第50話 クリエイターとイデオロギーは相性が最悪

 思想とか主義とかの解説ってのは、クリエイターにとっては毒だと思ってます。


 社会学とか、哲学とか、ああいうのはひとつの価値観とかものの見方というに過ぎず、それが正しいと保障されたものでもないわけで。ここが、科学や数学と違う部分で、あくまで仮説の学問なんですよねぇ。ここを肝に銘じることが大事と思います。


 科学も数学も、後の世になって間違いが見つかって通説が訂正されたりもするんですよね、恐ろしく低い確率ですけど。歴史なんてのは端から仮説だと呑み込んだ上でやる分野の学問ですんで、社会学だの哲学だの思想だのも同じ、ということです。


 もう一つのエッセイではしょっちゅうコレを書いてますが、ここでも念押しの為に書いておこうかな、と。創作者にとってはホント、毒なので。


 哲学とか、思想とかで、誰かが社会を分析して「これこれこうだから、どうのこうの、」と言っていたなら、それはということなんですよね。私はこういう考えを持っている!と青年の主張してるだけだ、と。


 これ、クリエイターにはすごく大事なことだと思います。


 である、ということで、その事象そのものはその人の言うようになってるとは限りません。


 本当にはどうなっているのかは、誰にも解んないです。


 誰もが、個々人でバラバラにその事象を解釈しているし、正解を知っている誰かなど居ないからです。事象そのものが正解を教えてくれるわけでもないんで。正解を知っている、というヤツがいたら大嘘つき確定です。



 例えばフェミニストが「これは『わからせ』という表現だ、その意味は――」というようなことを言ったとしても、それはその人の思想や価値観で解釈したというだけのことでしかなく、表現は人それぞれで価値観や主義が違えばまったく別の見え方になって、別の解釈を生み出す、ということなんです。


 だから正しくは、「私はこの表現を『わからせ』と名付けてこのように解釈しようと思う、その意味は――」となるんですね。


 これ、思想者や主義者の言い方が紛らわしくって、さもそれが正しいかのように語るの、詐欺ですよ。


「あなたがそう思ってるだけですよね?」ていう反対陣営の超有名な返しセリフにはそういう意味合いが背景に含まれてますが、ちゃんと1から説明しないと正しい批判なのにすごく分からず屋みたいに聞こえちゃいますよね…



 で、この欺瞞ですが、クリエイターとしてはそんな嘘に騙されてると制作に悪影響が出るんで、注意が必要と思ってます。


 だって嘘なんだもん。見る人それぞれ、価値観や主義が違えば違って見えるものだ、というトコロの事象を、正反対の捉え方を推奨するかのような言説ですもん。


「真実はいつも一つ!」…というワケじゃないのです。



 誰かが己の価値観による見え方で見たに過ぎないところの解釈を、そうと注釈も付けない断言口調で、「これこれこうなんです!」とやっちゃうと、人によってはそれ以前に持っていた違う解釈を打ち消して、その新しい解釈で塗り替えちゃったりします。


 実際のところ、漠然とした見方で見ていた事象で別に解釈など意識していなかったとしても、そこにはその人のオリジナルの価値観と自然なモノの捉え方、それはその人の育成歴とか家族共有の価値観といったナチュラルで、オンリーワンなモノが存在したわけで、それが掻き消されたというこの重大さに思い馳せるべきかなとも思います。


 まぁ、ゴタゴタと書いてきたけど、要するにイデオロギーはクソだ、と言いたいだけなんですけどね。



 純文学とかを目指してたり、文芸系を目指してる書き手さんは、特にここの逆転した捉え方の欺瞞に引っ掛かっていると賞選考とかでものすごく足を引っ張られます。


 たいがいの書き方本にはコレに関することが書かれてありますから。基本です。



 キャラの一人ひとりが違う価値観や考え方を持つ。すると世界の見え方もキャラごとで変わる。…という具合。聞いたことがある話と思います。


 宗教とかもですが、マニュアルに従った考え方はオリジナリティの対極で、ありふれたモノしか生み出せなくなる既製品思考です。もともと個々人の生育環境はバラバラなのでその価値観もバラバラなのが当たり前で、それが個性に繋がるわけですが、ロードローラーでたいらに地ならししちゃうのが思想、というワケですね。



 よって、クリエイターとイデオロギーは相性が最悪だと言わざるを得ません!


 漫然とした、常識とか社会通念といったものも、これと同じで、初期段階ではこれに一石を投じるということも主義者はやってきたという歴史的事実はありますが。



(注:日本仏教とか神道とか、日本の宗教は割とマニュアルチックさが無いですので例外に当たる? のですかねぇ?)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る