姉妹

「お姉ちゃんってもうすぐアラサーだよね?」


 久しぶりに帰省した実家の子供部屋で、漫画を読んでいた妹は不意に口を開いた。

 あちらから話しかけてきたというのに、彼女の視線は未だ手元の漫画に向けられたままで、こちらを見るような雰囲気は微塵たりとも感じられなかった。

 だから私も、スマホに目を向けたまま返すことにした。


「そうだけど、何?」


 年齢。この前誕生日を迎えたばかりなのもあって、ちょうど気にしていたところだった。

 ただでさえお互い口数が少ないというのに、よりによってその話題を選ぶか、妹よ。


 内心気が気でない私を知ってか知らずか、妹は「いやあ、他意はないんだけどね」と前置きしてからゆっくりと口を開いた。


「なんていうかな……あのお姉ちゃんがもうそんな歳になったんだな、って思うとなんとなく感慨深いなあと」

「あんたももう21でしょうが」


 そういうのって、こちらの台詞ではないのだろうか。私は妹の赤ん坊の頃の姿だって知っているというのに。妹が知っている私の幼少期なんてどれだけ幼く見積もっても5歳とかだろう。

 これじゃどっちが上なのか分からないじゃないか。


 怒りたいような呆れたような。

 そんな感覚に陥った私に対して、妹は漫画に目を向けたまま「そりゃあ私も歳とるよねえ」とへらへら笑うばかりだった。


 相変わらず、能天気な笑い声だった。

 けれど、私はその日、妹の横顔に小さかった頃の彼女にはなかったものを見たような気がした。



「歳とったのなんてお互い様でしょ」

「それもそっか」



 あの頃に比べれば、お互い歳をとったものである。

 私も、妹も。

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