第29話.マリベルの買い物①

 昼頃にようやく起きだしたティトとマリベル。

 最初に向かったのは、宿の食堂だった。

 昨夜、遅くまで起きていたうえに、今まで寝ていたので朝食は食べていない。二人とも空腹は限界に近かった。


 食堂に行くと、ちょうど昼どきのためか、食事を取る客でごった返している。


 ティトがどうしようかと迷っていると、宿の女将おかみさんが一つだけ空いているテーブルを指した。そこは、いつもルイスとティトが使っている場所だ。

 窓際の上等なテーブルだというのに、たまたまだろうか?

 ティトは、女将さんに頭をさげて、席に着く。

 マリベルはティトの向かい側に座った。さすがにティトのシャツでここに来るわけにもいかず、今は生乾きだが昨日の水色の服を着ている。


 しばらくすると、女将さんが二人分の食事を持ってきた。


「あれ? まだ頼んでませんが」

「ふんっ、ルイスから頼まれたんだよ。それからそっちの狐獣人ルナールの娘。食事が終わったら呼んどくれ。私の若いころの服を貸してやるよ」

「そうですか。ありがとうございます」


 ティトは女将さんに礼を言うと、二人分の食事を受け取った。


「礼ならルイスに言うんだね」


 そう言って、女将さんは厨房のほうへと戻っていった。


「ルイスは、もう出かけたのかな?」

「はい。そうみたいです。兄さんのことだから、もう伯爵の屋敷にいるかもしれませんね」


 そんな女将さんを二人して目で追いながら話を続ける。


「服、貸してもらえるように女将さんにお願いしてくれたのかな?」

「そうですね。兄さんは、ああ見えて気が利くんですよね」


「すごいね。ルイスは」

「はい。兄さんは凄いんです」


 ティトは自慢げに胸をそらした。それを見たマリベルが目を細めて楽しそうに笑う。


「ティトって、ほんとうにルイスのことが大好きなのね?」

「はい!」


 マリベルの言葉に、ティトは大きく頷いた。

 そして、二人は女将さんが運んできた料理に手をつける。空腹の限界だった二人は、しばらく無言で食事を口に運んでいた。




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 🔸「ティトって、ほんとうにルイスの

   ことが大好きなのね?」

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