第25話 作戦開始

 そして、その日の深夜。

 日付は変わり、兵が寝静まっている頃。


「――よし。全員、馬に付けた口籠くちかごひづめおおぬのを外せ」


 バレる事なく敵陣深くにある食料庫しょくりょうこ――いや、武器や食料を前線の兵へと配給はいきゅうする重要拠点じゅうようきょてんの傍へとしのることに成功した。

 山の方面から馬のいななきやひづめの音を抑え忍び寄る事で、敵軍は俺たちに気が付いてない。


 ここから見る限り、知らない家紋が刻まれた鎧を身に纏う兵士が紛れている。

 どうやら、新しい指揮官が到着してしまったようだ。

 しかし戦功を奪い合う既存のラキバニア王国兵も多数確認している。


 一晩如きで、その溝が埋まったとは考えにくい。

 素晴らしい連携や指揮系統が機能するとは、到底思えないな。


「騎兵のおっちゃん諸君。改めて言うが――これはまさ致命打ちめいだを与える一撃です。敵の急所を突き、諸君しょくんあなどり使い捨てようとした若輩者共じゃくはいものどもの鼻を明かす一撃いちげきです。――同時に、おっちゃんを護ってくれる若者は護らねばなりません」


 俺の言葉に居並ぶおっちゃん共は――死を覚悟した目を向けている。

 誰1人、臆病風おくびょうかぜに吹かれてはいない。


 このままで終われるかという悔しさと、ここまで時代を作って来た、おっちゃんの誇りを感じる。


「狙うは青い光が灯る、敵の重要備蓄庫じゅうようびちくこ! おっちゃんは中央の魔法師団を護り、原始的げんしてき火矢ひやで燃やす! 魔法師団は火を消す為の魔法を使う敵がいればレジスト。同時に火の勢いを増してください。俺は――皆にかかる火の粉を、先頭に立ち引き受けましょう!」


 潜んでいる関係上、誰も声は上げない。

 だが――同行しているエレナさんを含め、誰も彼もがやる気に満ちた瞳だ。


 作戦と、通り抜ける道順も皆の頭に叩き込んである。

 おっちゃんとは言え、何度も実際に自陣で演習をすれば――身体に染み付いて覚えるのだ。


「――敵に感知されぬよう、火打ち石で火矢を灯してください! 魔法は決して使わずに!」


 大なり小なり、魔法を使えばつむじ風のような魔力まりょくうずが起こる。

 つまり、音より分かりやすく敵に気取られる。


 これは奇襲きしゅうなのだから――事前にバレて迎撃げいげきの準備をされては意味がない。


 この世界は魔法での戦闘が発達したが故に、原始的な火矢での夜襲やしゅうなどへの警戒が薄いのは――潜伏せんぷく熟知じゅくちしている。


 松明たいまつに火が灯り、火矢部隊も――中央の魔法師団を護る布陣も準備が出来た。


騎乗きじょう!」


 そうして全員を馬に乗せる。

 流石に、山に300近い松明たいまつ火矢ひやの明かりが灯れば――敵の見張りが騒ぎ出す。


 だが敵は、こんな陣の深くに奇襲が来るなど想定していない。

 言ってしまえば――大勝たいしょうに浮かれきっている敵だ。


 見張りが敵襲と確信して防備を固める動きを完遂される前に、燃やしきって見せましょう!

 ここまでの敵の動きを見るに、だ。


 おっちゃんの脂汗あぶらあせ乾燥かんそうしてにおすより前に――作戦を終了させ、帰って身体を拭く余裕すらある!


「――総員、突撃ぃいいい!」


「「「うぉおおお!」」」


「おっさんを舐めるなよ、小童共がぁあああ!」


 俺の声に合わせ――馬を駆り山を駆け降りる。


「ゾリス連合国の若造が、調子に乗るなよ!」


「ジグラス王国の、子供の未来を――我らが護るのだ!」


「ほれ! 小僧共、腹を空かして家へ帰れぇえええ!」


 俺とエレナさんを先頭に敵陣へ攻め入り――灯った青い光へ向け、味方のおっちゃんたちが火矢を飛ばす。


「な、なんだと!? 敵襲ていkしゅう!? おい、魔法を使える物は鎮火ちんかをしろ!」


「敵襲だ! 全員、起きろ! 武器を持てぇえええ!」


 はははっ!

 遅い遅い!


 俺が忍び込み――大切な食糧や軍需物資の貯蔵庫の明かりには、エレナさんの魔力に反応する鉱石を混ぜてある。


 要点だけを狙い魔法師団へ徹底的にサポートをさせる我々を、急な対応で止められるものか!


「お、おのれぇ! よもや着任ちゃくにんと同時に奇襲きしゅうとは! おい、敵を止めろ!」


「バーゼル伯爵! 危険です!」


「危険をかえりみずに、この窮地きゅうちを救えるものか! ここは我が軍の生命線だぞ!? 馬と武器を携えた者は、我に続けぇえええ!」


 おお。

 敵陣から、何とも勇猛果敢ゆうもんかかん将校しょうこうが飛び出して来た。

 寝起きで急いだからだろう。


 見事な造りの鎧を中途半端な状態で着込んだ指揮官、彼の後ろには同じように、きらびやかな鎧を一部だけ着込んだ騎兵が続いている。


 十全じゅうぜんに準備をしている猶予ゆうよなど無い。

 犠牲ぎせいかえりみず、ここは止めるべきとの英断えいだん

 さぞかし、名のある将なのだろう。

 バーゼル伯爵と聞こえたが……。



―――――――――――

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