冒険者ギルドの受付嬢ですが、マウントを取ってくる連中ばかりでウザいです。
テツみン
第1話 貴族のボンボンは自慢話が長くてウザいです。
冒険者とは自信過剰な人種の総称である――
誰の言葉ですって? もちろん、私の言葉よ。
旧ウィルハース王国――現在は大陸のほとんどを領地とするダルタール帝国領の田舎町、トルト。そこの冒険者ギルドで働き始めて三か月。私はそう結論つけることにしたの。
「トルトの冒険者ギルドはここかい?」
金髪サラサラ髪の青年がそう声をかけてきた。まあ、世間一般的にはイケメンに分類されるのかしら。うしろには男性の剣士が二人。全員、初めて見る顔のようね。
それにしても話しかけてきた青年、持っている装備はどれも高そう。胸当てと肩当ては
身に付けている装備だけで、この町の一般市民が一生で稼げる金額を確実に超えている。
S級冒険者?
ううん。もしそうなら、さりげなく強さをアピールするような感じで装備するわ。そういったエレガントさがないということは、きっとこの人、帝国貴族のボンボンね。
そう品定めをしたあと、営業スマイルで「はい、そうです」と応える。
そもそも、入り口に大きな看板がある。わざわざ受付で確認する必要はあるのかしら?
「そうかい。ボクはギルバート・ラングレー。キミも名前くらいは聞いているだろう? 帝国貴族の名門、ラングレー侯爵家、その次男がボクさ」
ああ、やっぱり――まあ、帝国貴族だろうが、王族だろうが、ココは冒険者ギルド。爵位より、冒険者ランクのほうを知りたいのだけど。なのに貴族の息子は、自分の家柄をなぜか自慢したがる。
前髪を邪魔そうに掻き上げながら、聞きもしないのに名乗ってきた侯爵家のボンボン。それはそうと、なぜか目を合わせようとせず、斜め右四十五度の角度に顔を向けて話す? 意味もなく微笑んでるし――
前髪が邪魔なら切れば?
「キミ、名前は?」とギルバートと名乗る若者が訊ねるので、私は頭を下げた。
「申し遅れました。私はフィス・ラクシエール。こちらで冒険者の方々へのサポートしております」
ということで、自己紹介。十五年前に滅んだウィルハース王国の旧王都、ニグレア生まれ。五歳の時、王都に帝国が攻め込んできたので、ここトルトへ逃げてきたの。両親は他界していて、冒険者相手の料理屋を営んでいる養父母と一緒に暮らしてきた。小さいころから店に出て接客をしていたから、冒険者の人にはよくしてもらっているの。その流れで冒険者ギルドからお仕事の誘いがきたのだけど、おかげで、ここの常連さんはみんな顔見知りだったりする。
「そうか。突然だがフィス嬢、ボクと結婚してくれないか?」
――――――――はい?
今、なんて言った? 結婚?
いや、ここは見合いの席じゃないんだけど……
「えーと……ギルバートさん?」
「吸い込まれそうな青い瞳。清楚ながらどこか気品あふれる顔立ち、そして紅玉を編みこんだような透きとおる輝きの赤い髪。名のある家のご令嬢とお見受けした。どうだろう? ラングレー家なら充分、結婚相手に見合うのではないか?」
いやいや、家柄がどうのこうのより、まず、初対面の相手にいきなり求婚してくる?
「すみません、私は平民の娘でして……侯爵家のご子息とはとても釣り合う身分では……」
「そうなのか? しかし、大丈夫だ。ボクは身分なんて気にしない」
最初に自分の身の上自慢をしてきたのはどちら様かしら?
「ボクの妻となれば、とてもイイ暮らしができるぞ。キミのような美しいお方が、こんな貧相な町の冒険者ギルドで働いているなんてムネが痛む。ボクの故郷、帝都、ダルタールシチーへ行こう。とても美しい街だぞ」
貧相な町で悪かったわね。ここで育ったんだけど――
「大変申し訳ありません。今は仕事中なので。ギルバートさんはどのような件でお越しになったのでしょうか?」
とにかく、話題を変えることにした。
「そうだな。その話はあとでゆっくりとさせていただこう」
いや、それも困るんだけど。
「ボクは修行のため、しばらくこの町に滞在することとなった。そこで、ゴブリン駆除のクエストを受領したい」
それならそうと言えばいいのに。
ここトルトの近くには廃坑がいくつも点在している。そこがダンジョン化してゴブリンの
ゴブリンは繁殖力が旺盛で、すぐに増えて、町や村、農産物を襲う。被害を防ぐため、冒険者がゴブリンの駆除を担っていた。
冒険者もゴブリンを始末すると魔石が手に入る。魔石は宝石としての価値もあるんだけど、魔道具を作るための材料にもなる。魔道具はランプや調理器などの生活用品から武具まで多岐にわたっており、需要はいくらでもあるのよね。だから、結構いい値段で魔石を買い取ってもらえる。なので、冒険者は魔石目当てでこのトルトに集まっているの。
冒険者が集まると、彼らを相手に商売する人も必要となる。そうして、トルトは近年、急激に発展してきた。
つまり、ここトルトは冒険者で成り立っている町。そういうことになるわね。
「こう見えても、ボクは帝国学校の剣術大会で二度、ベストフォーになっているんだ。まあ、負けた相手はどちらも王族でね。つまり、ボクが忖度したんだ。もし、本気を出していたら……」
うーん、自慢話が始まってしまった……どうして、貴族というのは自慢話が好きなのだろう。誰か止めてくれないかなぁ――
「失礼ですが、ラングレー侯爵家のギルバート様ですよね?」
私の後ろから声がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます