俺は出会った 10

 アリスと出会って、5年がたった。

 

 俺は17歳になり、アリスは俺より5歳年下だから、来月、12歳になる。 

 つまり、俺がアリスに出会った年齢だ。


 そんな記念すべきアリスの誕生日が、なんと、来月の茶会に重なった。

 

 ということで、来月の茶会は、いつも以上に悩んでいる。

 そう、プレゼントを何にするかだ。


 今までの誕生日は、茶会と重なったことはなかったため、プレゼントは、いつも、アリスの屋敷に届けていた。


 そして、肝心のプレゼントだが、考えて考えぬいたすえ、毎年、花と菓子を贈っている。さりげない贈り物に思ってもらえ、アリスに重荷に思われないように。

 もちろん、ここ数年は俺の手作りの菓子を丁寧にラッピングして届けている。

 アリス本人は知らないことだが……。


 しかし、今年はアリスの誕生日が茶会当日。

 本人に会えるんだから、面と向かってプレゼントを渡しても、変に思われないよな?

 

 直接渡すのだから、いつも以上に俺の気持ちをこめて、特別なプレゼントを渡したい。できれば、アリスの喜ぶ顔が見たい……。 


 とりあえず、参考になればと、他人の意見を聞いてみることにした。


 まずは、アリスの身近にいる兄のマークに聞いた。


「来月のアリスの誕生日、プレゼントはもう用意したのか?」


「ああ。決めたぞ」


「何を贈るんだ?」


「今年も石だ」

と、胸をはるマーク。


 また石か……。聞く相手をまちがえたか。

 

「あ、今、石を馬鹿にしたな?」

と、マーク。


 いや、馬鹿にはしていないが、参考にはならない予感がしただけだ。

 が、とりあえず、聞いてみることにした。


「今年も石ってことは……まさか、毎年、アリスの誕生日には石を贈っているのか?」


「ああ、そうだ! 今年で、アリスにあげるのは、12個目の石になる」


「もしかして、石と言っても宝石とか、珍しい天然石とかなのか?」

と、俺が聞いた。


「いや、違う。そういうのは普通すぎるだろう? 俺はそんな見た目のきれいさじゃなく、内面を見込んで、これぞ! と思った石をあげている」


 ……全く意味がわからない。


「つまり、アリスに、どういう石を贈っているんだ?」

と、確認してみた。


「庭だったり、山だったり、普通に転がっている石からアリスに見合う石を見つけてプレゼントするのが、俺のポリシーだ」


「……そうか。まあ、おまえのポリシーはどうでもいい。が、アリスは、その石を喜んでいるのか?」


「いや、今まで喜んだことはないな。だが、ほら、アリスはまだ子どもだったろ? にじみでる石の魅力がわかっていないだけだ。だが、今年は自信がある。ものすごい石を見つけたんだ。アリスにも絶対、その良さが伝わると思う。そうだ、ルイスには、特別に教えてやる。今年のアリスの誕生日に贈る石はな、河原で見つけてきたんだ」


「……」


「あ、河原の石なんて、普通だと思ったろ? 確かに、見た目は、よくある灰色の石だ。だが、驚くことに、俺に拾ってくれ、とアピールしてきたんだぞ、その石は。すごいだろう? そんな意志の強さもありながら、優しそうな雰囲気もあるし、アリスにぴったりの石だと思って、それにした。真似するなよ!」


「するか!」


 やっぱり、全く参考にならない。

 マークに聞いたのは、間違いだった。


 次は、兄上に聞いてみようと、兄上の執務室を訪れた。

 そこには、ウルスもいた。


「兄上、聞きたいことがあるんだが……」


 俺の言葉に、兄上の顔がぱあっと輝いた。


「兄様になんでも言ってごらん!」

と、にこにこしている。


 その時点で、聞いたことを後悔したが、アリスのためだ。

 最高のプレゼントを贈るために意見を聞いてみよう。


「来月、アリスの誕生日なんだけど、プレゼントは何がいいか悩んでて。兄上だったら、何を贈るのがいいと思う?」


 兄上はものすごく嬉しそうな顔で断言した。


「絶対、ぬいぐるみがいいよ!」


 その瞬間、ウルスが書類をバサリと落とした。

 大丈夫か? よほど、疲れてるんだな。


「ぬいぐるみは、確かに、女の子が喜びそうだ」


 俺の言葉に兄上は目を輝かせて、うなずいた。


「ぬいぐるみは最高の贈り物だよ! だって、ルイスが小さい時、ルイスの誕生日に、兄様がプレゼントしたのもぬいぐるみだったんだ。あれは、ライオンのぬいぐるみだったんだけど……」


「フィリップ! また、その話か……。ほんと、やめてくれ! どれだけ聞かされたと思ってる!」

 

 ウルスが顔をしかめて、叫んだ。

 が、兄上はその叫びが聞こえなかったように、上機嫌で話し続ける。


「兄様が差し出した、ライオンのぬいぐるみを、ルイスが小さな腕でぎゅーっとだきしめて、きらきらした瞳で兄様を見上げて……」


「あ、もういいから」

と、俺はさえぎった。


「えええー! ここからがいいところなのに!」

と、兄上が不満げに声をはりあげた。


その隣で、

「ナイス、ルイス」

と、ウルスがだじゃれのようなことをつぶやきながら、両手をあわせて、俺を拝んできた。


 兄上に聞いても参考にならないことは、よーくわかった。


 ウルスに聞いても、アリスが喜ぶようなプレゼントを教えてもらえるとは思えないが、せっかくだ。  

 とりあえず、ウルスにも聞いておこう。


「ウルスは、アリスにあげるなら、誕生日プレゼントは何がいいと思う?」


 ウルスは疲れた顔で、うーんと首をひねった。


「……現金とか?」


「さすが、金の亡者ウルス!」

と、兄上が笑い出した。


「誰が金の亡者だ! が、まあ、そうだな……。アリス嬢が喜ぶものか……。わからん。……が、今、一番、俺の欲しいのは睡眠だな」

と、心の底からしぼりだすように答えたウルス。


 思ったとおり、まるで参考にならない。

 ここに来たのは無駄足だった……。


 そして、俺のリサーチは早々に終わった。

 交流関係が狭すぎる俺は、残念だが他に聞く人がいない。

 

 やはり、自分で考えるしかないか……。

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