エピローグ ヘルムフリートの後悔②
エマとパトリックの結婚式を物陰から見ていたヘルムフリートはため息をつく。
(これ以上見ていても、俺が惨めな気分になるだけだ。帰ろう)
そう思い後ろを向くと、ヘルムフリートはギョッとした。
「ヘルムフリート様、何を見ているの?」
ロミルダがいたのだ。
「ホ、ホルシュタイン嬢……」
「ちょっと、ロミルダと呼んでと言ったじゃない! 婚約者なのに酷いわ!」
「わ、分かったから、落ち着いてくれ、ロミルダ」
癇癪を起こしそうなロミルダを必死に宥めるヘルムフリート。
(こんな女と結婚しなければならないなんて……)
心底うんざりするヘルムフリート。
ヘルムフリートはロミルダと婚約せざるを得なかったのだ。
シェイエルン伯爵家はヴァイマル伯爵家の破産のせいで経済危機に陥っていたところ、ホルシュタイン伯爵家から末娘であるロミルダとの結婚を条件に莫大な資金援助をすると提案された。シェイエルン家にはそうする以外選択肢がなく、ヘルムフリートとロミルダの婚約を発表した。自身が夜会でパトリックの婚約者であるエマに絡んだことに加え、癇癪令嬢であるロミルダと婚約したことで、ヘルムフリートは社交界で嘲笑の的であった。しかし、ヘルムフリートの人生と引き換えにシェイエルン伯爵家は持ち直すことが出来たのである。
「ねえ、もしかしてあの女を見てたの!? ヘルムフリート様には私がいるのにいつまであの女を見てるのよ!?」
ヘルムフリートがエマを見ていたことに気付き、ロミルダは癇癪を起こした。
「ち、違う、ロミルダ。俺はエマなんか見てない。結婚式がどんな感じかを見ていたんだ。ほら、俺とロミルダも結婚式を挙げるだろう? その下見だ」
ロミルダを必死に宥めるヘルムフリート。ホルシュタイン伯爵家で甘やかされて育ったロミルダを宥めるのは骨が折れるほどの苦労である。
「そう……それなら良いけれど。だったら、今からドレスを選びに行きましょう。ねえ、早く早く」
「わ、分かったから」
何とか機嫌を戻したロミルダから服を掴まれ急かされるヘルムフリート。
(エマと出会ったあの日の俺をぶん殴ってやりたい。俺はランツベルク卿よりも前にエマと出会っていた。だから最初から素直になっていたら、好かれる努力をしていたら、こんなことにはならずにエマと結婚出来たかもしれない……)
ヘルムフリートは心の中で大きなため息をついた。実際にため息をついたらロミルダに癇癪を起こされそうなので、あくまでも心の中でだ。
(この女の被害がエマに向かないように俺が人生賭けて何とかするしかない……)
ヘルムフリートは再び心の中で
好かれる努力が出来なかった愚かな男な末路である。
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