1-18 モーニングハムエッグ

 空を起こしてハムエッグと食パンで適当に朝食を済ませる。


 フィアは「ふぁあ、これが噂のモーニング・ハムエッグ。一度食べてみたかったのよね」とか言ってテンションを上げ、おいしそうに平らげていた。


 ただのハムエッグがどこでうわさになるのだろうか?


 何にせよ、少しジトっとした目線が痛かったからな。

 朝食で機嫌が戻ったようで良かった。


 しかし、寝床については早く何とかしないといけないな。

 とてもじゃないが心臓に悪い。


 そして、つつがなく朝食を終えた俺達は食器を片付けたところで今後の事について話し合うことにした。


「それじゃあ、これからについて話し合いましょうか。その前に聞いておきたいんだけど、空……で合ってたかしら」


「うん、合ってるよ。君はフィアさんだよね」


 同居人だから蚊帳かやの外というわけにもいかないので、この話し合いには空も参加している。

 出会い方があまり良くなかったので少々不安だったが、空が変に突っかかるような性格じゃなくて助かった。


「えぇそうだけど、あなたも私と同年代くらいでしょ? フィアでいいわよ」


 フィアはそう言うが、空は申し訳なさそうに手を振った。


「えっと、まだ慣れないから、さんをつけさせてもらえると嬉しいんだけど」


「そう? まぁ、それならそれで良いわ。それで空についてなんだけど、どうするの? 雷人みたいにホーリークレイドルに仮入社する? それとも止めておく? どっちにしてもこの件に関しては他言厳禁なんだけど」


 フィアがそう言うと空は少し考え込んだ。

 空からすると色々と思うところはあると思うが、この件については俺が勝手に申し出たことだ。


 すでに迷惑は掛けてしまっているが、わざわざ危険に飛び込むべきではないだろう。

 それに、やはり自分の我儘わがままに空を巻き込みたくはない。


「空がこの件に付き合う必要は無いぞ。これは俺の勝手だし、危険な事には間違いないんだ」


 しかし、それを聞くと空は不機嫌そうにまゆを下げた。


「雷人だけ危険な目に合わせられるわけないでしょ。僕がそんなに薄情に見える? それに……今回の件で何も出来ずに待っているだけの辛さは身にみたからね。だから僕としてはぜひお願いしたいところなんだけど、僕の能力は主に回復の能力なんだ。戦闘じゃ邪魔になっちゃうよね」


 どうやら空は足を引っ張る事を懸念けねんしていたらしい。

 空がうつむいてしまうが、予想に反してフィアはまるで気にしていない様子だった。


「私は回復が出来る能力はむしろ良いと思うわよ? ホーリークレイドルの治療技術は高いから、生きてさえいればどうにかなるわ。だけど、会社に戻らないと治療は出来ないし、結構時間が掛かっちゃうのよね。だから現場に一人治療出来る人間がいた方が良いと思うのよ。この際一人も二人も変わらないし、あなたにその気があるなら歓迎するわ」


「おい、俺の時はあんなに反対したのに、随分ずいぶんあっさりだな」


「まぁね。ある程度実力が付くまでは実戦をさせる気は無いし、何かあれば私が助ければいいもの。それに、もし私が助けられないような状況になるのなら、この島が無事だって保証も無いわ」


「さらっと怖い事を言うな……」


 この島全体に危険が訪れるかもしれないと笑顔で言う。

 正直、事の全体像が把握出来ていない今、あり得ないと否定出来ないのは怖いところだ。


「多分、この島に私よりも強い人はいないと思うわよ? まぁ、それでも自衛のための力をつけておいた方がマシだとは思うわ」


 フィアの言葉に空が真剣な表情でうなずいた。


「うん、そうだよね。ぜひ、お願いするよ。ありがとうフィアさん」


 突然空がフィアの手を両手で掴み、フィアはびくっと驚くとバランスを崩して後ろに倒れてしまった。


「わわ! だ、大丈夫!?」


「え、えぇ、ごめんなさい。ちょっと驚いただけだから」


 心の準備が出来てなかったって所か?

 俺はその様子を微笑ほほえましいな、などと考えながら空に声を掛ける。


「改めて宜しくな、空。フィアもまた友達が増えて良かったな」


「……私の事揶揄からかってるでしょ?」


 空に助け起こされながら、ジトっとした視線を向けて来る。

 別に揶揄からかっているつもりはなかったのだが、悪くとられてしまったようだ。


「いやいや、揶揄からかってなんかないぞ?」


「本当に? そうだとして、友達ってそんなにすぐになるものなの?」


 雷人の言葉にフィアはさらに驚いたように目を丸くしている。


「二人が友達だと思えばもう友達だよ。これから宜しくね、フィアさん!」


 フィアは空の底抜けに明るい声に優しい笑みを浮かべると、差し出されていた空の手を握って再び握手をした。


「そう、こんなに簡単な事だったのね……。改めて宜しくね。空、雷人」

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