これは絶対、シフォンケーキの呪い๛ก(꒪д꒪ก)〜何故だか異世界転生。イケメン王子と婚約破棄を企て一喜一憂しつつお菓子職人を目指してみる、お菓子のように甘い日々のお話……でもないか。〜

YUQARI

第1章 憂鬱で、爽快な夜会。

第1話 夢のような大広間と小さな鳥かご。①

 オーケストラの演奏が、緩やかに優しく奏でられる中、わたくしは幅広の階段を一歩、一歩、踏みしめながらゆっくり階下へと降りて行きました。


 贖罪しょくざいの意味を込めてまとった、このクリーム色のドレスは、当然 華美なものではなくて、とても質素な作りをしています。けれど、そのたっぷりとした生地の手触りは、他に類を見ないほどに素晴らしいもので、それはとても高価なものなのだと容易に想像がつきました。




 ──『これはまた……貴重なものを……』




 乳母のメリサが半ば呆れた顔をしながら、このドレスを手に取っていたのを思い出します。


 発注したのは、わたくしの双子のお兄さま。

 けれど、相も変わらずわたくしに甘いその想いが、この質素と言えども手触りだけは、抜群にいいドレスに透けて見えて、メリサはあからさまに嫌な顔をしてみせたのでした。



 ……でもまぁ、それはそうですよね?


 お兄さまときたら、わたくしとの距離が少しおかしいのです。(ってメリサがいつも、そう言っています)


 まぁ、わたくしとお兄さまは双子ですから、ほぼ同じように育てられました。『兄』とは言えども、それほど好みや思考の差があるわけでもなく、まるで自分の分身のような兄フィデルは、傍にいてくれるだけで安心でき、尚且つ一緒に過ごすのが、とても楽な存在なのです。ですから必然、当たり前のように一緒に過ごし、いつの間にか一緒に遊んでいる……そんな状況でした。

 同年代の遊び友だちが、近くにいなかったのも、わたくし達2人の仲を深める要因になったかも知れません。

 生まれた環境も特殊でしたので、寄り添うわたくし達は、普通の一般家庭のそれとは少し違い、はためから見たら、おかしな兄妹に見えたかも知れません。


 実のところ、お兄さまと行動を共にしていたその大半の理由は、『どこそこに落とし穴を掘ろう!』だとか『誰それを罠にはめるには、どうしたらいいかしら』などという、イタズラじみた、おおよそ人には言えない悪巧みを、コソコソと計画していただけに過ぎないのですが、悪巧みするその姿は確かに、仲の良すぎる双子の兄妹に見えたかも知れません。


 ふわふわのドレスを着た、小さな令嬢がその双子の兄と、きゃあきゃあと笑いあっている……自分で想像してみても思うのですが、その姿は睦まじい兄妹愛きょうだいあいに満ちた、理想的な姿に見えたことでしょう。

 ……実際はそんなことはなくて、とんでもない話をしていただけなんですけれどね。


 ついでに言いますと、話の内容が漏れては大変ですので、なるったけお兄さまの耳元近くで話をしていたのもいけなかったのでしょう。距離感ゼロのその状況では、勘違いする方も当然いたかも知れません。


 わたくし達の想いとは裏腹に、周りは勝手に『仲の良い双子』として誤解して下さり、わたくし達はかなり注目されてしまったのです。

『双子』と言う、珍しい状況もいけなかったのでしょう。ウワサがウワサを呼び、あらぬ方向へと発展していってしまったのです。


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