第33話 肉体労働らしいので得意分野ですきっと!


 俺はメディたちを連れて長いトンネルを掘り進んだ。


「入口を増やすってどーゆーこと?」


 ニューがたずねてくる。


「入って来るとこ増えたら、マズくない?」

「ダミーを作るんだ。入口も、ダンジョンも」


 隠せないなら、もっと目立つものを作ってやればいい。できるだけ遠くに。いま俺が掘り進んでいるのは、入口とは反対方向だ。


「マインたちの街づくりみたいに、新しくダミーのダンジョンを作って人間をそっちに誘導する」

「めでぃたちのダンジョンに、人は来ない?」

「なるべくな。どうしても嗅ぎつける人間は出てくるだろうけど――」


 これで完全にシャットアウトできるなんて思っていない。

 あくまで確率を下げるというだけだ。


 そして、もしやばいレベルの相手――たとえば【神級】の英傑なんかも、そっちで対応できれば被害を最小限に抑えられる。……かもしれない。


「……あと、やっぱ俺も街づくりしたくなったっていうか」

「?」

「なんでもない」


 楽しそうに建設するノームを見て、ああいう大規模なのもやりたくなった、って理由もある。


「まあ、使わずに済むならそれが一番いいよ。人間なんて入って来なければそれでいい。……このくらい進めばいいか」


 掘削作業を中断する。壁の感触から、『外』が近いと感じたからだ。


「こっちのダンジョンづくりにも、みんなのアイデアをもらうから。よろしくな」

「うんっ」

「はーい」


 さて、目星はついしマインたちのところへ戻るか。


「……けっきょう距離あるよな。そうだ、《クリエイト》」


 通ってきたトンネルに新しい設備を付ける。


 それは機械仕掛けの通路だ。動力は魔力だけれど。2人が並んで乗れて、左右に手すりがあって、床が自動で進む――


「『動く歩道』だ」


 でかい空港や駅にあるやつ。これなら移動時間も短縮できる。


「さあ戻るぞ」

「わー、楽ちーん」

「はやく走れる!」

「こらメディ、ダッシュしないダッシュしない」


 はしゃぐメディたちと元の建設現場に戻る。作業中のノームに声をかけて、マインと朧の居場所を聞くと、彼女たちは何やら新しい施設を作ろうとしているらしい。


 見に行くと、すでに建築中だった3階建ての前に2人はいた。朧があれこれと提案して、マインはメモを取りながら聞いている。


「なにやってんだ?」

「おおあるじ殿! よくぞ戻られた」

「社長! ご視察はいかがでしたか?」

「上々だったけど……ここを何にするつもりだ」


 すると朧は、むっふーと勝ち誇ったような顔をして、


「これはあるじ殿のための施設じゃ。これからも夫人候補は増えていくであろう? あのベッドだけでは足りんだろうと思ってな」

「?」

「ゆえに……ここに娼館しょうかんをつくる!!!」

「なに言ってんだ」


 娼館――つまり、男が通うアレなお店のことだ。

 ホントになに言ってんだこいつ。


「おおっと、勘違いするでないぞあるじ殿よ。むろん、金など取らぬ!」

「そういうことじゃないんだが」

「部屋という部屋に女たちをそろえ、あるじ殿にいつでも奉仕できる体勢を整えるのじゃ! のう、マイン?」

「はい! 私も一生懸命にご奉仕させていただきます!」

「意味わかって言ってる?」


 いたって真面目な顔のマインは、


「夜の労働? ですよね、朧さんが教えてくれました。内容はこれから勉強しますが、なんであろうと力いっぱい励む所存です。肉体労働らしいので得意分野ですきっと!」

「そっちの教育係、ちょっと面貸せ」

「む、無知シチュじゃぞあるじ殿? 大好物であろう? 良くないか? 良くないじゃろうか?」


 マインに悪影響が及ぶ前に朧を叱りつけ、首根っこを掴んで家へと帰った。


 

 ■ ■ ■



 翌日。

 イメルダとキアが訪ねてきた。


 この盗賊コンビのことはある程度信頼しているので、家の前まで通してやった。


「こんなものまで作ってんのかい……改めて驚くね」


 洞窟内に普通の――こっちの世界基準でいうと高級な一軒家がことに困惑していた。


「それに、あの通路はなんだい? 何かの罠かと思ったよ」

「ああ、動く歩道な」


 ダミーダンジョンへ向かう道と同じように、こっちにも敷設してみた。村娘ちゃんを追い返すにも役に立つしな。


「ホント、常識外れだね」


 ため息をつくイメルダだが、あれからすっかり風呂好きになったらしく、オリーブ色のロングヘアーにも手入れが行き届いている。

 同じく小綺麗にしたキアは俺のことを見ると、何だかはにかんで、


「お、おっす、ひさしぶり……だね」


 髪にはヘアピンまで付けて色気づいている。さすがに年齢的に妹って感じなんだが――


 そういえば。

 俺にも妹がいた。こっちでの妹だ。


 王宮に居たころ、兄弟の中で唯一俺の味方だったジェリダ。あまり自己主張が強く性格だったし、あの権力争いのひどい王宮の中で、無事にやれてるだろうか。今ごろは16歳になっているか。彼女も相当な美少女だったよな。


「……なんか、他の女のこと考えてそうな顔してんだけど……」


 さすが盗賊。勘が鋭い。

 ここは話題を変えたほうが良さそうだ。


「で。今日はどうしたんだ?」

「ちょっと不穏なウワサを聞いてね。念のため耳にいれておこうかと――アンタ、ここに人が増えちゃ困るんだろ」

「ああ」


 イメルダたちは、盗賊としてあちこちで情報収集をしている。義賊である彼女たちは、ターゲットである貴族連中の情報を特に求めているんだ。


「レイモンド王家の第3王子が行方知らずのまま――って話は知ってるかい? 国家反逆罪の王子様さ」

「…………。知ってるよ、な」


 第3王子、アルト・レイモンド――もちろん俺のことだ。


 イメルダたちに正体は明かしていないが、俺は偽名を使っていないし、メディたちは普通に『アルト』と呼ぶし……この鋭い盗賊たちは、薄々勘づいているのかもしれない。


「その王子を探して、第2王子のユーバーが動き出したって話だ。2年も経つ……普通ならその辺で野垂れ死んでるだろうけどねぇ」


 正解。

 ダンジョンで野垂れ死んで、いまは美少女たちとイチャイチャやってます。


「懸賞金もかかってるんじゃないか? いいのか、そいつに先を越されて」

「ふん。金のためだけに盗賊やってるんじゃないよ」


 イメルダは腕を組んで、


「アタシの勘では、そのユーバーって王子のほうが怪しいね。いいウワサも聞かない。第3王子が本当に罪を犯したのかすら疑わしいね」

「ウチら、悪い貴族とか王族は許さないし。逆にそいつらにハメられたってゆーなら……そっちの味方をしたい、って思うし」

「そうか」

 

 捜索範囲が広げられれば、このダンジョンを発見されるかもしれない。そして、もしもそこにが潜んでいれば危険が及ぶ……。


「情報助かるよ。ありがとうな、イメルダ、キア」


 人間に完全に心を許す気はないが、見ていて面白い村娘ちゃんや、この信頼できる盗賊コンビはそこまで嫌いになれない。


「な、なんだい。素直で気持ち悪いね」

「っっ、照れるじゃん……」

「お礼代わりに、風呂入るか」

「「っっっ!?」」


 このあとメチャクチャ風呂に入った。

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