第17話 覗きでもしてるみたいだな
■ ■ ■
指先に灯した魔法の灯火。
暗闇を照らし忍び足で進むキアは、小さくこぼした。
「なんもない……」
てっきりここは伝承に聞く『ダンジョン』だと思ったのに。お宝どころか、モンスターやトラップも見当たらない。
自分の嗅覚に自信をなくしかけるが、
「――んでも、この瘴気の濃さで『何もない』は無理あるよねぇ? くんくん……」
それに、奥へと伸びる通路はここがただの洞窟でないことを示している。
気を取り直して進むと、ところどころ地面に妙なくぼみを見つける。なにか、杭のようなものが刺さった跡だろうか。分かれ道のたびにいくつか新しい穴が空いている。
「案内看板でもあったりしてー……なんつって」
観光地でもあるまいし。
となると、やはりトラップの形跡だろうか。より慎重に進むべきかもしれない――
「キア」
「ひっ!?」
気を引き締めようとしたところで、背後から声がした。
「あんた、こんなところで何してるんだい」
「あ、姉御……!?」
長身の女性――盗賊団の女リーダー、イメルダだ。
恩人で、憧れの存在。
13歳のキアと、25歳のイメルダ。姉妹とみるには年が離れすぎているが、キアはそう思って慕っている。
オリーブ色のロングヘアーに、目立たない地味な服装。革の手袋に、ボロ布をマフラーにして、足下はロングブーツ。鋭い眼光は盗賊の男どもを束ねるのに役立つし、こうして腕を組んで立っているだけで、威厳すら感じられる。
「姉御こそ、なんでここに?」
偶然見つけたダンジョンらしき洞窟に、なぜイメルダが?
「ここはアタシの『秘密の場所』なのさ」
「秘密?」
「着いて来な」
「ちょ、姉御……?」
ズンズン進んでいくイメルダを慌てて追っていく。
「でも……あーあ、姉御に内緒でお宝見つけられると思ったのになー」
「ふん、10年早いよ」
「10年あれば、ウチも姉御みたいに背も伸びてカッコ良くなっちゃうよねー」
「あんたはそのままでいいよ」
「えー。やだー」
子供扱いは悔しいが、こうして彼女の背を追うのは嫌じゃない。
盗賊といえば私利私欲に走る連中も多いが、このイメルダに惚れ込んで集ったキアたちはそうではない。貴族や、ときに王族すら狙う義賊だ。
イメルダの命令ならいくらでも命を投げ出せる。そんな覚悟を持った盗賊団。
頼りになるお頭についていくと、
「ここだよ」
異様な空間に行き会った。
「なにこれ!?」
もうもうと立ちこめる湯気。木製の内装に――あれはバスタブだろうか? 絶え間なく湯が注がれ、あふれ出ている。これは――
「風呂……?」
「そうさ。ここの湯にはね、リラックスしたいときに1人で来てるんだよ。……まさか、あんたに見つかるなんてね」
「へえ……?」
イメルダはとにかくプライベートを見せない人だ。食事ですら一味とともにではなく、一人で離れて済ませてしまうほど。寝顔も見せないし、入浴姿なんてもっての外だ。
警戒心の塊のような人だから――
(そっか。たまにこうして息抜きしてんだ)
ここなら人の目に肌をさらすこともないし。
(あと……いい匂い)
濡れた木肌からにじみ出る香りが充満した空間。心地良いのには違いないが――
■ ■ ■
盗賊少女キアが、俺の作った浴場にたどり着いた。
それを俺は壁の裏から見ている。
向こう側からは鏡に見えるが、こちら側からはガラス窓のように向こうが丸見え。マジックミラーってやつだ。
「……なんか、覗きでもしてるみたいだな」
みたいじゃなくて正真正銘の覗きなんだが。
しかしこれもダンジョンマスターとしての仕事だ。仕方ない。
――そして。
ここに彼女を誘導した『イメルダ』は、朧だ。
千年妖狐の変化能力を使って、男勝りの女盗賊に姿を変えた。朧によると、人間の記憶を読み取り、外見を再現できるとのことだった。
俺はそんな朧に、ゲームでの知識を伝えた。キアのこと、彼女のボスであるイメルダのこと。関係性や口調まで。
『イメルダ』を使ってダンジョンの外まで誘導することもできた。
だが、外に出てからが問題だ。出口でキアと「バイバイ」とはいかないだろうし、そのまま行動を共にして本物のイメルダと鉢合わせるわけにもいかないし。
――不本意だが、キアには村娘ちゃんと同じ運命をたどってもらおう。
そう、口止めしてから外に追い出す。
朧の誘導で、俺の作った気持ち良すぎるお風呂に沈んでもらう!
覚悟しろよ盗賊少女キア。その幼い乙女の肌に、消えない快感を刻み込んでやるからな……!!(風呂)
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