アザレア
数日後の夕食にて。
「え? つまり、次の休みの日はルナ様も遠乗りに行きたいということですか?」
「左様でございますわ、シャルル様」
ルナは思い切って、シャルルと一緒に遠乗りに行きたいと言ってみた。
するとシャルルは嬉しそうな笑みを浮かべる。瑞々しく爽やかで弾けるような、柑橘系の香りがルナの鼻を掠めた。
「ルナ様と遠乗り、とても楽しみです。折角ですので、その日は遠乗りに行く前に王都も少し見て回りませんか? 実は僕、この国に来てあまり王都を見たことがないのです」
シャルルはウキウキした様子に見えた。その様子に、ルナは表情を綻ばせる。
「では、決まりでございますわ。次のお休みは
こうして次の休みの日、ルナはシャルルとデートをすることになった。
(シャルル様とお出かけ、とても楽しみね)
ルナは落ち着いているが、内心とてもワクワクしていた。
テーブルに飾ってあったアザレアが、心なしか明るくなったように感じた。
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そしてやって来た休みの日。
ルナはいつもより早く起き、王族専用の広い入浴場へ向かう。そこで侍女に肌を磨き上げてもらった。その後、侍女が持って来た数着のドレスの中から今日着るドレスを選ぶ。
(どのドレスがいいかしら? いつもの紫……それともシャルル様の目と同じ青がいいかしら? シャルル様がお好きな赤も取り入れたいわ。どうしましょう? 折角のシャルル様とのお出かけですもの、1番いいドレスやアクセサリーを選ばないと。……シャルル様に褒めていただきたいし)
ルナはいつもより時間をかけて悩んでいた。その様子を年上の侍女達が微笑まし気に見守っていた。
悩んだ結果、ルナはシルクをふんだんに使用した、フリルが付いたマーメイドドレスを着ることにした。紫がベースでフリルの部分が赤のバイカラーだ。そして胸元にはシャルルの目と同じ、サファイアのネックレスが輝く。
ドレスが決まったら軽く朝食を取り、次は化粧とヘアアレンジだ。気合いを入れた侍女達が、ルナに美しく化粧を施していく。そして他の侍女が器用にルナの長く艶やかなプラチナブロンドの髪をヘアアレンジし、薔薇が咲き誇っているようなシニョンになった。最後にアメジストとサファイアが使われた髪飾りを着けたら完成だ。
ルナは鏡に映った自分の姿を穴の開くほど確認する。
(おかしいところはないかしら? これで大丈夫よね?)
「女王陛下、大変お綺麗でございます」
侍女達が満足そうに頷いている。
「皆さんよくやってくれましたね。感謝いたしますわ」
ルナはいつもの上品な笑みで侍女達に労いの言葉を述べた。
「ありがたきお言葉でございます。さあ、女王陛下、きっと王配殿下がお待ちです。いってらっしゃいませ」
侍女の言葉に背中を押され、ルナはシャルルが待っている場所へ向かう。
(シャルル様、どのような反応をなさるかしら?)
頬をほんのり赤らめ、不安げで憂いを帯びたその表情は、17歳の恋する乙女の表情であった。
外では既にシャルルが準備を終えて待っていた。
「シャルル様、お待たせいたしました」
いつもの上品な笑みだが、ルナは少し緊張していた。
「ルナ様、それほど待っていないのでお気になさらないでください。それより……」
シャルルは真っ直ぐルナを見つめる。いや、見つめると言うより、見惚れているように見えた。
「シャルル様? どうかなさいまして?」
ルナは表情には出さないものの、少し不安になる。
(もしかして、ドレスや髪型などにおかしなところがあったのかしら?)
「いえ、その……ルナ様はいつもお美しいですが、今日は更にお美しいです。そのドレスもお化粧も髪型も、とてもよくお似合いです」
シャルルは少し照れながら、素直な感想を述べた。甘くとろけるような笑みだ。サファイアの目は真っ直ぐルナを見つめている。瑞々しく爽やかで弾けるような柑橘系の香りが、辺りに漂った。
ルナの鼓動は高鳴り、頬は赤く染まる。嬉しさが込み上げてくる。
「ありがとうございます、シャルル様。とても嬉しいお言葉でございますわ」
心なしか、ルナの声は明るく弾んでいた。
侍女、従僕、護衛と共に、シャルルにエスコートされて馬車に乗り込むルナ。そのまま馬車は王宮を出て、王都へ走り出す。
王宮の庭で咲くアザレアは、まるでルナとシャルルを見守っているかのようだった。
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ルナとシャルルを乗せた馬車は、カタコトと規則正しい音を立てて王都を走っている。
シャルルは窓の外の景色を興味深そうに眺めていた。ルナはそんなシャルルを見てふふっと微笑む。
「何だか新鮮ですね。街行く人々の自然な様子が見られて」
シャルルは楽しそうに呟いた。
「左様でございますわね、シャルル様。今回はお忍びなので、王家の紋章が描かれた馬車ではございません。だから、街の方々はこの馬車に王族が乗っていることに気が付かないのでございますわ」
普段王族は王家の紋章ーー金色に縁取られた紫色の薔薇の紋章が描かれた馬車で移動する。故に、街では王族の姿を一目見ようとする者などが現れ人だかりが出来る。通行の邪魔は決してしないのだが。
今回はそのように人だかりが出来ることがないので、シャルルは新鮮そうに外を眺めていた。
騒ぎが起こらないよう、
「ルナ様は、王都を歩いたことはあるのですか?」
「あまりございませんわね。いつも馬車で通るくらいでございますわ。王都にある王家御用達の仕立て屋などには赴くことはなく、あちら側が王宮に品物を持って来てくださるので」
「でしたら、ルナ様も一緒に王都を楽しみましょう」
シャルルはワクワクした様子で微笑んだ。サファイアの目はキラキラと輝いていた。瑞々しく爽やかで弾けるような柑橘系の香りがルナの鼻を掠める。
「ええ、もちろんでございますわ」
ルナはふふっと楽しそうに微笑んだ。
その後、ルナはシャルルと共に、王家御用達の仕立て屋を見てみたり、今庶民の間で人気のレストランやパティスリーを外から見てみたりした。初めてまともに回った王都、そして隣にはシャルルがいる。護衛、侍女、従僕も来ていたので完全にシャルルと2人きりではないが、ルナはデートを楽しんでいた。
しかし、お忍びとはいえ王族が王都を歩いていたら、何事かと人だかりが出来てしまう。通行の邪魔はしてこないが、大勢の人々が集まって来たのだ。結局ルナとシャルルは馬車まで戻るのであった。
「やはりこうなってしまいましたわね」
ルナは苦笑した。
「ええ。ですが、ルナ様と王都を歩けて僕は満足です」
屈託のない笑みのシャルル。サファイアの目はキラキラと輝いている。その笑みに、ルナの鼓動は高鳴る。
「とても嬉しいお言葉でございますわ。
ルナは頬をほんのり赤く染め、微笑んだ。
馬車はカタコトと規則正しい音を立てて走る。
道端に植えられているアザレアは、艶やかに咲いていた。
アザレアの花言葉:恋の喜び
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