第37話 うっわチョロすぎだろ



「本当にこんなところに?」


 盗賊少女の先導でたどり着いたのは、立ち寄った村から随分と離れた山の麓だった。


 山肌の一部が崩れており切り立った崖になっている。なんの変哲もないただの岩壁。


「貴様、僕たちを連れ回しておいて虚言だったら――どうなるか分かっているんだろうな?」

「ウソつかないし」


 敬意など微塵も感じない態度。

 ユーバーは剣の柄に手をかけるが――


「ここ蹴るんだよ……こう!」


 ブーツのつま先で盗賊少女が岩肌のくぼみを蹴とばす。すると、


 ――ガコンッ、ゴゴゴゴゴ


 壁の一部が鈍い音とともに横開きになり、奥へと続く暗闇を現した。

 

「へぇ」

「……おい娘」


 隣のエグモントがたずねる。


「こんなものをどうやって見つけた?」

「ウチが見つけたんじゃないし。この近くにいた猟師から聞いたんだ――ここに怪しい男が出入りしてたって。そんでウチらも入ってみたんだけどトラップだらけで」


 結局、たいした宝も見つけられずに退散したという。


「っていうか、入ったあとで分かったよ。お宝のにおいしなかったもん」

「その怪しい男とやらは見かけたのか?」

「ううん。でも全部探したわけじゃないし」


 エグモントは、ユーバーのほうを見て小さくうなずいてみせる。盗賊たちはその男を探していたわけではない。その男がアルトで、どこかで隠れ潜んでいる可能性はゼロではない。


 どうやらここはダンジョンだ。アルトが五体満足でいるかは分からないが。


「入ったことがあるのだな? 案内しろ」

「えぇ!?」


 少女が不満の声をあげる。


「やだよ。トラップあるってゆったじゃん。面倒だし、ここまで案内したら報酬くれるって約束だろ? それとも中まで言ったらもっとくれるわけ?」


 不敬な態度にユーバーはカチンと来て剣を抜く。


「うぇえっ!?」


 はっと顔色を変えて少女が飛びのく。


「せ、せめてここまでの報酬はくれるんだよな?」

「調子に乗るなよドブ鼠め、今度こそ殺されたいのかい――!」

「ッ!? くそっ、これだから貴族は嫌いなんだ! 覚えてろよ!」


 悪態をついて走り去っていった。


「王子、よい捨て駒になったかもしれませんが」

「なんだよ。僕に意見するって言うのかい?」

「いえ。それは」

「フン、ダンジョンなのかもしれないが、たいした魔力も感じないだろう? それにこの僕があんな下民とこれ以上一緒にいられないよ」

「なるほど」


 エグモントはわきまえて目礼する。 


「さあアルト狩りだ。この中で惨めに震えていると嬉しいんだけれどね……!」


 ユーバーは剣を片手に舌なめずりした。



 ■ ■ ■



「うっわチョロすぎだろ」


 モニターを見ながら思わず声が出た。

 ダミーダンジョンの入口前に立つ第2王子ユーバー。2年ぶりに見るが相変わらず嫌みったらしい男だ。


 俺はいま2つのダンジョンの境界付近に陣取っている。わざわざそれっぽい仕掛けをつくったダミーの出入口には監視カメラも取り付けてあって、そこから送られてくる映像を見ているわけだ。


 そしてユーバーの期待に添えなくて悪いんだが――


「アルトさまー焼けたー!」

「ほぉお、これは太くて熱くてわらわ好み、頬張るのが大変じゃ……!」

「あー。ウインナーいいなぁ」


 即席のグランピング施設をつくってバーベキュー中だったりする。洞窟内だが換気扇型の排煙装置――ではなく消煙装置もあって万全だ。


 メディが嬉しそうに串肉を運んできてくれた。


「はい、あーん」

「自分で食べれるぞ?」

「アルトさまお仕事中。だから、はいあーん」


 お言葉に甘えて食べさせてもらい、腹ごしらえ。


 ユーバー、惨めに震えてなくて悪かったな。

 あいつらの誘導はイメルダたちに任せていた。このダミーダンジョンにまつわる虚偽の情報を流して、正規のダンジョンに近づかせないようにする。


 まんまと奴らはその誘導に引っかかってくれた。チョロいとは思ったが、キアがいい演技をしてくれたおかげかな。


 いいように利用されて捨て台詞を吐く『小物の盗賊』の役――今ごろは陰で見守りながらほくそ笑んでいるだろう。


 と、


「すみませんっ、遅れましたぁー!」


 動く歩道を通ってマインがバタバタとやって来た。


 ユーバー撃退はすでに仕掛けたトラップに任せる予定だから全員集合する必要はないし、ノームたちには街づくりもあるから無理には誘っていないんだが、マインはみんなでアイデアを出したトラップの動作を見学したいらしい。


「はぁ、はぁ……ちょっと仲間が1人出勤して来なくて、探していたら遅くなりました」

「? 大丈夫なのか?」

「作業員の人数できっちりスケジュールを作っていたので慌てたのですが――2倍働くという仲間がいたので任せてきました!」

「そこまでやってんのか」

「もちろんです! 納期と工数に合わせて1人あたりの作業量を割り出して厳密に管理を――」


 もはや趣味の域を超えてるな。

 いや、そこまで含めて趣味なのか。


「まあいい。間に合ったぞマイン」

「おっ、では!?」

「今から入ってくるぞ、獲物さまご一行がな――」

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