第10話 俺と幼馴染 (12歳の時) 

 俺マーク・ヴァルドには、幼馴染で親友がいる。第二王子のルイスだ。

 あまりに無表情で、小さい頃は人形王子と陰で呼ばれていた。


 が、よく見ると、筋肉や目の動きなど、探せばいくらでも変化が見つけられるのにな。


 俺の趣味は、石を集めることなんだが、石に比べたら、どれだけ変化の大きいことか! そもそも、石なんて変わらないじゃないかとよく言われる。


 が、とんでもない! 石だって表情がある。

 今日は機嫌がいいなとか。今日は、どうも、もやっとしてるなとか……。


 石たちを見慣れた俺からしたら、ルイスなんて無表情どころか表情豊かだ。


 

 12歳の俺とルイスは同じ学園に通っているが、クラスが違う。


 王子であるうえに、圧倒的な美貌と無表情で、他の学生たちから遠巻きにされているルイス。教室では、いつも一人だ。 

 だから、休み時間になると、俺はルイスのクラスにおしかけ、べらべらしゃべりかけ、たまにルイスが答える、というのが常だった。


 ある日、珍しく、ルイスのほうが朝一番に俺のクラスにやってきた。


 いつも淡々として、運動の授業以外で走っているところなど見たことないが、どうやら、走ってきたようだ。

 まぶしいくらいの金髪が乱れ、頬が少し赤い。


 あまりの美貌に、まわりの女子たちがルイスを見たまま固まった。


 見たら石になる。メデューサか! 危ない奴だな。

 俺は、すぐにルイスを座らせて、女子たちの目線から隠すように立った。


「どうした、ルイス? そんなに慌てて」

 

 俺が聞くと、ルイスの目が泳いだ。


 うわ、こんなに感情がもれている目を見たことがない!

 なんだ、何を言うんだ。期待と緊張がよぎった。


「アリス、なんか言ってたか?」


「アリス? アリス? ……って、俺の妹のアリスのことか?」


 すると、ルイスは恥ずかしそうに、うなずいた。

 初めて見る様子に驚きつつ、聞いた。 


「なんで、ルイスがアリスを知ってるんだ?」


「昨日、会った。お茶会で」


「昨日? あ! じゃあ、おまえが泣かせたのか? 俺のかわいい妹を!」


 俺は5歳年下のアリスがかわいくて仕方がない。

 父親もアリスを溺愛しているが、俺も決して負けていないと思っている。

 

 そのアリスを泣かせるなんて、ルイスであろうと許せん!


「悪かった」

と、ルイスが謝ってきた。


 瞳がうるみ、後悔している気持ちがひしひしと伝わってくる。

 こいつは、人をいじめたりする奴では決してない。


「アリスは、なんで泣いた?」


「ちびだな、って言ったからだ。でも、それは失礼な言葉だと後で知った。俺がアリスに本当に言いたかったのは……」


 そこで、ためらっている。

 おっ、この顔は照れてるな! 初めて見た。ルイスのこんな顔!


「アリスに本当に言いたかったのは、なんだったんだ?」


 俺は待てなくなって、先を促した。


「小さくて、か……」


「小さくて、何? 声が小さすぎて聞こえない」


「小さくて、かわいい」


 ブッ!


 思わずふきだしてしまった。

 かわいいだと? 一体、どうした、ルイス?


 その後、すぐに、ルイスとアリスの婚約が決まった。

 表情にはださなくても、行動は早いルイス。

 あなどれない奴だ!

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