1-19 能力確認

 少し時間が経って午前十時。

 雷人達は空を連れて社長とシンシアさんへの挨拶を済ませ、控え室へとやって来ていた。


 マリエルさんとフォレオは残念ながら仕事に出ていた。

 結構忙しいみたいだな。


 この会社は仕事の内容によって、フィアのように一人で受ける事と複数人で受ける事があるらしい。複数人で受ける際にしっかりとした連携れんけいが取れるようにあらかじめグループ分けされているんだそうだ。


 どうやらこのひかえ室はオペレーターのシンシアさんとマリエルさん、フォレオ、フィアの四人のみのグループで使用しているらしい。


 普通は一グループが六から八人程度らしいので、この部屋もそれなりの広さがあった。

 俺と空はフィアの預かりとなっているので、この部屋が控え室になる。


 シンシアさんは仕事に出かけた二人のサポートをしているため、雷人達二人とその向かいにフィアという形で机をはさんでソファに座っている。


「それじゃあ、空の立場も定まったところで情報の共有をしておきましょうか。まず今回の事案なんだけど、昨日説明した通り正体不明の敵がロボットを送り込んで来ているわ。今確認されてるのは人型のロボットと無駄に大きいロボットね」


「あぁ、この前のあいつらだな」


「僕達はこれからあれと戦うわけだね」


 雷人と空が合いづちを打つとフィアが頷いた。


「人型の武器は主に剣と槍、それにアサルトライフルと、たまにスナイパーライフルを持ってる個体がいるわね。でっかい奴は基本的にはアームに付いてるガトリングと個体によってはミサイルを装備してるのもいたわ」


「ミサイル!?」


「もしかしてこの前の爆発って」


「えぇミサイルを撃たれちゃってね。でも挙動が大きいからかわすのはそんなに難しくないと思うわ」


「あはは……気を付けるね」


 空が苦笑いをしながら呟いた。


 いや、爆風とかで攻撃範囲も広いだろうし、ミサイルは流石にやばいだろう。

 即死すればそれまでだからな。俺もそうだが、空がどう戦うかは考えないとな。


「それで襲って来る頻度ひんどなんだけど、今のところは三、四日に一回ってところね。ホーリークレイドルのセンサー網があるから来たら分かるし、シンシアが出現場所に転移してくれるからこの点に関しては特別問題は無いわ。ただ突然来る事もあるかもしれないし、心の準備だけは常にしておいて」


 ふとシンシアさんの方に視線を向けると任せろとばかりに親指を立てていた。

 シンシアさんは真面目そうに見えるが、結構ノリがいい人のようだ。


「敵の様子はこんな感じね。今度は私達の能力について共有しましょ。ちゃんと把握しとかないといざって時に困るから。雷人ってば電気が能力かと思えば、手とか足に刃を作るし、結局の所なんなの?」


 まぁそうだよな、と思い俺は首を縦に振った。


「俺の能力についてだけど、実は自分でもよく分からないんだよな。だからとりあえず俺の認識を話すな」


「分かったわ」


「まず俺の能力は電気の操作なんだが、制限がある。というのも、自分で出した電気しか操れないんだ」


 それを聞いてフィアが不思議そうに首をひねった。


「自分で? つまり私達が普段使ってる電気とか、他の能力者が出した電気には干渉出来ないってこと?」


 それを聞いて雷人は首肯しゅこうし空は「不思議だよね」と言って、はてなポーズをする。


「代わりに俺の出した電気には他の電気系能力者は干渉出来ないらしい。それと、この前初めて気付いたんだが、電気を固定化させることも出来るみたいだ」


「固定化……それが例の刃ね。それって電気で出来る事なのかしら?」


「どうなんだろうな。少なくとも俺の周りにいた電気使いで出来る奴はいなかったけど」


「うーん、もしかしたら出来ると思ってなかったから出来なかったのかもね。能力にはイメージって結構大切なのよ。イメージを強くする事でその通りの現象を起こしたり、能力の出力を上げたりする事が出来るの。出来ないと思ってたらイメージなんて出来ないものね」


「そうなのか。じゃあ俺は人一倍イメージする力が強いのかもな」


「そうかもね。あなたの能力、電気に干渉出来なくても応用力は結構高いわ。能力者同士の戦いは情報戦でもあるから、相手のきょを突けるのは良い事よ」


 フィアのその言葉に雷人は苦笑いをする。


「ははは、実はこの力、残念ながらそんなに便利じゃないんだ」


「え? 便利じゃない?」


 雷人の言葉にフィアが不思議そうに首を傾げた。


「あぁ、電気操作系の能力者は電気機器を操れたりとかして便利そうなイメージがあると思うけど、俺はそういうのは出来ないんだ。機械に電気を流し込むと壊れちゃってさ。大人達には出力が強過ぎるのかもしれないって言われたけど」


「へぇ……確かにそれは不便ね。でも電気を物体として操作出来るのは結構なメリットよ。それにそれだけじゃないでしょ? しばらく邦桜にいたけど、あんなに速く動ける人なんて見なかったもの」


「あー、能力を使うとなぜか身体能力とか動体視力も上がるんだ。よく分からないが、多分電気が筋肉に作用してーとかそういうのじゃないか?」


「電気が作用して身体能力が上がるかしら? うーん、それが合ってるかは私じゃ分からないわね。……まあいいわ。とりあえずあなたの能力に関してはこのくらいかしら?」


 その問いに雷人は首を縦に振る。

 もしかしたら他にもあるかもしれないが、基本的に能力は試して初めて分かるものだ。

 俺が知っているのはこれしかない。


「あぁ、これが俺の能力だよ」


「ありがとう、充分よ。それじゃあ次は空。お願い出来るかしら?」


 フィアに促されると、今まで黙ってうつむいていた空が顔を上げた。


「えーっと、僕の能力は再生……、傷を治す力なんだ。傷を負ってから時間が経ち過ぎると治せないんだけど、完全に元通りに戻す事が出来るよ。生きてさえいればね」


「再生? 回復力の促進というわけではないの?」


「そうだね、元通りに戻ってくって感じかな?」


 空の言葉に、フィアは口に手を当てて思案する。


「傷を完全に治せるのは頼もしいわね。戦闘中に手当以上の治療なんてなかなか出来ないもの」


「えへへ、ありがと」


「さて、俺達の能力については話したし、次はフィアの番だな。氷と炎をあわせ持つ能力には興味があったんだ」


 雷人が尋ねるとフィアはくちびるに人差し指を当てて上を見上げる。


「あーそうね。私の戦いを見たらそう思うわよね。……実は私、能力者じゃないの」


「……はい?」


 フィアの発言に空と雷人は声をそろえて疑問符を浮かべた。


「いやいやいや、無能力って。あんなに強い力があるのにそれは無いでしょ」


「無能力だって言うなら、あの時の氷と炎はどうしたんだ? そこらの能力者よりよっぽど強かったぞ」


 空と雷人が疑問を口にすると、フィアは難しい顔をした。


「んー、私は原理とかはよく知らないから詳しくは言えないんだけど……これを見て」


 そう言うとフィアは自分の指にめられた指輪を見せてきた。

 よく見ると、どうも全ての指に指輪が嵌められていた。


 フィアってこんなに指輪を着けてたのか……!?

 かなり細い指輪ではあるが、全く気付かなかった。


 それにしても、この指輪がどうしたんだろうか?

 もしかしてこの指輪が魔法の指輪だとか?

 ははっ、さすがにそれは無いか。


「この指輪はうちの会社で独自に作ってる物でね。指輪一つにつき一つの能力を使えるのよ」


「へーそうなのか……って、はぁ!?」


「じゃ、じゃあ指輪をたくさん着ければたくさん能力が使えるって事!?」


 フィアの言葉に雷人は驚き、空は期待の目をフィアに向ける。


「残念ながらそうは問屋が卸さないのよね。これってどうも適性が必要みたいで、さらに一度に登録出来る能力の数には人それぞれ限度があるわ。大抵は2~3個って所かしら?」


「そうなんだ……適性が必要なんだね」


 と空は肩を落とすが、雷人は前に身を乗り出した。


「でも適正さえあれば2~3個は使えるんだよな? それって凄いじゃないか! どんな能力があるんだ?」


 雷人の問いにフィアはまた唇に人差し指を当てて目をつむり、少し考える。


「うーん、私が持ってるのだと、炎熱、氷冷、鎖、探知……まぁ色々ね。私は適性が凄く高いみたいで、使用可能個数も多いの。同時使用でも五個くらいは使えるわ。かなり集中する必要があるけどね」


「そんなにあるのか。夢がふくらむな」


 その時フィアが突然ポンっと手を叩いて立ち上がった。


「ちょうどいいわ。空も何か戦える力があった方が良いだろうし、お願いしに行きましょうか」


 そう言うとフィアはスタスタと部屋の外に歩いて行ってしまう。


「ちょっ、お願いって何だよ、フィア待てって」


「あぁ! 待って、置いてかないでよ」


 雷人達は急いでフィアに付いて行くのだった。

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