【マテラテ】新作FPSやるわよ【金廻小槌/楼龍兎斗乃依/広小路ツン】#1
Totonoi Ch.楼龍兎斗乃依 チャンネル登録者数36.9万人
金廻小槌ch. チャンネル登録者数8.6万人
広小路ツン(公式) チャンネル登録者数11.2万人
「へぇ、ツンちゃん個人勢なのに10万人も超えてるなんてすごいわね」
VTuber群雄割拠のこの時代、例え企業勢だろうと生半可な実力では埋もれていくのが悲しい現実。
そんな界隈において個人勢でも10万人の大台を突破しているのは、素直に称賛すべき数字だ。
一鶴でもそれくらいは分かる。
『べ、別にこれくらい大したことないわよ! むしろデビューして1ヶ月も経ってないのに、8.6万人も登録者数のいる小槌ちゃんの方が全然凄いんだから! 勘違いしないでよね!』
「そういやそうね、あたしってやっぱ逸材よね」
『自己肯定度高すぎるわよ! 謙虚な姿勢も少しは持ちなさいよ!! でもそんなとこも好き!!!』
「そんなことより配信に載せる用のツンちゃんの立ち絵頂戴」
『そんなことって何よ!』
言いながらもツンの立ち絵が送られてきた。
金髪のくるくるドリルツインテールと、白を基調とした制服を着た美少女だ。
小槌と楼龍とツンのガワを自分の配信画面に並べると、よくVTuberのコラボ配信で見る画面構成になった。これで後は配信の準備は殆ど完了だ。
後はなるようになる。ケセラセラ。
『いやー、それにしても本当ありがとうねツン。急なコラボの誘いだったのに応じてくれて。流石VTuber界の頼まれたら断れない女ベスト1位は違うなって感じ。密林の仲良いVはみんなスケジュールカツカツで忙しそうだったから、暇なツンが居て本当に助かったよ。これからも都合の良い女でいてね』
『誰か暇人よ! あんたのために時間空けたんだからね! 勘違いしてあたしを好きになりなさいよね!』
「どうでもいいけど、あんたら配信開始前からフルスロットル過ぎじゃない?」
楼龍もツンも、リスナーに見られてるわけでもないこの状況でテンションが高すぎる。
ツンに至っては配信外でまでキャラ立てを徹底しているし疲れないのだろうか。
しかしこれくらい頭のネジが外れてる人間じゃないと、この業界で伸びていくことは難しいのだろうなぁ。と、一鶴は自分のネジが何本も抜けている事実から目を逸らして、他人事のような感想を抱いた。
「じゃあ時間になるしそろそろ始める?」
『オッケーオッケー、じゃあ私はサウナに入ろうかな。サウナのPCから通話に入り直すから一回抜けるね。ちなみに小槌に説明しておくけど、サウナ側のPCは湿気でダメにならないように、本体は壁の向こうの別室に置いて、裏から線だけ繋いでるんだよね』
「そこまでしてサウナで配信する意味ある?」
『水分補給はこまめに取るのよ! 毎回倒れてるし、そろそろあんた死ぬわよ!』
こいつら本当に大丈夫かな。
そう思う一鶴なのであった。
■
【マテラテ】新作FPSやるわよ【金廻小槌/楼龍兎斗乃依/広小路ツン】
そんな感じの緩い空気のまま配信は始まった。
「どもー」
『始まったわね!』
『うん…………』
「うん???」
緩い空気のまま緩い挨拶から入っていったが、楼龍のテンションがさっきまでとはまるで別人のように低くなっている。
その落差に思わず声に出して反応してしまった小槌だったが、一応初めて配信で絡む相手でもあるので、どこまで踏み込んでツッコんで良いのか判断に困る。
しかし迷った時はアクセルを踏み抜くのが金廻小槌というVTuberだ。
「なんか兎斗乃依っち、配信始まる前よかテンション低くない?」
思ったことをそのまま指摘してやった。
『あー……』
「いや、あー……じゃなくって」
しかし本人からの返答はなく、代わりにツンから返事が返って来る。
『コイツはいつもこうなのよ! サウナに入ると頭茹ってテンション下がって口数減るの!』
「もう今すぐサウナから出なさいよ」
配信でこそあのお喋りパワーは輝くはずなのに、むしろ逆にサウナ内ではこんな調子になるらしい。
だから配信で見る楼龍は何段階も落ち着いた印象に見えていたのだろう。
合点はいったが、あまりの緩急に流石の小槌も戸惑うしかない。
『まあ、慌てないで小槌。今良い感じに温まってるから……』
「冷水ぶっかけてやりたいけどリモートなのが残念ね」
:草
:あの小槌が振り回されるか
:これどういう繋がりのコラボ?
:げ、密林のVとコラボか
:色々とすごい面子だな
:うちの兎斗乃依が迷惑かけます
:マテラテやるんだ、楽しみ
:小槌がFPSとか珍しい
:密林とはあんま関わらんで欲しいなぁ
密林配信のVとのコラボに拒否反応を示すリスナーは、やはり少なからずいるらしい。
その事実を頭の隅に留めつつ、しかしそこに配信内で触れるのは利にならないと判断して、小槌は無視することを心に決める。
逆に言えば自分の利になるのなら容赦なく触れていくというスタンスでもあるのだが、それはそれだ。
『ロウリュはこうなると役に立たないから、あたし達で進行するわよ!』
「発起人がサウナで頭パーになるのはどうなのよ」
『大丈夫………………ふぅ』
「安心出来る要素が皆無なんだけど」
『ともかく自己紹介するわよ! ロウリュもシャキッとしてよね!』
『ふぁい』
楼龍の返事は実に頼りない。
こんなのに進行役を任せるのは不可能に近い。なので、小槌は仕方なく仕切り役を買って出ることにした。
「じゃ、あたしから……みんな景気はどう? あたしは収益化も通って益々絶好調、金廻小槌でーす。あとFMK所属でーす」
自己紹介も慣れてきたもので、回を重ねるごとに適当になっていってるが、それもVTuberの宿命だろうと小槌は割り切っている。
そのうち出だしの挨拶はもっと短くなっていくだろう。
『みんなの幼馴染系VTuberの広小路ツンよ! 個人勢!』
V業界の先輩であるツンの自己紹介もあっさりしたものだった。
というか、
「幼馴染系だったの?」
『そうよ!!!』
ツンデレ風(あくまでも風なだけであって、デレ要素がツンを駆逐している)の幼馴染キャラだったらしい。
幼馴染というよりは主人公に突っかかってくる委員長ポジションみたいなビジュアルっぽいのに。ドリルツインテなのに。
だがツッコミ始めると延々と話が進まなくなりそうだったので、とりあえず小槌は幼馴染設定について掘り下げたい衝動を我慢した。
『ろーりゅ……密林』
『ちょっと! 自己紹介くらいちゃんとしなさいよ!』
サウナの熱気に頭をやられている楼龍は、自己紹介も何だか適当で一番短い。
やはり何十回何百回と配信を繰り返していると挨拶なんて自然と簡略化されていくものなのかもしれない。
と、小槌は未来の自分に対しての免罪符を見つけて一人で頷いた。
――あるいは楼龍の態度は、自己紹介などせずとも自分の存在は広く認知されているだろう、という自信の表れなのかもしれなかったが。
小槌は音も立てずにスマホからツンと楼龍の同接を確認してみた。
ツンが3200、楼龍が2200、そして自分が現在900。
認知度の差は歴然。このコラボの中では、小槌がぶっちぎりで一番同接が低い。
というか意外にも、楼龍より登録者の低いツンの方が同接が高くなっているようだった。
『ツぅン……あとは頼んだぁ……』
『んもぅ、仕方のないやつね! 今回は今日発売したばかりのマテリアル・ライン・テンペストをやるわよ!』
微塵も頼りにならない楼龍に代わって、世話焼き女房のような甲斐甲斐しさでツンが配信を進めて行ってくれる。
進行役のいるコラボ配信は楽でいいなぁと、とりあえず小槌はツンにそのまま舵を握らせておく。
黙ってこの場にいるだけでお金になるのだ。
こんな素晴らしいことが他にあるだろうか? いや、ない。
『マテラテは
しかし沈黙したままでいさせてくれるほどツンは甘くなかったようで、しっかり話を振られてしまった。
仕方なく、小槌は重い口を開く。
「FPSとか普段はあんまやんないわよ。ほぼ初心者ね。ツンちゃんと兎斗乃依っちは?」
『あたしはオペならマスターランク上位くらいの実力ね! ガチ勢には勝てないけどそこそこ出来る方よ! ちなみにロウリュは下手っぴよ!』
『今日はツンにキャリーしてもらうからよろー』
『自分で頑張りなさいよ! 任せておいて!』
任せていいらしい。
流石はVTuber界の都合の良い女ベスト1位だ。
いや、頼まれたら断れない女1位だったっけ。
まあどっちでも似たようなものだろう。
今後困ったことがあったらツンに頼ってみようと小槌も心に刻みこんだ。
というか、ツンの同接が高いのはFPSがそこそこ得意分野だからなのかもしれない。
やはり一芸特化は強いなぁ、と小槌は少しだけ羨ましい感情を抱いた。
さて、既に配信画面にはマテラテのゲーム画面が映っている。
現在はマッチング開始前のロビーで待機している状態だ。
配信が始まってからごちゃごちゃやるのも段取り悪くなるとの理由から、既にフレンドの招待を受けて3人パーティを組んでいる状態になっている。
あとはマッチングが成立さえすればゲームスタートだ。
『マッチを始める前にカスタマイズするわよ!』
「カスタマイズ」
『マテラテは魔法と銃で戦うFPSだけど、1人に付き2種類まで好きな魔法を持っていける……らしいわ!』
本日リリースされたばかりのゲームなので、ツンもその辺りは手探りらしい。
小槌がツンの指示に従ってカスタマイズ画面のマテリアルタブを開くと、ずらっと魔法のリストが出て来た。
「かなり種類があるわね。どの魔法を持っていったらいいのかしら」
『初心者なら大人しく回復系にしときなさい!』
「やっぱ攻撃魔法よね」
『好きにすればいいわ! あと一部の魔法にはフレンドリィファイアの付いてるものもあるから取り扱いには気を付けるのよ!』
『フレンドリィファイア、いいね。字面があったかそうだし、場がヒートアップするし……死体撃ちとか屈伸煽りとか、FPSは温まる要素が多くてポカポカする』
『炎上しそうな行為はやめて!』
楼龍はもうなんか温かくなれば何でも良いらしかった。
温まるどころか直火焼きで燃焼しそうな勢いだけど。
「で、魔法にそれぞれ属性が付いてるっぽいけど、これはなんか意味あんの?」
パっと見たところ、全ての魔法は炎、水、雷、土、風のいずれかに振り分けられているようだった。
『意味あるわね! 炎属性の魔法に、水属性の魔法をぶつけたら、炎魔法の効果だけが無効化されたりするらしいわ!』
「ふーん? じゃあ相手が厄介な魔法を使って来ても、得意属性をぶつければ効果を掻き消せるってわけだ」
『そういうことね! 例えば水は雷に弱いらしいから、水属性の
「じゃあどんな状況にも対応出来るように、全員の手持ちをある程度バラけさせる?」
『それも良いけど一つ注意点があるの! 属性の竦みによる魔法の無効化は、味方の魔法同士でも起きるみたい!』
「なるほど? 味方が
『そうよ! 飲み込みが早いじゃないの小槌ちゃん!』
とはいえ大まかなシステムを大まかに把握しただけだ。
細かいコツや定石などは実際に遊んでみないと分からない。
説明や確認ばかりだとリスナーも飽きてしまうだろうし、まずは一回実戦に挑んでみるのがいいだろう。
「とりあえず一回戦ってみないことには何とも言えないわね」
『じゃあマッチングするわよ!』
『ごめぇん……ツン、さっきの説明もっかい』
『なんでよ! なんなのよ!』
頭ポカポカな楼龍は無視して、試しに一戦してみることになった。
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