第28話.潜入、再び④

 しばらく考えた後、バルドゥルが口を開く。


「なぜ、奴は屋敷の前にいたんだ? なんの用があった……ディック、何か分かるか?」


 問われたルイスは首を横に振る。バルドゥルはしばらく首をひねっていたが、不意にハッとして顔をあげると、イザベラのほうを向いた。


赤薔薇の姫ローテローゼ様」

「なあに? バルドゥル」

 

 イザベラは、ティーカップを持ったまま、バルドゥルのほうを振り返る。少しだけ首を傾げるイザベラは、美しさの中に可愛らしさが混ざって、一瞬バルドゥルは見惚れてしまう。


「バルドゥル?」

「は、はい。昨日の賊が屋敷周辺に現れました。おそらく、まだパナケアの秘宝を狙っているものと思われます。警戒したほうがよろしいかと……。」


 バルドゥルの言葉にイザベラは、その美しいまなじりを、すっと冷たく細める。


「まったく、忌々しいわね。トビアス、パナケアの秘宝を確認して」

「かしこまりました」


 トビアスは、ティーポットをワゴンに置くと、暖炉の隣にある大きなチェストの前にいく。そして、チェストの蓋を開けると、1本の杖と金属の筒のようなものを取りだした。

 それを、イザベラに見えるように掲げる。


「問題ありません」


 そう言って、トビアスは再び杖と金属の筒をチェストに戻して蓋をする。

 ルイスは、それを見てニヤリと口の端をあげた。

 その場の全員がパナケアの秘宝に注目していたため、そんなルイスに気付く者はいなかった。


「バルドゥル。あなたが守るこの部屋が一番安全だと思わない? 頼りにしているわよ」


 そう言ってイザベラはバルドゥルの目を見つめながら、涼やかな笑顔を見せた。バルドゥルは、その笑顔に引き込まれそうになる。

 だが、すぐに気を引き締めると姿勢を正した。


「はっ! どんなことがあっても守り抜いてみせます。もう二度と昨夜のような無様な姿は見せません」

「ありがとう。頑張ってね」


 イザベラは、もう一度バルドゥルに笑顔を向けた。


 その後、ルイスはバルドゥルから解放され部屋を出る。

 階段まで行くと、そこから気配を消して上階へと登っていった。




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 🔸お宝の位置は確認した!

 後は盗み出すだけだ!

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