好かれる努力をしない奴が選ばれるわけがない

プロローグ ヘルムフリートの後悔

 ある日の昼下がり。ガーメニー王国の王都ネルビルの教会では、ある1組の男女の結婚式が盛大に行われていた。

 ランツベルク辺境伯令息パトリックと、リートベルク伯爵令嬢エマの結婚式だ。

 エマは幸せそうに微笑み、パトリックはそんなエマを優しく愛おしそうな表情で見つめている。この2人が相思相愛であることがはっきりと分かる。

 互いの家族や友人達は2人を祝福している。

 雲1つなく太陽がキラキラと輝いており、まるで空まで2人を祝福しているかのようだ。

 そんな中、物陰から浮かない表情で2人を見ている男がいた。正確には、未練がましくエマを見つめている。彼の名はヘルムフリート。シェイエルン伯爵令息だ。

(俺は何をしていたんだ? エマとは幼馴染で、エマにとって俺は1番親しい男のはずだった。なのに……どうして俺はチャンスを逃してしまったんだ! どうして最初から素直になれなかったんだよ!)

 胸の中から次から次へと後悔が溢れ出し、ヘルムフリートは悔しげに表情を歪めた。その時、新郎のパトリックと目が合う。パトリックはヘルムフリートが物陰からエマを見ていたことに気付いていたようだ。彼はヘルムフリートを見てニヤリと笑った。まるで見下すかのような笑みだ。ヘルムフリートは思わずパトリックから目を逸らしてしまう。

『お前はいつもエマに失礼なことばかり言っていただろう。それに、幼い頃から彼女に子供じみた嫌がらせをしていた。好かれる努力をしない奴が選ばれるわけがない』

 低く冷たい声がヘルムフリートの脳内に響き渡る。それはパトリックから言われた言葉だった。

(好かれる努力……か……)

 ヘルムフリートはエマを見る。エマは貴族令嬢らしい品はあるが、屈託のない明るい笑みを浮かべている。まるでこれからのパトリックとの生活を楽しみにしているかのように。そんな彼女は、ヘルムフリートのことなど最初から知り合いですらなかったかのように見えた。

 そんな笑顔のエマを見たヘルムフリートは、胸の中ががらんどうになったような気がして、涙さえ出ないような悲しみに襲われた。

(俺は……ただエマが好きなんだ。ただそれだけだったんだ……。素直になるのが恥ずかしいだとか、そんなくだらないプライドなんか、もっと早く捨てちまえばよかった……)

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