断滅ノ賢者

プロローグ

　かつてこの地を巡り悪魔と人間との間に争いが起きた。

　戦渦となったのは緑が豊かな地『イプトス』。

　大量の悪魔達を率いる魔王軍を前に人類は抵抗するものの次々と大地は奪われ、豊かであった緑も血と業火で赤黒く変わりつつあった。

　そんな絶望する世界の中でひとりの男が立ち上がった。

　名を『黒髪の勇者　カイン』。

　未知なる金色の力を操る、人類最後の希望の光。

　その後ろには彼をサポートする三人の仲間が存在した。

　――豪傑（ごうけつ）の戦士。

　剛腕から振り下ろされる鉄槌は、魔物を押し潰し、大地を震撼させた。

　――艶容（えんよう）の魔女。

　人知を超えた膨大な魔力は、空を舞う魔物を焼き払い、虚空を作り出した。

　そして幼きながらも、――聡慧（そうけい）な賢者。

　身体に竜を宿し駆逐する魔法は、敵を噛み殺し、引き裂き、焼き払う。人類に希望を与え、悪魔には絶望を植え付けたのだ。

　圧倒的な強さを持った四人は、遂に魔王の所に辿り着く。

　魔王は逃げようとはしなかった。

　仲間はすべて倒され孤立したのに関わらず、その眼には一点の曇りすら感じさせない。

　幼い賢者が見守る中、勇者の光の剣が魔王の胴体を貫く。

　悲鳴を一言も上げず、それでいてあっけない幕引きだった。

　光となって朽ちていく肉体。

　天に消えていく魔王の意識。

　それでも魔王は消えるまで、勇者ではなく幼い賢者を眼（まなこ）に映していた。

　やがての肉体は光になり、その場から跡形もなく消えてしまう。

　世界は魔王から解放された。

　――――――――――

　――この物語は人間界から魔王がいなくなって十年後の物語。

　舞台はとある魔法学院の教師とひとりの少年から幕を開ける――。