1-34 ごめんね?

「ら、雷人らいと? 怒ってる? ごめんね、悪気は無かったの。こう、寝起きで頭回らなくて、ね? 咄嗟とっさにね? 手が出ちゃったっていうか……。うん、ごめんね?」


 朝八時、雷人、空、フィアの三人は丸テーブルを囲んで朝食を食べていた。


 今日の朝ご飯は、白米、味噌汁、目玉焼き、そして鯖缶さばかんだ。

 焼きざけ? そんな物は無い。


 時間が経って落ち着きを取り戻したらしきフィアは、上目遣いでちょっとおどおどしながら俺の様子を伺っていた。


 自分が悪いと思っているからなのだろうが、今のフィアは年相応の女の子にしか見えない。いつもの毅然きぜんとしているフィアとどっちが本当のフィアなのだろうか?


 正解はどっちもなのかもしれないが、そんな事を考えながら黙っているとフィアがちょっと泣きそうな感じになる。


 うーん、普段あまり弱い所を見せてくれないからか弱気になってるのが可愛い。

 こうなるとなんか少し……あれだ。庇護欲ひごよく的なものがくすぐられるな。


 やっぱり女子がいると日常にも華があるな。

 俺、こういうのに弱いんだよなぁ。


「別に怒ってない。気にしなくていいぞ」


「本当に? 毎朝近寄って来てうざいとか思ってない?」


「本当だよ。思ってたらとっくにホーリークレイドルに帰らせてる」


「そうそう、こんなね。うらやまな状況になって嫌な男なんているわけ無いよ。むしろ叩かれてしかるべきだよね」


 空がご飯をつつきながら呆れたように語る。

 空は何も分かっていない。


「お前が同じような状況になるように祈ってるよ」


「あはは、ないない。彼女いない歴=年齢どころか、仲のいい女の子すら少ない僕にこんな状況ありえないって。でもその気持ちだけは貰っとくよ。ありがと。やっぱり、持ってる男は余裕があるなぁ」


 駄目だ。こいつ嫌味だと理解していない。そしてさらに嫌味で返してきやがった。

 それに何も持ってないっての、こうなったら本気で祈っといてやろう。


 雷人達は朝食を済ませて片付け、それぞれに準備を整えるとリビングに集合した。

 現在時刻は八時半、正直まだまだ早い時間だとは思うが、土曜日だからと言ってダラダラしたりはしない。


「よし、じゃあ今日も行くわよ。張り切って行きましょ」


 フィアはそう言うと左腕に着けた端末を口元に持って来ると、それに向かって話しかけた。


「おはようシンシア、朝早くに悪いけどそっちに送ってもらえる?」


 フィアの問いかけに少し間を開けて返事があった。


「ふあ~、おはようございます。今転送しますねー」


「ありがと、さっ、行くわよ」


 フィアがお礼を告げながら雷人と空の手を取ると三人の体が光に包まれ始め、虚空こくうへと姿を消した。リビングには誰もいなくなり静寂が訪れた。



 *****


 三人が目を開けると、そこは雷人達の控え室だった。

 部屋を見渡すと眠そうに欠伸あくびをしているシンシアさんと唯が向かい合ってソファに腰掛けていた。


 唯は雷人達に気付くと顔の横で小さく手を振った。


「おはよう、唯。いつもながら早いな」


「あはは、なんか唯ちゃんよりも早く来たことが無い気がするんだけど、気の所為かな?」


「んー私達も遅くは無いはずだけど、唯は早いわね。とはいえ朝は苦手だからこれ以上早くするのは私には無理ね。ふぁあ」


「おはようございます。フィアさん、空君、雷人君。どうも朝早く目が覚めてしまいますので、家にいても何をするわけでもないですし、こっちにいた方が楽しいですから」


 四人はソファに座ってシンシアさんが出してくれたお茶を飲んで今日の予定を考える。


「んー、フォレオがいれば銃に対する訓練も出来るんだけど……あの子はあれで結構忙しいのよね。どうしようかしら」


「そういえばあれ以来フォレオと会ってないな。最初の時も結局すぐに仕事に行っちゃったし、本当に忙しいんだな」


「そうなのよねぇ。んーよし、それじゃあ今日は実戦形式の訓練をしましょうか。この一ヶ月頑張って結構力もついてきたと思うし、実戦で得られる経験はとても大きいもの。いつもロボット相手に戦ってはいるけど、最近じゃ危なげもなくなってきてたものね」


「そうだな。それじゃあ、組み合わせはどうする?」


 賛同してそう言うと唯が勢いよくビシッと手を上げた。


「私、雷人君とやりたいです。一度全力で戦ってみたいと思っていたんですよ」


 唯の勢いに三人はビクっと体を震わせて驚いたが、その目を見て異論を挟む者はいなかった。


「えっとじゃあ僕の相手はフィアさんだね。お手柔らかにお願いします」


「そうね。ちょうど良かったわ。じゃあ早速訓練室に行きましょうか」


 そう言いながら立ち上がるフィアに続いて三人も腰を上げる。


「全力ですよ? 宜しくお願いしますね」


「はは、分かったよ。やるからには本気を出すさ」


 唯の勢いに圧されながらもなんとかそう答えた雷人であった。

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