リシュールと魔法使いの秘密

彩霞

第一章 貧乏少年と魔法使いの青年

第1話 貧乏少年のリシュール

 朝晩が冷え込むようになった、秋のころ。


 その日、リシュールは路上で行う靴磨きの仕事を昼ごろに切り上げ、古着屋へ向かっていた。


 ウーファイア王国の城下町・アルトランで冬を迎えるのは、彼にとって今年で二度目になる。


 昨年の秋に十五歳を迎えたリシュールは、その年に田舎の孤児院を出ると、町の下宿屋の屋根裏部屋を借りて生活していた。


 しかし、屋根裏部屋は人が住むように作られていないので、冬を過ごすとなると寒さが厳しい。


 去年は下宿屋を切り盛りしている女主人——通称「おかみ」が、屋根裏でリシュールに死なれるのも困るからと、くたびれた毛布を二枚譲ってくれたので、何とか乗り越えられたが、屋根裏部屋は暖炉だんろがない上に、隙間風すきまかぜが入り放題である。


 そんな中では寒くてまともに眠れるわけがなく、毎日寝不足だった。


 その厳しい冬が今年も迫っているが、毛布を追加してもらう期待はできない。

 先日おかみに毛布のことをそれとなく聞いたら、「もう十分だろう」と言われてしまったのだ。きっと昨年無事に生き延びたので、今年も同じ数の毛布さえあれば事足りると思っているのだろう。


 これ以上彼女に何か言っても仕方がないようなので、彼は冬を少しでも暖かく過ごせるように古着屋へ向かっていた。そこで「マント」を買うのだ。


 しかし「毛布」ではなく、何故「マント」なのかというと節約のためである。


 彼は日々を生きていくだけで精一杯のお金しかない。「毛布」だと夜寝るときしか使えないが、「マント」であれば外にも羽織っていくことができるし、就寝時の防寒にもなる。そのため、貧乏なリシュールにとっては一石二鳥の品物なのだ。


「こんにちは」


 店に着いたリシュールが、ドアを開け中に入りながら挨拶をすると、店内で話をしていた大柄な男二人が振り返った。その内の右側に立っていた店主が、人の良さそうな顔に笑みを浮かべ、「いらっしゃい」と声を掛けた。

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