【目指せ!1万PV!】転生被害者のやりなおし ~世界最強の身体と人生、赤の他人に奪われました~
マイルド・ロッコス
序章:こうして全てを奪われたことを知る
第1話 転生被害者
どうやら私は死んだらしい。
「死後の世界へようこそ。私は導き手の神位ヴェータス。オリデンス神聖帝国第二皇子カーネリアン・ヴァイス様、あなたは先ほど無様に死にました。ちょっと婉曲的な表現をするとその生涯に幕を閉じられたのです。」
目が覚めると、そこは花園。
周囲は心の安らぐ、清らかな香りに包まれており、中央には純白のテーブルセットが置かれ、私は茶器を挟んで、女神と向かい合う形で席につかされている。
恐る恐る触れてみると、抉られたはずの後頭部には傷一つない。
おまけに、腕も足もちぎれておらず、五体満足。健康体そのもののであった。
『戦にて散りし魂、黒き衣に身に包み。
新たなる生を、花園にて女神より与えられん。-聖句十五章-』
なるほど、聖典の教えは正しかったらしい。
身体を確認すると、着替えさせられたのか、白の簡易鎧は黒の儀礼服に変わっているようだった。
「遺したものは全て無為となり。あなたの二十年四か月の人生は全く空虚で無価値なものでありました。が、命に終わりは来たのです。気を落とさず、次の生を謳歌してください。」
そう言い切った彼女は『まずはお茶でもどうぞ』と茶器を私の方へ進めてくる。
…無為やら空虚やら失礼だな。
一言いってやりたくもなるが、『相手は女神だしな』と思い直し、お茶を啜って気を紛らわしてみる。
華やかな香りが鼻腔をくすぐり、ほのかな甘みが喉奥を満たす。
うん。おいしい。
ちなみに、目の前の失礼少女を女神だと推察したのは、どこかオカルティックな雰囲気のある紅白の儀式服に身を包んでいるのと、彼女の桃髪の後頭部上に天輪らしき物体が浮かんでいるからである。
特に天輪。神様自ら制作したのだろうか。
何十層の金糸と下地、そして多様な魔法石で膨大な数の術式が編み込まれている。
ざっと見積もっただけでも、小国なら一つや二つ買えそうだ。
「しかし、死んだというのにやけに冷静ですね。」
ぼんやりと眺めていると、眼下から拗ねるような、どこか投げやりな声が聞こえてきた。天輪をしげしげと見すぎたのに気を悪くしたのか、それとも挑発に乗ってこない私の態度に嫌気がさしたのか、目を落とすと眼前の女神は訝しげな表情を浮かべている。
「ここに来られる方は大体『うひょーい!転生だぁ!』とか『おいおい、また世界救わなきゃいけないのかよ』と肩をすくめたり、下手な猿芝居してくれるんですが…ひょっとしてドッキリだと思ってます?」
笑止。ドッキリなわけがあるまい。
私がこうも落ち着いていられるのは、聖典による予習。
ではなく、死んだときの記憶があるからなのだ。
◆◆◆
始まりは日も出ていない曙の出来事だった。
獣のような怒号と共に、我が帝国の結界を掻い潜り、突如として魔族十七万が聖都セントロに襲い掛かってきた。
その日、聖都には三百の警邏しかおらず、たまたま夜なべして試験勉強をしていた私を含めても多勢に無勢。それでも共に、果敢に立ち向かい。
損害ゼロでそれら軍勢と敵の総大将ペールビアを討ち取った。
さらに、朝四つ、昼九つ、暮六つそれぞれに、商業都市アルキス・マイス・ミートスへ同様の襲撃があったが、それらすべてを撃破し、聖都の結界の再強化も終えた私は夕餉を取ろうとしていた。
食卓には祖父母・皇帝である父君・母君・叔父上・姉上が揃っており、遅れてきた私は帯刀を解き、しばし歓談の時を過ごした。
問題なのはそのあとだった。
湯浴びを進められた私は刀と杖を従者に預け、離れにある浴場に向かったのだが、その際、何者かの襲撃にあったのだ。
奴らは魔族以上に鍛錬を積んでおり、その数三十で体格は様々。
私も徒手空拳でどうにか対応し、十五の敵まで倒したが、やはり多勢に無勢。
不意の隙をついた一撃に、意識を刈り取られ、目覚めたらこの場所にいたのだ。
◆◆◆
『悔いはないのですか?』という女神の言葉に対し、鼻を鳴らして答える。
あるはずもない。
わたしより優秀な姉上・兄上もいるし、何より最後の力で、反魔の結界も張れたのだ。
食卓にいなかった弟妹、それに婚約者のオフィーリアの安否は気になるが、賊…少なくとも魔族は結界で聖都から十五年は排斥されるはずだ。
被害が出ることはまず、ありえない。
それに、
「ふーん、想いは遺言状に残してきたと。流石、帝国を治める一族、皇族ってことですね。」
と女神はわざとらしく頷き、感心…というかどこか嘲笑するような素振りを見せてきた。
今振り返ると、この時にもっと突っ込んで聞いておくべきだったのだ。
なぜ、女神はやたら癪に触る、人を馬鹿にしたような態度をとるのかを。
そうすれば、
「しかし驚きですよ。
あなたを殺したのはその一族で。身体も地位もオフィーリアちゃんからの愛情も。
全部転生者に奪い取られても冷静だなんて。」
この言葉で、ああも動揺する必要はなかったはずなのだ。
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