最後に辿り着いた感情
小田
第1話
彼女がどうして僕を気にかけるのか、出会った瞬間から分からずにいる。
この学園に入って一年が経過した。去年同じクラスだった
僕が学園をサボれば彼女がプリントを届けてくれたし、僕が体育の授業で組む相手がいないときは彼女が男友達を脅迫して組む相手を選定した。
黒髪のまるで男のような短髪の彼女は、まるで僕を分身かなにかのように、甲斐甲斐しく面倒をみてくれた。
しかし僕は、それがなにに起因するものなのか分からなかった。
僕はこの学園に入って初めて彼女に出会ったわけだし、僕には彼女から好意を持たれるような行動を取った覚えもない。
ただクラスの片隅でポツンとしていた僕に、美人の彼女が接触してくると、はじめは周囲から冷やかされたが、一年の六月に入ったころには既にクラスのマドンナである彼女が不良ぼっちに世話を焼いている、という構図は日常化していた。
そして今年、二年生に昇格した僕は、また彼女と同じクラスになった。
そして二年生はじまりの日、僕は一目惚れをした。
クラスに当然のように紛れこんでいた転校生(彼女ーー
そのとき僕は初めて音無が僕に世話を焼く理由に心当たりが湧いた。
つまり、僕の容姿を好きになったのではないか、というものだ。天王寺さんを見てると湧いてくる僕の恋心は、音無が僕に向ける感情と似たようなものかもしれない。
そう僕は結論付けた。
転校してきた天王寺さんは完璧としか言いようがない容姿をしていて、比較的容姿が整っているであろう音無よりも目立つ存在だった。
いや、友達なんかひとりもいない僕にはどちらがクラスの人気を集めていたのかははっきりと断言はできない。
表向きクラスの代表であるのは何故か音無の方だった。
みんなと交流を積極的に持とうとする音無だから、孤高を貫く天王寺さんよりも愛される存在になったーーそう言われれば理解できるが、それでも僕にはいまいち腑に落ちなかった。
天王寺さんの美貌の前では、音無が霞むどころか存在していることがマイナスであるかのような感覚を覚えてもおかしくはないだろうに。
そう天王寺さんに言うと、
「ミリくんは音無さんを人だと認識していないみたいだな」
と言われた。
ミリくんというの天王寺さんに僕が本名を名乗った瞬間に僕に付けられたあだ名である。
「僕は天王寺さん以外の人間は全員存在する価値がないものだと思っていますよ。
天王寺さんも自分以上に価値がある人間はいないと思ってるんじゃないですか?」
これだけ完璧な存在から見て世界はどう見えているんだろう、という率直な疑問をぶつけてみると、
「私には音無さんが眩しすぎるよ。
それ以外の人間についてはミリくんと同じ意見だがね」
と言った。
理解できない。
音無は僕の世話を焼くが、それは自分の欲望に従った結果ではないのか。
僕だけじゃない。
クラスの人間全員と仲良くする音無のどこに天王寺さんから気に掛けられる要素があるというのか。
「ならーー」
と、そこで言いかけた僕の言葉を、喉から出かかる前に自分で止める。
僕はこう言おうとしたのだ。
なら僕のことはどう思ってるんですか、と。
しかし、クラスの人間からどう思われるかなんて全く考えたこともない僕でさえ、天王寺さんからどう思われるのかを聞くことはできなかった。
こうして僕からはじめて話しかけて、今まで一ヶ月ほど会話を続けてくれている天王寺さんからどう思われているかを聞くこと、それはどうしようもなく僕を不安にさせた。
嫌われていたらどうしよう。
もしさっきの、『音無さん以外の人間』というカテゴリーの中に僕が入っていたらと思うだけで、僕の心は恐怖で凍えるかのような気持ちになる。
「ねえ、みーちゃん! 今日もお昼一緒に食べよっ!!」
次の日そう僕をお昼に誘ってきた音無に、
「うん、いいよ」
と返してしまったのは、天王寺さんと会話をして平静でいられるか不安だったからだろう。
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