第22話:会いに行く?




 ロドルフの説明を聞き終わったアレクサンデルは、セシリアへと体ごと向きを変えた。

「セシィ。僕は魔女に会いに行こうと思う」

 突然の宣言に、セシリアだけでなくロドルフも驚く。


「だから明日、僕は会いに来られない」

 真剣な表情のアレクサンデルに、セシリアは心配そうな顔をし、ロドルフは苦笑する。

「アレク、魔女の居場所は知っていますか?」

 ロドルフに指摘され、アレクサンデルは「あっ」と呟く。


「それに、夜の外出を許可も取らずに出来るとでも?」

 今は公爵家の敷地内へ抜ける通路を、誰にも見られずに使用しているから王城を出る事が出来ていた。

 王太子が護衛も無しに、しかも夜に外出するなど出来るわけがない。

 ロドルフの言うことはもっともだった。


 見た目はともかく、夜のアレクサンデルは13歳の少年なのだ。

 まだ勢いで物を言い、思い付きで行動しようとしてしまう。

 それは今の王太子には無い良い面でもあり、悪い面でもある。



「何か、夜にしか出来ない外出理由……しかも、昼間の僕には気取られないように」

 アレクサンデルがしばらく考えていたが、何も思い浮かばずに溜め息を吐き出した。

 皆が何も思い浮かばずに、重い空気が室内を埋める。

 自分が一人で行こうかと、ロドルフが提案しようとした時、セシリアが両手をポンと叩いた。


「私と月光花を見に行きましょう!」

 明るい笑顔でアレクサンデルを見る。

「夜にしか咲かない花が植物園にありますの! 月光花の季節だけ夜も開いてますし、予約制なので王太子が夜に行っても安全です」

 にこにこしているセシリアは、アレクサンデルとのデートも出来るので嬉しそうだ。


「王太子を驚かせたいから内緒に、と言っておけば昼の王太子にはバレないでしょう」

 ロドルフもセシリアの案を受け入れる。

「魔女は、国家魔術師に責任を持って連れて来させましょう。夜の王城や公爵邸で会うのは無理ですが、植物園で会うのは有り得ますからね」


 説明を聞いたアレクサンデルは、パァと表情を明るくし、セシリアへと顔を向ける。

「デートだね!」

 真面目に考えなければいけない事は山積みである。

 しかしそれでも、それ一辺倒になってしまったら、アレクサンデルもセシリアも疲れて潰れてしまう。


 何を着て行こうかと笑顔で相談する二人を見て、ロドルフが優しく笑っていた事に、お互いしか見ていなかった二人は気付かなかった。




 はたして。

 その後驚くべき速さで『夜のデート』が決定した。


「最近交流が無いのにセシリア様は心を痛めており、邪魔の入らない状況でお話がしたいそうです。先に言ってしまうと王太子殿下は拒否されるかもしれませんので、絶対に伝えないように」

 友人でもある国家魔術師と、セシリアの兄フェリクスを呼び出したロドルフは、当日の計画を二人に説明した。


 まだ夜のアレクサンデルの事は、アレクサンデル、セシリア、ロドルフの三人だけの秘密だった。

 夜と昼で人格が違うなど、王太子から降ろされる可能性もある瑕疵かしだからだ。


 魔女に話を聞いて、今の状態が固定してしまうと判明したら、自分はどういう判断を下すだろうか。

 三人とも、お互いには口にしなくても、ふとした時にその事を考えた。



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