断罪・後編

 緊張した空気の中、ベルナデットが発言する。

「公の場で我々大公家に対し虚偽の発言をすることは重罪です。そして余罪はまだありますが、まずは貴方達に色々と説明しておきましょう。まず、ローズはオーバン・グザヴィエ・ド・ラ・トレモイユと血が繋がっていないことは知っていますわね? 彼女は前女侯爵セレスティーヌと、ラ・ガリソニエール前侯爵の三男に生まれたシルヴェストルの娘です」

 それを聞いた者達は騒つく。知らなかった者が多い。

「お義姉様がお父様の子ではない?」

 ペネロープも驚いていた。

「残念なことにセレスティーヌがローズを身籠っている時にシルヴェストルは事故で亡くなりました。当時は女侯爵で未亡人というのはあまり立場が良くなかった。よって、後夫ごふとしてオーバンが迎え入れられました。そしてオーバンはローズがラ・トレモイユ侯爵家を継ぐまでの当主代理でしかありせん」

「そ、そんな……」

 当主代理でしかないと言われたオーバンは言葉を失う。

 自分がラ・トレモイユ侯爵家の当主だと思い込んでいたのだ。

「そして、ローズは半年間大公家で保護しておりました。その際に、ローズが正式にラ・トレモイユ侯爵の当主になること、そしてドナシアン・アシル・ド・ショワズールとの婚約を女大公命で解消させること。それらの書類はラ・トレモイユ侯爵家とショワズール侯爵家に届けました。そして書類にはラ・トレモイユ侯爵家当主代理のオーバン、ショワズール侯爵家当主エルネストからのサインもしてあります。ラ・トレモイユ侯爵家に関しては、ローズを正式にラ・トレモイユ侯爵家当主にするという書類にも。エルネストはドナシアンを切り捨てたのです」

「そんな……父上」

 ベルナデットの言葉に絶望するドナシアン。すがるように父エルネストを見るが、エルネストは完全にドナシアンを無視である。

「しかし女大公陛下! そんな書類私は見たことがございません!」

 必死に抵抗するオーバン。

「いいえ、しっかり貴方のサインがありました。恐らく書類をよく見ずにサインしたのでしょうね。当主交代の書類にも、婚約解消の書類にも、そしてローズとアルベールの婚約の書類にも。ああ、言っておきますが、ローズとアルベールの婚約も女大公命でございます」

 フッと冷たい笑みのベルナデット。

 オーバンは頭の中が真っ白になった。女大公命は簡単には覆らない。

「さて、ここからが重要です。貴方達は重大な罪を犯したのだから」

 ベルナデットのサファイアの目がスッと更に冷たくなる。相変わらずアルベールはローズを守るように立っている。テオドール、エヴリーヌ、フェリクスはそれを見守るかのようである。

「オーバン・グザヴィエ・ド・ラ・トレモイユ。貴方には前女侯爵セレスティーヌの殺害容疑、そして唯一ラ・トレモイユ侯爵家の血を引くローズの殺害を計画していた。つまりローズの殺害予備容疑、更にラ・トレモイユ侯爵家乗っ取り容疑がかかっております」

 ベルナデットの言葉に会場がどよめく。

「何ということだ!」

「信じられないわ!」

 非難の声がオーバンに向く。

「そんな! 私は何もしていない!!」

 大声で叫ぶオーバン。しかし、ベルナデット達は冷たくあしらうだけである。

「そしてデジレ・ピエレット・ド・ラ・トレモイユにもローズ殺害予備容疑及びラ・トレモイユ侯爵家乗っ取り容疑がかかっております。ペネロープ・デジレ・ド・ラ・トレモイユ、ドナシアン・アシル・ド・ショワズールにはラ・トレモイユ侯爵家乗っ取り容疑のみですが」

 ベルナデットのその言葉に、更に会場がどよめく。非難は四人に向かう。

「嘘ですわ!」

「そうですわ! 全部お義姉ねえ様のでっち上げです!」

「俺は何も知らない!」

 デジレ、ペネロープ、ドナシアンは口々に叫ぶ。

「それらの証拠は全て揃っております。四年前、オーバンが人を雇ってセレスティーヌを事故に見せかけて殺害した証拠も」

 ベルナデットはその言葉でオーバン達を一掃した。

「衛兵、この犯罪者四人を連れて行きなさい」

 ベルナデットが冷たく言い放つと、大公宮の衛兵がオーバン達を拘束し連れて行く。その際、オーバン達は醜くわめき散らしていた。

 そして邪魔者は全て消え去った。

 会場はしんとしている。

「さあ、皆様、空気が重くそれどころではないかもしれませんが、今日はエヴリーヌとフェリクス公子、そしてアルベールとローズのめでたい場です。今からでもお楽しみいただけたら幸いです」

 先程とは違い、ベルナデットの柔らかな声が響く。それにより、先程までの緊張した空気が柔らかくなった。パーティーは再開される。

「ローズ、僕とダンスを願えますか?」

 アルベールはオーバン達を睨みつけていた表情とは打って変わって、ローズに優しい笑みを向ける。

「ええ、喜んで」

 ローズは上品な笑みを浮かべ、アルベールの手を取りダンスを始める。

 アルベールにリードされ、ローズは華麗に舞っていた。エヴリーヌもフェリクスにリードされてダンスを始める。すると、他の者達もダンスに加わるのであった。

「ベル、お疲れ様」

 皆のダンスを見ながら、ベルナデットを労るテオドール。

「ありがとう、テオ。実は少し緊張したわ。それに、オーバン達に対しての書類の件もそうだけど、何だか騙し討ちをしたみたいで……」

 ベルナデットは少し心を傷めていた。

「だけど、清廉潔白なだけでは政治は出来ない。俺の法律上の母……まあベルにとっては義叔母おばでもあるが、彼女もそう言っていた」

 テオドールはフッと優しく微笑む。

「ナルフェック王国のルナ・マリレーヌ・ルイーズ・カトリーヌ前女王陛下がそう仰っていたのね。あのお方は凄いわね」

 ベルナデットは肩をすくめて微笑んだ。

 そしてその後、裁判の末にオーバンとデジレは処刑が確定した。セレスティーヌ殺害やローズ殺害予備に関わったから当然である。そして、ペネロープとドナシアンは貴族籍を剥奪され平民となり、五十年もの徒刑が科せられた。

 ローズはラ・トレモイユ女侯爵となり、アルベールと結婚して幸せに暮らしていた。

(全てわたくしの思い通りになったわ)

 ローズはクスッと品良く微笑んでいた。

 ローズの首元には、ペネロープから取り戻した銀の薔薇にアメジストが埋め込まれたネックレスが光っていた。

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