第392話 出頭命令か招待か
アヤカさんのお勧めに乗っかって……というわけではないけど、その晩闇一族の乙女をもう一人美味しく頂いて、翌朝のんびりと家路につく俺。最近建て替えた俺たちの居館までは、馬に乗ればさほどの距離ではない。
「うん、あれは?」
俺の目に入ったのは、一組の冒険者パーティー。
まあ冒険者自体はもともと、このバーデン領では珍しいものではない。魔物があふれんばかりにいる「魔の森」……まあこないだは本当にあふれちゃったわけだが、そこは冒険者にとってまさに、荒稼ぎできる場所。俺たちが広大な麦畑や魔銀鉱山なんかを開発する以前は、冒険者関係が領の主要産業だったのだ。
その冒険者稼業が、また最近盛り上がっている。それは、魔物があふれた湧きポイントとして、新たな迷宮が発見されたからだ。あの戦いで魔物自体はもうあふれ出てくることはないけれど、手つかずの迷宮は冒険者にとって、お宝の山。ベルゼンブリュック全土から野心あふれる冒険者が押し寄せてきているってわけだ。
まあそれは、悪いことではない。彼らを相手にする宿は連日満室で、市民たちが自宅の一室をにわか民泊にして稼いでいるらしいし、街の酒場も大盛況で、夜ともなれば道路いっぱいにテーブルと椅子を出し、店からあふれた客をもてなしている。そして彼らがポーションをがぶ飲みしてくれるおかげで、さっぱり儲けが出ていなかった領の製薬所もめでたく黒字転換。なんだかんだいって、なかなかの経済効果なのだ。
そして冒険者たちがいっぱい来ては魔物を狩ってくれるおかげで、迷宮からふらふら出てくる魔物を気にしなくても済む。貴重な労働力である魔法使い女性を、魔物の見張りに毎日付けておくのは、地味にきついからなあ。
そんなわけで、少々街が騒がしくはなるがありがたい存在である冒険者たちは、もはや俺たちにとって日常だ。普通のパーティーならば特に目を留めることなどないのだが……俺が怪訝に思ったのは、やたらとその出足が遅いことだった。
冒険者たちは、日銭商売だ。街に滞在するだけでも経費が毎日出ていくし……だから銀貨一枚でも多く稼ごうと、晴れた日ならまだ暗いうちから動き出すのが当たり前。
だが、夜のエクササイズにハッスルした俺がたっぷり朝寝してゆっくりと和風朝食など摂ってからよっこいしょと腰を上げた今の時分は、もうすっかり太陽が高く昇っている。そんな遅い時間に重役出勤する冒険者は、珍しいのだ。これから迷宮に向かったら、潜るのは午後からになっちゃうだろうさ。
メンバーが前夜飲みすぎて起きられなかったのかなとか邪推しつつ観察を続けていた俺の目に、あまり見たくなかったものが映った。
それは、キャラメルブロンドカラーの、まるでドリルのような縦ロール。おいおい、動きやすさ最重視の冒険者で、そのヘアスタイルはないだろ。だいたいその髪を巻くのに、どれだけ時間がかかるんだよ。
いや、問題はそこじゃない。俺にはあの縦ロールの記憶がある。それも、あんまり良くない記憶が。思わず背筋を固くする俺に気付いたのか、縦ロールがこっちを向いた。そこにはキラキラと、いやむしろギラギラと輝く、黄金の瞳があって……。
「あら、ルートヴィヒ卿。ご機嫌よろしいようね」
ツンと澄ました高い鼻、キュッと上がった目尻。力強い高音ボイスといかにも高慢な態度。そう、俺の苦手とする悪役令嬢……もとい悪役皇女、メルセデスがそこにいた。
「は、はい。まあ……ちょっと闇一族の里で野暮用が」
俺の煮え切らない返事に何かを感じ取ったのであろう。皇女の眉がピキッと上がる。
「な、なんとはしたない……貴族としての誇りはございませんの」
すでに彼女は、俺の「野暮用」が種付けであり、種付けとは具体的にあんなことやこんなことをするってことを知っている。だからこれは、高位貴族のくせに平民とイチャコラするってけしからんと、そう叱られているわけだな。なら、俺にも言いたいことがある。
「皇女殿下。俺に節操がないことは、妻たちからお聞きになっているであろうとおりです。ですが、お相手が王族であろうと平民であろうと、俺は等しく種付けしますよ。人としての価値は、身分にかかわらず同じだと思っていますので。やたらと身分を振りかざすのは、ご自分に自信がないからなのでは?」
こんな中世的社会で、現代人権論を説いても仕方ないことはわかっているのだが、小学校中学校から叩き込まれた精神は、なかなか曲げられない。
いや、同じことをベアトが言ったとしたら、俺は少しもやっとしつつも、言葉を飲み込んでしまうかもしれないな。何かこの高慢な皇女様、俺をイラッとさせる何かを持っていて……この子が口に出すことに、無性に反論したくなる自分がいるのだ。
「な、な……何ですってぇっ!」
メルセデスがゆでダコみたいな顔色になってぷるぷる震えている。だけどそれ以上暴れることもしていないのは、彼女の忍耐によるものか、それとも後ろから何かをささやいている女性冒険者のおかげなのか。
「て、帝国皇女に対し、貴方の無礼は許せませんわ。よって命じます、今夜謝罪に来なさい」
「はあ?」
「やまばと通りの『トレント亭』に六時、よろしいわね??」
会食に呼ばれてるのか本当に謝罪を要求されているのか、さっぱりわからないが、悪役皇女の後方でさっきの女性がなぜか一生懸命目くばせしてくれてしている。俺と話したいことが、あるのだろうか。
「はあ、まあ……」
あいまいな返答をするしかない俺だった。
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