第七部 バーデンを守れ
第296話 二歳になった王女
「ちちうえ、おたんじょうび、おめでとうごじゃいましゅ」
「ファニーも、二歳になったね。おめでとう」
「あい、これでふぁにーは、ゔぃーや、れーあのおねえちゃんなのでしゅ!」
季節が秋に差し掛かろうという頃、俺は十八歳の誕生日を迎えた。そして、同じく九月生まれの、ベアトの子ファニーは二歳になった。
親バカ丸出しなようだが、ファニーはますます可愛くなっている。容姿もすっかり整って、まさに絶世の美少女一直線だ。同じ綺麗だという表現でも、陶器人形にも例えられる冷たいベアトの美貌とは違って、活き活きと頬を染めて周囲に幸せを振りまくような、そんな美しさなんだ。ベアトの後継者として国民の前に出したら、絶大な人気プリンセスになることは間違いないだろう。それにしても、ぜんぜんベアトには似てないよな……俺の顔もニコルさんに言わせると「クールで怖ぁい」そうだし、なんでこんなに笑顔が似合う容貌になったのだろう。
そのファニーは、この春からバーデンで暮らしている。それは森人の姫であるフィオから、精霊と意思を通じる術を学ぶためだ。もちろん母親ベアトは皇太女、王都にいなければできない公務が山盛りなわけで……彼女は週末ごとに、陶器人形のような白皙の頬を少しだけ緩めつつ、アデルの転移魔法でバーデンまで翔んでくるという、単身赴任妻になっている。そんなわけで彼女は、ファニーのために王都から乳母と侍女、そして家庭教師や料理人なんぞを合わせて二ダースほどの人材を送りつけて来て……そのクールフェイスから想像がつかないほど、ベアトは過保護な甘母なのだ。
まあ、バーデンにはヴィーとハルト、ニコルさんの子マリー、そして養子レーアが、一緒に育てられている。結局のところファニーもその中に放り込むのが一番効率よくて……送られてきた過剰な人材は、俺の子供たちで固められた託児所もどきで、まとめて働いてもらっている。そういや元世界で子供だった頃は、近所の子がみんなお隣の家に預けられて……なんてこともあったっけ、そんなノリもまた楽しいよな。
オークジェネラルの血の影響ですでに七〜八歳のような体格になり、知性の成長も恐ろしく早いレーアは、自分が「みんなと違う」ことを賢く認識し、いつも控えめに振る舞っている。そんな中で半年だけだけれど早く産まれたファニーが「私はお姉ちゃん!」というお山の大将的な意識に目覚めるのは、ごく自然なことだった。たった今も、自分が一番早く二歳になったことに、フンスと鼻息を荒くしている。
母親譲りの勝ち気をすでに発揮しまくっているヴィーとうまくやれるのかちょっと心配だったけど、そこはまったく杞憂だったようだ。「ふぁにーおねえちゃま!」と声を張り上げつつ、わずか半年だけ大人に近いファニーを追っかけ回すヴィーの様子に、俺の頬も緩まざるを得ない。
「おねえちゃま、きしごっこをしましょう」
父親たる俺との「騎士ごっこ」に飽きたのか、最近ヴィーのトレンドは、ファニーとの「騎士ごっこ」……結局騎士からは離れられないんだな。悪者に襲われるファニー姫を、騎士ヴィルヘルミナが守るというベタな設定だが、なぜだか二人ともやたらとこのシナリオが気に入って、毎日のように勧善懲悪劇を絶賛上演している。俺はといえば、騎士の誓いを捧げられる王様の役目から、姫をさらおうとする盗賊の親玉に格下げされ、出演を強要されているというわけさ。
「えいっ、わるいとうぞくめ、たいさんしなしゃい!」
「うわあ、やられたあ〜」 これは俺だ、やや棒読みなのは、勘弁してほしい。
「ひめしゃま、ごぶじでしゅか?」
「ええ、ちゅうじつな、きしのおかげでしゅね。ほうびを、とらしぇましょう」
「ありがたき、しゃやわせ!」
まあ、二歳と一歳半が演じる寸劇としては、なかなか賢くて微笑ましいものじゃないかな。
ああ、ひょっとしてこれは、この子たちの未来につながる光景かもしれないなあ。
魔法を使えないというでっかいハンデをしょってはいるけど、次期女王ベアトの後継は、順当ならファニーになる。そして、女王に害をなそうと次々襲う敵を力で排除するのは……どう見てもその筆頭はヴィーの役目になるよな。王室を支える侯爵家の正統な後嗣であり、大陸最強の光属性を持っているのだから。
どうか、そのまま仲良く……成長したらベアトとグレーテルのように、互いを尊重しあい慈しみあう関係になってくれると嬉しいな。男を共有するのは、できればやめてもらいたいが。
「あ、ずりゅい、わたしも!」
「なかまにいれて!」
二人が揃って声を上げて指差す方向を見れば、レーアとマリーに挟まれて、我が息子ハルトが、ヘラヘラと笑っている。まあ、両手に花で、ご満悦ってところだよな。
「はるとしゃまから、きもちいいのが、ふわあっときましゅ……」
「ファニーさま、ヴィーさまも、おいでください!」
レーアが誘うと、駆け寄ったヴィーはハルトの背中にぴとっと張り付いて、うっとりと何かを味わっている。一方ファニーは前から抱きついて、胸に顔をぐりぐりと押し付けて……その匂いをくんかくんかとまるで仔犬のように、確かめているようだ。
「あんなところだけ、ベアトに似ちゃったんだね」
そう口にしつつ俺が振り向いた先には豪奢な金髪と、白皙の頰に翡翠色の瞳。俺の可愛い、犬系正室様が少し目尻を下げて、優しく微笑んでいた。
「何を言う。ハルトの方こそ、父親そっくりではないか」
そう。俺の残念な息子は、女の子たちに囲まれ、幸せそうにヘラヘラと笑っていた。この子の将来、不安しかないよなあ。
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