第16話魂の魔法と古代のゴーレム

「いてて、おい、誰か明かりをつけてくれ」


 ガンダルの声が暗闇で響く。

 

「ファイポ!」


 炎犬の杖に灯りを灯す。

 なんだ、ここは?


 カリンもファイポで灯りをつける。


「どうやらみんな無事みたいね。不思議な場所だわ。自然にできた洞窟なのかしら」


砂が溜まった場所に落ちたみたいだ。上を見上げると、はるか上に少しだけ光が差しているところがある。

かなりの深さまで落ちたみたいだ。


「エレム、これを見て」


 岩に模様が書いてある。どこかで見たな、この模様。そうだ、ゾゾ派の地下研究所アゴラスで見た模様に似ている。


「この模様、アゴラスの船着場でも似たものを見たよ。読めないけど。ここも古代遺跡なのかな」


「おい。こっちに石積みの通路があるぞ!エレム、灯りを持ってきてくれ!」


 石を切って組み上げられた通路が見える。うまくいけば、アゴラスにつながっているかも。行ってみるしかなさそうだ。


「どこに繋がっているのかしら。アゴラスまで続いているといいんだけど」


 大人10人が横並びに歩けそうな石造の通路。高さも5メートル以上はあるだろう。石と石が隙間なく組み合わっている。壁には、不思議な模様がところどころに描かれている。


「さ、寒いわね、ちょっと火を大きくするわ」


 カリンがファイポの火を少し大きくした。進んでいくと大きな広間についた。


「何ここ。どれだけ広いの?」


「地下にこんな広い空間があったなんてな。暗くてよくわからないな。おい、もう少し、灯りを大きくできるか?」


 俺もファイポの灯りを大きくしてみる。でも、やっぱり広すぎてよくわからない。

 床に無数の模様が書いてある。どんな意味なんだろう。

  

 一瞬、床に書いていある模様が鈍く光った気がする。


ゴゴゴッ!


ボボボボボボッ


 広間の壁のたいまつが勝手に一気に灯される。思ったよりも広い。高さも20メートルくらいありそうだ。 

 天井も模様がびっしり描かれている。何かの罠が作動したんだろうか?


「これは一体!?エレム、見て!真ん中に何かあるわ!」


 広間の中心に巨大な人形の像が石碑を守るように3体立っている。石像は3メートルほどの高さだ。


「まさか、動いたりしないわよね?」


ゴゴゴ!!


 石像の目が光る。


「おいおい、なんか石像が動き出しそうだぞ。エレム、カリン、気をつけろ!」


3体のゴーレムが素早く動き出す。部屋中に轟くその迫力に、エレム、カリン、そしてガンダルは即座に構えた。


「ちょっと、重そうな石像なのに動きが早すぎるわ!」


 いきなり激しい戦闘が始まる。石像が腕を振り回して攻撃してくる。猛スピードで動く重たい石の塊に一度でもヒットしたら即死だ。

 カリンが軽快な動きで回避する。ガンダルが壁際で身を屈めて、ロープの先に素早く石を結い付ける。

 

 ファイガスも効かなそうだし、水の魔法より、草木の魔法がいいかもしれない。動きを止めれるか、やってみるか。


「ウイプナ!」


 太い草のツルが石像の足に絡みつく。


「エレム、いいぞ!このロープでなんとかできるか、やってみるぜ」


ガンダルが石付きのロープを振り回して、石像の足を狙った。ロープを石像の右足に絡みつかせて、思いっきり引っ張る。

 石像は、びくともしない。


「なんて重さだ。ロープを絡めたがパワーじゃ勝てねぇ!」


「あたしに任せて!」


 カリンが身のこなしを生かして、猫のように石像の周りを駆け回る。

 石像がカリンを捕まえようと手を伸ばすと、グラリとバランスを崩す。


「今よ!ガンダル、ロープを引っ張って!」


 石像がロープに脚をもつれさせて、転ぶ。


「床に縛り付けるわ!ウイプナ!」


 カリンも草舟の腕輪から草木の魔法を発動する。一体は身動きが取れなくなった。

 石像2体が踏み潰そうとしてくるが、カリンがその攻撃を見切りながら巧妙に回避する。


「エレム、また、同じ作戦で行くわよ!転ばせたら、すぐに床に縛り付けて!」


 カリンが走りながら、石像を翻弄する。ガンダルがロープを足に絡ませる。ロープに足を引っ掛けて、石像同士がぶつかる。


「うおぉ!!」


 ガンダルがロープを引っ張ると、重さに耐えきれずにロープが引きちぎれる。


「うぉ!!」


 ガンダルが尻餅をつく。もう汗だくだ。

 でも、しめた、2体とも転んだ!


「今よ!2体とも動けなくするの!」


 俺とカリンでウイプナをかける。

 2人で2体ともまとめて床に縛り付ける。


「エレム、カリン、やるじゃないか!」


 石像が力を失って、バラバラに崩れる。


「やったー!あたしの作戦のおかげね!エレムもよく頑張ったわ!」


「カリンって、走るのすごい速いね。こんな動きができるなんて。すごかったよ」


「そうでしょう?草舟のブーツの効果もあるけどね。何より毎日鍛えているもの!ほら!」


 カリンが側転とバク転を決める。体操選手みたいだ。


「ガッハッハ!すばしっこさなら、かなりのもんだな!

 おい、見ろ、石像が一箇所に集まってるぞ。なんか嫌な予感がするぜ」


 バラバラになった石像が集まって、大きな塊になっていく。


「やばい。嘘でしょ?合体して大きくなってるってこと?」


 ゴゴゴ!!


 3体が集まって、四つ足の大きな石像になった。巨大な獅子の様だ。これはまずい。

 しかも、口から何か魔法を出すつもりだ。魔力が集まって激しく発光している。


「おいおい、魔法まで使うのかよ。逃げ場がないぞ。せめて、散らばれ!的を絞らせるな!」


 カリンが右に、ガンダルが左に走り出す。


 石像が口を光らせたまま、右に左に顔を振る。カリンに向けて、極太の光の束を3連続で放つ。


 ゴォオォ!!


 ゴォオォ!!


 ゴォオォ!!


 カリンがジャンプしながら、身軽に避けまくる。


 それから照準を真っ直ぐ俺に合わせる。なんかさっきより光の量が倍くらい多い気がする。

 まずい、うまく避けられるか?草舟のブーツを履いていても、間に合わない!

 

「ゴーレム、攻撃中止!!

 だめよ、エレムに出力最大のブレスを出すなんて。死んじゃうじゃない」


 石像の近くにふわふわと人魂みたいな精霊の姿が見える。

 石像の口の光が弱まっていく。四つ足の石像が、おすわりの様な格好て、動きを止めた。

 目から光を失って、バラバラと崩れていく。


「な、なに?何があったの?エレム、だいじょうぶ?」


「せ、精霊が助けてくれたのかな」


「その通り。私が助けてあげたのよ!魂と土の精霊ゴサスチ様がね!」


ちょっと高飛車な感じの精霊なのかな。跪いてお礼をしよう。


「ゴサスチ様、お助けくださりありがとうございます。

 仲間にも紹介したいので、お声とお姿を人類にもわかる様にしてもらえますか」


「いいわよ!でも、エレムは、どうしてここに?まさかあなたも魔王コフィの墓荒らしじゃないでしょうね?

 あら、よく見たらちょっと前に盗まれた魔王の剣を持っているじゃない。返しにきたの?」


 ゴサスチ様が黒い装束に身を包んだ女の子の姿で現れた。


「おお。美しい。ガンダルと申します。お助けありがとうございます」


「カ、カリンです。ここは魔王のお墓なんですか?」


「正確にはお墓っていうより、1万年くらい眠っているだけだけどね。いつ起きるのかは知らないけど。

 この土地の魔力は、全部魔王コフィが吸い取っているから、地上には一切魔力がないのよ」


 そうだったのか。そして、この剣が魔王のものだったなんて。


「これが魔王の剣というのは本当ですか?確かに3年前に遺跡で発見されたと聞いています」


「間違いないわ。先代女神の館と同じ素材でできている剣よ。唯一無二だわ。

 まぁ、でも、魔王コフィもまだ当分寝ていそうだし、借りておけば?起きたら返せばいいじゃない。

 それにエレムは、魔王の剣を持つに相応しいわ。なんたって不運のドラゴン殺しだもの」


 え?俺が不運のドラゴン殺し?どういうことだ?剣よりそっちが気になる。

 

「そうそう、ちょうどいいわ。エレム、あなたに伝えなければいけないことがあるわ。幸運のドラゴン、カンカラカンのことよ」


「幸運のドラゴン。。。俺のせいで弱っていると、闇の元素精霊ダクジャ様と次元の元素精霊パルキオ様の使徒キーラから聞きました」


「あなた達のせいでカンカラカンが今さっき死んだわ」


「え?!なんで急に?あたし達のせい?何にもしていないわよ?」


「え?じゃないわよ。エレム、あなたの不運がカンカラカンを殺したのよ。不運のドラゴン殺しエレムと呼ぶに相応しいわ。あなた、どんだけ強力な不運なのよ。幸運のドラゴンにとっては、エレムの存在自体がダメージだったのね。

 ダクジャとパルキオがエレムを封印しようとしたのも分かるわ。

 私は、エレムを封印するのがいいとは思わないけどね。

 でも、確かにさっき封印されていたら、カンカラカンが助かったかもしれない。あなた達が頑張ったせいで、手遅れになったのよ。いや、むしろトドメを刺したのかも。

 もうエレムを封印しても、どの道この星は、隕石の衝突を避けられない」


 ガンダルが言葉を失っている。

 不運のドラゴン殺しエレム、とんでもない二つ名だ。

 カリンがゴサスチ様に訊ねる。


「そんな。あ、あたし達はどうすれば?」


 コザスチ様が呆れたように手を振る。


「どうもこうもないわよ。おしまいよ。

 隕石が衝突して、この星は精霊も魔獣も生き物も住めなくなる。まぁ、それもまた自然の摂理よ。

 ただ、あなたの不運、やっぱり変よ。強すぎる。魔王もびっくりよ。

 ドラゴンをどうするとか、隕石をどうするかじゃなくて、あなたの不運をどうにかしないと。

 なんなら隕石より危険だわ。

 もし、この星を救えるとしたら、まずエレムの不運を解明するしかないわね」


 そういうことか、俺自身がこの星の災厄なんだ。

 でも、そうだ。俺の不運の解明ができれば!そうは言っても、なんの手がかりもない。


「何か俺の不運を解明する手がかりがありませんか?」


「そうねぇ。女神様もまだあなたの不運を解明していないものね。

 この星は、先代女神様が最後に暮らした場所でもあるの。1万年以上前だけど。

 先代女神様の館には、トトと呼ばれる異次元から来たゴーレムみたいなものがいるらしいわ。

 先代女神様の頃からいる存在なら、何か手がかりを教えてくれるかもね」


「それはどこに?」


「ここからだとかなり遠いわね。海を渡って、山を越えて、大陸の内陸部よ。どうやって説明したらいいのかしら。面倒ね。

 それに海を渡るにしても、あなた達が弱すぎて、無理ね。死にそうになるたびに助けるなんて、世話が焼けるわ」


 手厳しいが、確かに俺たちは、弱すぎる。


「弱すぎて、申し訳ないです。日々努力をしているのですが。。。」


「あなたがどんなに頑張って少し強くなったって、どうにもならないわ。骨折り損のくたびれ儲けよ。だって、幸運のドラゴンを殺すほどの不運よ?

 私の手にも負えないわ。

 そうね。。。気休めにもならないけど、これが私があなたにできる最大限のことよ。

 魂の魔法を教えてあげる。

 エレム、こっちにおいで」


 ゴサスチ様が俺の頭に手を乗せる。じんわり温かい魔力が身体に染み渡る。


「ふーん。人類にしては、魔力の量があるわね。でも、扱う力が弱すぎる。スピードが足りないのね。これじゃ、魔獣に魔法が当たらないわ。てんで駄目ね。

 そんな無力なエレムにも扱える魔法は。。。あんまりないわね。。。」


 ゾゾ長老のような魔力のスピードがあれば。でも、無い物ねだりを今しても仕方がない。


「お願いします。何か、俺にできる魔法がありませんか」


「んー。あぁ、これか。これがいいわ。これなら魔力量だけあれば、スピードが関係ない。

 ちょうどお片付けもできるしね。

 エレム、しっかりと見てなよ?一回見せて覚えれるかしら?」


「目で見た魔法は、一回で覚えろと言われて、育てられました」


「ふふふ。良い心がけね。あなたに分かりやすいように詠唱付きで教えてあげるわ。


 万物に宿る魂よ!形を作り、我に従え。ゴレゴレム!」


 バラバラになった獅子の石像が、3体の石像に戻って、元の場所に帰っていく。


「ゴーレムを作る魔法よ。事前に作っておけば、スピードが遅いエレムでも扱えるはずよ。

 背中の穴に炎犬の骨一本くらい刺しておけば、1ヶ月くらい動くわよ。

 あと、この先に1万個の石板を集めた博物館があるわ。そこに司書のゴーレムがいるから、炎犬の骨を刺して起動してみて。ゴーレムにしゃべる機能がないから、扱いが難しいかもしれないけど。うまくいけば、地図とか書いてくれるはずよ」


「あ、ありがとうございます!」


「あと、この辺りの元素精霊は、アスチだから海を渡る前に会っておいた方がいいわよ。エレム、過酷な運命だけど、頑張ってね。もがくことが生きることよ」


「はい!まずアスチ様に会いにいきます」


「私は、他の精霊たちと会って話をしてくるわ。みんな大騒ぎよ。じゃあね!」


 ゴサスチ様がフワッと消えて、どこかへ行ってしまった。



 重たい沈黙の時間になる。



 そりゃそうだ。ついに不運のドラゴン殺しエレムになってしまった。

 流石にカリンやガンダルも、俺を見放しただろう。ドン引きだ。隕石よりも人類に災厄と脅威を与えているのが、俺自身だったなんて。

 不運さん、なんて呼ばれていた頃が懐かしい。まだ、可愛いもんだった。今や俺は、人類の敵だ。


「プププッ!!」


「ガッハッハ!!!」


 そうだよな。笑うしかないよな。こうしてみんな俺から離れていく。その方がいい。近くにいるとどんな不運で命の危険があるか。これからは1人で生きていこう。


「エレム、面白すぎる!!!ドラゴン殺しのエレムなんて、カッコ良すぎるわ!」


「ガッハッハ!本当にそうだ。強すぎるぞ。こりゃあ、たまげた!」


 いやいや、面白がっている場合じゃないだろ?


「次の行き先は、地面の裂け目にいるアスチ様ね!

 エレム、魂の魔法を教えるのは、絶対あたしを一番最初にしてね。

 あー!どうしよう!闇の魔法に、次元の魔法!雷の魔法まであることが分かって、夢のようだわ!

 早くアゴラスに帰って研究しないと!あたしが新種の魔法を発表するのが楽しみすぎる!」


「海を渡って、未知の大陸か!まだまだ、俺も強くならないとな!ワクワクするぜ!未知の獣の肉を食べたいぜ!エレム、絶対に俺を連れて行けよ?!いや、必ずついて行く!」


 なんで。なんで。。。目から熱い涙が溢れる。

 ガンダルが俺の肩をがっしりと痛いくらいに掴む。


「エレム。俺は3年前、炎犬に黒焦げにされた時に、一度死んだ。お前のおかげで、今日まで生きているんだ。

 エレムのためなら、この命をかけるぜ。結局、エレムの不運を解明しないと生き残れないしな。

 希望がある限り前に進むしかないぜ、戦友!」


「エレム、何を泣いてるのよ?

 あたしが一緒にいるのが、そんなに嬉しいの?

 うんうん。よしよし。うふふ。

 未知の大陸には、未知の魔法があるはずよ!未知のフルーツ!未知のスイーツも!

 エレム、行くんでしょ?」


「い、行くよ!」


「たまには、俺について来い!とか言いなさいよ!」


 カリンが俺の背中をバシンと強く張り手する。


 うげっ!い、痛い!!


「お、俺について来い!」


「ガッハッハ!そうこないとな!腹が減ったぜ。

 いけね。早く帰らないとゾゾ長老に怒られるぜ!」


「あははは!それが一番怖いわね!アゴラスでポムルスのパンを食べましょ!」


 カリンもガンダルもゲラゲラ笑いながら、歩いていく。

 ありがたい。力を貸してくれる人たちがいる。

 一人でもやり切る覚悟だけど、仲間がいれば、こんなに頼もしいことはない。


 まだ、可能性がある。それに向けて、進んでいこう。

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