1-11 テスト開始

 前を歩くフィアに続いて部屋の中に入る。


 部屋の中はかなり広く、モニターやキーボードが他の部屋よりも多くあった。

加えて、人が入れる大きさのカプセルが何種類もあり、そのカプセルが五十程も並んでいる。


 部屋の隅には通路があり、その先はU字型の観客席と白い金属製のタイルが敷き詰められたアリーナが存在していた。


「ここでテストをするのか?」


「ここは仮想訓練室よ。人の意識をシミュレーターに落とし込んで、実際に戦っているかのような模擬戦闘が出来るわ。怪我を心配しないで戦闘訓練が出来るなんて凄いでしょ? うちの優秀な技術研究所職員と管理人のサリアさんが力を合わせた独自の技術なのよ!」


 俺が尋ねるとフィアはなぜか得意気な顔をして胸を張って答えた。

 元から主張をしていた胸がさらに強調され、自然と視線がそちらに寄ってしまう。

 気付かれないように気を付けなければ。


「サリアさんお邪魔します」


 フィアが声を掛けるとモニターの前の椅子がくるりと回ってこちらを向いた。

 この人が管理人のサリアさんか。


 身長は一メートルくらいで小麦色の肌、厚手の革の衣服に腰には工具を付けていて、手には厚めの手袋を着けている。イメージとしてはひげのないドワーフが近いかな?


「いらっしゃいフィア、フォレオとマリエルも一緒かい。ん? そっちのは見ない顔だね」


「この子がフィアの仕事を手伝いたいって事でね。今日はテストをしに来たかな」


 マリエルさんがそう言うと、サリアさんはじーっと俺を見つめ、くるっとモニターの方に向いた。


「新入りの入社テストって事かい。じゃあ試験プログラムを起動するからちょっと待っておくれ」


「あっ、入社するわけじゃないから形式としては私と試合をする形でお願い」


 それを聞くとサリアさんはまた椅子を回してこちらに向き直り、いぶかしげな表情をした。


「なんだい、訳ありって感じかい? 分かったよ。じゃあ五番と六番のカプセルに入りな」


「ありがとうサリアさん」


「ありがとうございます。宜しくお願いします」


 フィアに続いてお礼を言い俺は頭を下げた。

 その後、指定された通りに五番のカプセルに入って寝転がった。


「それじゃ、うちらは観戦席に行きますので、頑張って下さい。お兄さん」


 そう言ってフォレオとマリエルさんが離れて行き、カプセルのふたを閉めて少し待っていると隣のカプセルから声が聞こえてきた。


 随分とはっきり声が聞こえるが、カプセル同士で話せるようになっているのだろうか?


「準備はいい? 私を納得させられないようならすぐに送り返すからね」


「ああ、望むところだ」


 俺は覚悟を決め、意気込んでそのように返すと小さな声で返事があった。


「いい返事ね」


「さぁ始めるよ、準備はいいね? 行ってきな!」


 サリアさんの力強い声と共に意識が薄れ浮遊感を感じる。

 そして、気付くとだだっ広い巨大な部屋に立っていた。


 その部屋は全面白色の石に覆われており、天井一面に照明が取り付けられているだけで他には何も無い。そんな、単純に巨大な部屋といった感じの場所だった。何もないから遠近感が狂いそうだ。


 目の前には十メートル程離れてフィアが立っていて、手を前に突き出し手招きをしていた。


「さぁテスト開始よ。いつでも来なさい」


 フィアは素手で何も持っていないが、良いと言っているのだから大丈夫なのだろう。


「了解。行くぞ」


 俺はフィアに向かって真っすぐに走り出し、牽制けんせいに二発電撃を飛ばした。

 フィアはそれを素早いステップで躱すといつの間にか手に一振りの刀を握っていた。


 そして、フィアは下がる事無く前へと駆け出し、俺も逃げることなく両手に刃を作り出して駆ける。

 すれ違いざまに両手の刃と電撃で多重攻撃を仕掛けるが、簡単にいなされてしまった。


「あまいっ!」


「いっ!」


 突き出された刀の切っ先が肩を浅く裂いた。

 肩に走った痛みにひるみ、咄嗟とっさに距離をとる。


 それを見るとフィアは刀を肩に担ぎ、余裕の表情で再び手招きをした。


「この程度じゃあダメダメよ。隙が多過ぎるし、動きも鈍い……こんなものじゃないでしょ? 本気を出しなさい」


「っつ、あぁ分かってるよ。本番は……これからだ!」


 俺はふぅー、と息を吐き集中するとイメージをった。

 速く、く、雷のごとく動く自分をイメージする。


 俺はまだ新たな力に慣れていないし、今の一回の剣戟けんげきで今までのようなイメージで戦っていては勝てない事は十分に分かった。


 足りなければ補う。

 もっと強い自分をイメージする。


「はああああぁぁぁ!」


 叫ぶと同時に一気に踏み込み地面を全力で蹴った。

 両手をこれでもかと速く振り回し、フィアの刀に集中する。


 弾く、弾く、弾く、弾く、そしてあと一歩で届くと思ったその瞬間、フィアの姿がフッと消え視界がぐるっと回った。


「なあっ!?」


 足に痛みを感じる。

 恐らく足を払われたのだ。


 その瞬間、時間が非常にゆっくりになったかのように感じられ、フィアの動きがはっきりと見て取れた。その目は確実に俺を捉えている。


 まずい! まだ足は地面に着いていない。空中では逃げられない!


「これで終わりね」


 切りつけようとしていたために腕は伸び切ってしまっている。

 もはやガードは間に合わない。それはまさに完璧なタイミングだった。


 フィアは刀を振りかぶり、ただ的確に振り下ろした。

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