやれ、おーい待ってくれー!」
「わぁー!屋台がいっぱいね!」
「ど、どこから周りましょうか!?」
「落ち着け2人とも、近くの屋台からでいいだろう」
そう言って入口付近にある焼きそば屋を見る。
「焼きそば…悪くないわね!結衣ちゃん、行くわよ!」
「はい!お供します!」
そう言って屋台の方へ走っていった。
「おじさん!焼きそば3つください!」
「はいよ、900円ね」
「どうぞ」
「はい900円丁度、待ってろよ」
おじさんが花蓮から代金を受け取ると焼きそば作りを始める。その様子はまるで芸術のように美しかった。
「はい焼きそば3つ、完成だぜ」
「あ、ありがとうございます」
焼きそば屋を後にする。
「…凄かったわね、さっきのおじさん」
「あぁ、おおよそ一般人とは思えん腕前だ。どこかでそういう職にでも就いていたのだろうか?」
「ずるずる…、む!美味しいですよ!この焼きそば」
結衣が隣で驚きの声を出す。それに続くように花蓮も、
「どれどれ…、なぁっ!お、美味しいわ!」
「そんなにかよ」
「屋台の焼きそばとは思えないわ」
「ふーん…、あ、こりゃ確かに美味いな」
この焼きそばは今まで食べてきたどの焼きそばよりも美味い。瞬時にそう理解できるほどこれは美味しく出来ている。
「ごちそうさま!さぁ次行くわよ!」
「はいはい…どこへでも」
今日はちょっと骨が折れそうだ。
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